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謎の少女、その本性

「…………」

「あ、さっきの」

イリーナは気怠さが抜けたのを確認すると、クラルの部屋を出た。そこにはこれまた奇々怪々な家具が並ぶ居間があった。全て原材料が何なのかさっぱり分からない物ばかり。形から用途が何となく推測可能な物から、もはや何のために使用するのかさっぱりな物まで。千差万別ってやつか、とイリーナは一人ごちた。

そして、そこにはさっきの赤っぽい髪をした少女が居た。ソファーらしき物に寝そべりながら、携帯ゲーム機をいじっている。

彼女はクラルとは違い、なんだかおかしい格好をしていた。なんというか……どっかのロボアニメのパイロットのような、そんな服装。素材がよく解らないような、伸縮性のありそうな赤い全身タイツ。一応、袖の無いジャンパーらしいものは羽織っているが、それでも彼女から発せられる違和感は隠しようがなかった。

(確か……アルマっていったっけ)

「アルマちゃん? アタシはイリーナっていうの、よろしく」

「…………」

無反応。

こちらに視線すら向けようとしない。握手しようと差し出した手が、虚しく宙を泳ぐ。

(……な、なんなのこの子……礼儀ってもんがなってない……)

ロボットにそんなものがあるのかは知らない。イリーナは今まで人間として振る舞っていたし、ロボットだからと言って何か特別な事があるわけでもなかった。なので、これがロボット流の礼儀なのか、というとんでもない思考にはまってみる。

いや、姉(?)であるクラルはちゃんと礼儀正しかった。そんな特別な事はないだろう。

「アルマちゃ~ん? 聞いてる~?」

どこか怒りが込み上げてしまい、それが声に表れるのが分かる。

「…………」

「こ、こんのクソガキ……黙っていりゃあシカトばっか……!」

なんかもう色々嫌な気持ちが涌き出てきて、もう殴ってでもこちらを意識させようか思ったところで、クラルが出てきた。彼女は相変わらずの笑顔をこちらに見せ付けると、

「すいません。この子ちょっとコミュニケーション能力が低くて……そっとしておいてください」

「だとしても挨拶くらいできるようにはしておいた方がいいわよ?」

「本当にすいません。まぁ、この性格にも色々とワケがありまして……」

「ワケ?」

イリーナは訝しげな顔で聞き返す。

「はい。性格……というか、そもそも彼女には感情がありません」

「感情がない……?」

「いや、あるにはあるのですが……僅かな喜怒哀楽くらいしか、彼女は思考することが出来ません。感情の振れ幅があまりにも小さいせいで、私達にはいつも無表情にしか感じられないのです」

「なにそれ。なんでそんなことになってんのよ。ロボットなんだから生まれつきの障害とかでもないでしょうに……」

「いいえ。彼女はあるべき仕事のために、このようなプログラムを積んでいるだけです。彼女が居なければ、私達は生きていけません」

「…………?」

ワケが解らず、イリーナは首を傾げる。

「でも、よく見てください。感情が無いわけではないのですから、ああやって微かに笑う事もあります」

もう一度イリーナはアルマの方を見る。

アルマはゲーム内で何かを達成したのか、ほんの少しだけ口の端をつり上げていた。

「…………わかりづらっ」

「でも、可愛いじゃないですか。私の妹ですし」

「大体その妹ってのもどういう仕組みでそう名乗ってんのか分かんないのよ」

「妹は妹なんですよ」

「ハァ……」

とりあえず頭がごちゃごちゃになっている事だけは解る。というかそれしか解らない、という状態のイリーナだった。


――――――と。


「…………!」

アルマが、何かに気付いたように顔を上げる。相変わらずの無表情だが、僅かに驚きの感情が見え隠れしている。

「どうしたの、アルマ? 来たの?」

僅かに頷く。

彼女は携帯ゲーム機を机に置き、落ち着き払った様子で居間を出ていった。イリーナが気になって後を追うと、アルマはエレベーターのような物に乗り、天井に開いていた穴から何処かと消えてしまった。

「どんな構造してんのよ、この家……ていうか、あの子一体どうしたの?」

「さっきも申し上げました通り、『お仕事』です。地上の発電搭に、カルネイジが接近してきたんです」

「カルネイジって……まさか、あの子一人で戦うの?」

「……正確には、あの子はほんの一部に過ぎません。この発電搭の防衛システムの、一部」

またワケ解らなくなってきたよ、とイリーナは内心呆れ果てながら溜め息をつく。

それを見兼ねたのか、クラルは苦笑いすると、

「じゃあ、少し覗いてみますか? あの子の戦う姿を」

「え?」

悪戯っぽく笑うクラル。イリーナは、彼女を訝しげに見つめるしか出来なかった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「………………」

エレベーターから降り、アルマはいつもの席につく。

そこは、空き缶をそのまま大きくしたかのような、円柱状の部屋だった。壁には所狭しと精密機器が配備され、灯りは機械の状態を示す無数のランプしか頼りに出来なかった。

彼女は一応の為に羽織っていた袖無しジャンパーを席の後ろに掛け、静かに目を瞑る。

すると、彼女の状態に反応したかのように、壁から太めのケーブルのような物が伸びてくる。

そして。

彼女の背中から、まるで翼のような、どこか近未来的な銃にも見えるような物が展開されていく。

合計四本。それらに、一本の翼につき二本のケーブルが接続されていく。ガチャガチャ、と無機質な音を立てながら、彼女は壁の機械と統合されていく。

やがて、全ての準備が整う。彼女の瞳に感情がこもり、椅子に座る彼女の身体にも力が入る。

「……アルさん、今日も頑張るよ。見ててね、姉さん」

先程まで無口だった彼女の口から、独り言がこぼれる。

そして。

彼女の頭の中に、いつもの画面が表示される。



――――――システム同期率、100パーセント。迎撃システム『-Arma-』起動。



「えへへっ、ひひっ」

アルマの脳内を、目まぐるしい程の情報が駆け巡る。その中で、彼女は幾つかの情報に注目する。

搭を囲う壁に、360度設置されたカメラ。その他に、空中から戦場を視認するカメラ。

つまり、彼女は頭の中で、広い戦場を全て監視している。

そこには、無数の巨大な(あり)がいた。黒光りする身体に、所々赤色の模様が入っている。何十匹かのグループを数え切れないほどに構成し、結果として何千匹単位で襲ってくる昆虫型のカルネイジ。

(――――――また、蟻型の群れかぁ……弱っちいクセに諦めないなぁ……)

ハァ、と。

アルマは、小さく溜め息をつく。

(でも。馬鹿なお前たちがこうやって襲ってきてくれるお陰で……)

その瞬間。

彼女は、普段の彼女からは考えられないくらいの大きな笑みを見せる。



(アルさんは、姉さんに誉めてもらえる!! 可愛がってもらえる!!)



アルマが頭の中で意識するだけで、壁の装備は呼応する。

突如、発電搭を守るための壁は、中に隠していた多数の武装を露にした。

電気の力で砲弾を打ち出すレールガン。巨大なレーザービームを柱状にして打ち出すレーザーキャノン。それらはどれもスケールが段違いであり、しかもそれらは壁の至る所から出現していた。

何百という単位で現れる掃討兵器。その全てが、異常進化した蟻達へと向けられていた。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「な、なにこれ……!?」

イリーナは、目の前の異常な状況に目を疑った。

現在、二人はソファーに座りながら、例のごとく半透明の画面で戦場を見ていた。どうやら、戦場には空中を駆け巡るカメラがあるらしく、クラルとイリーナはそれを介して状況を確認していたわけだが。

「スゴい威力でしょう? これが発電搭防衛システム『-Arma-』の力です」

信じられない光景だった。

イリーナがあれだけ倒すのに苦戦した化け物を、アルマは一度に何十、何百という数で撃退していく。

――――――電磁力を利用した兵器、レールガン。

それは縦に並んだ蟻型カルネイジを、まるでホコリを吹き飛ばすかのような感覚で吹き飛ばしていった。

直撃したカルネイジは粉々に、いや跡形もなくなるまで粉砕され、衝撃波を受けただけのカルネイジでさえ身体がバラバラに壊れていく。

――――――イリーナのレーザーライフルと原理は同じハズの、レーザーキャノン。

しかしそれはあまりにも桁が違いすぎた。

極太と呼んでも足りないほどの攻撃範囲。半径で数えても何百メートル単位の太さだろう。それが、東西南北にそれぞれ二門。縦に二つ設置すれば、それだけで壁と同じ高さになってしまう。

もちろん、それを放つにはそれなりのエネルギーが必要だ。しかし、それらは一度放たれれば、一気に戦況を変える代物だ。

どうやら壁は二層構造になっているようで、内側は人間が住む住居らしい。外側は武器が完備されている、いわば武器庫のような感じである。

その外側は回転するようにも出来ているらしく、まるで扇風機の翼のように、巨大なレーザーがぐるぐると回転する。一回転するだけで、殆どのカルネイジを殲滅してしまう勢いだった。

「……ていうか、」

しかし、それ以上にイリーナが気になったのは。



『あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッッッ!! 死んじゃえッッ!! 死んじゃえぇッッ!! きゃっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッッッ!!!!』



アルマの、戦闘中の精神状態だった。

「……キャラ、変わりすぎてない?」

「仕事中のあの子はいつもこんな感じですよ? 彼女自身がシステムの中枢なので、高揚状態の方が良い戦績を残せるというのもあると思いますが」

「高揚じゃ済まされない雰囲気よ……これ……」

明らかに異常なアルマの気迫に、僅かに気圧されるイリーナ。

これはカルネイジ側が浮かばれないな、と小さく呟いた。

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