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恋の確認、現状の確認

――――――私のせいだ。


ヒツユは、そんな風に抱え込んでしまっていた。

「レオ君……ごめんなさい」

「え? どうして……?」

レオは分からない、と言った顔で傍らのヒツユを見る。

二人はアミを連れて、一旦いつもの隠れ家に戻っていた。アミをベッドに寝かせ、彼らはなにもできずに、ソファーに座り込んでいた。

「私のせいだ。レオ君の言う通り、四人で行動していれば……こんな事にはならなかった」

「………………」

「勝手にアミ達の気持ちを汲んだ気になって……結果的にこうなっちゃって……」

「……で、でも……」

「私……どうしたらいいか……もう……!」

とうとう、ヒツユは泣き出してしまった。辛いのは、きっとアミやレオの方だというのに。

「そんな……ヒツユちゃんのせいじゃ……」

レオはフォローに入ろうと声を掛けるが、肝心な言葉が出てこない。

確かにヒツユのせいといえばヒツユのせいにも出来る。しかし、四人で固まっていたとしても、あの惨事を避けれていたとは限らない。もしかしたら、四人全滅していたかもしれない。

それほどの、凶悪なカルネイジだったかもしれないのだ。

「……殺して」

「え?」

「私を殺して!! 全部私のせいだ!! だったら、私が責任を取る!!」

そう言って彼女は立ち上がり、レオにバスターソードを手渡す。その刃先を、自らの心臓に当て、

「私は化け物。だけど、いくら再生するといっても、血を流す心臓や脳が欠けたら死んでしまう」

ヒツユは、僅かにバスターソードを胸に食い込ませながら、

「だから、これで私を殺して!! イライラするでしょ、憎いでしょ、やりきれないでしょ? それを……全部私で晴らしてよ!!」

「そんな……っ!! 出来るわけないじゃないか!! 変な事言わないでよ!!」

レオはガタガタと震えながら、必死に抵抗する。

「なんで……? なんで私を殺さないの? 全部私のせいだよ? 私があんな事を言い出さなければ、あのタイミングででしゃばらなければ、みんな助かったかもしれないんだよ?」

ヒツユは頬に伝わる涙を拭おうともせず、声を震わせて呟く。

「二日前くらいに来た私の事を受け入れてくれて……でも、最終的にはこんな事になっちゃって……。私は死神だ、疫病神なんだ。イリーナ達も居なくなっちゃって……レンも死んじゃって、アミも壊れちゃって……私の存在なんかなければ、こんな事にはならなかったんだ」

分かっている。

このタイミングで泣き言を言うのは、ヒツユではない。

本来ならば、レオを慰めなければならない役なのに。

けど。

どうしても、自らのせいにしなければ、ヒツユは押し潰されてしまいそうだった。

こんな事なら。

大人しく、実験のサンプルになったままでよかったのではないか。

腕を切り飛ばされ、脚を引き千切られていたとしても。

それが、もしもカルネイジを掃討するために必要な事だったとしたら。

自分が直接降りてくるより、何倍もよかったのではないか。

(……先生)

ヒツユは、過去を思い出していた。

忌まわしい実験を繰り返していた、あの日々。

(……私は、次は何処を提供すれば……いいんですか? 腕? 脚?)

ヒツユの細胞を研究し、カルネイジを研究するための実験。

(いいんです。……私の痛みが、化け物を倒す手掛かりになるのなら……)

そのためなら。

(そのために、化け物を倒すために化け物を研究したって……何もおかしくはない、ですよね?)



「ヒツユちゃん!!」



気付けば、ヒツユはレオに抱き留められていた。

「……ぇ……」

「前に言ったよね、僕……」

ヒツユはその温もりを信じる事が出来ず、無意識に何回も瞬きを繰り返していた。

こんな温かさ、実験の時には経験したことがない。せいぜい、自らの手足を切り飛ばすための刃物の、絶対的な冷たさだけだった。

だけど、彼は言ってくれた。

「――――――君は死なないでよ、って」

「――――――――――――!」

何故か。

彼は、ヒツユにとって窮地に現れるヒーローのようにも見えて。

颯爽と現れる、白馬の王子様みたいにも見えて。

言葉には言い表せないけど、とっても、とっても、輝いて見えた。

いつもは気弱だけど、彼には絶対に折れない芯が通っている。どんなときでも自分を見失わない、そんな固い芯が。

以前、ヒツユは彼に『大好き』と言った。友達的な意味合いで、絶対に信用が置ける、という意味合いで。

だけど。

今は、別の意味で『大好き』かもしれない。

それは言葉には出しにくくて、何故か小恥ずかしくて、頑張って言っても、以前の意味と同じく捉えられるかもしれないけど。

それでも。

「……だ、」

「だ?」

レオが疑問形で反復する。

こういう時は意味もなく鈍感なのは、何故なのだろう。

「……フフッ」

でも、いつもの私でいいのかもしれない。そんな風に、ヒツユは考え出した。

無理に捻り出さなくても。

自然な感じで。



「――――――大好きっ」



「……ぁ、」

次の瞬間、レオの鼻から赤い液体がボタボタと垂れだした。

抱き留められているため、ヒツユは気付いていない。レオは少し冷静さを取り戻すと、

「……ブハボッ!?」

やっぱり止まらなかった。

盛大に鼻血を噴き出したレオは、そのまま出血多量で意識が朦朧としてしまい、ヒツユに寄り掛かってしまう形となった。

「れ、レオ君……大丈夫?」

「……らいじょうぶ……じゃない、かも」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「この画面を見てください」

クラルは空中で指を動かし、半透明の画面をイリーナの前へと移動させる。

「これって……断面図?」

そこには、恐らくこの街周辺であろう断面図が表示されていた。

地面を境にして、それぞれ違う形で発展している。

地面より下は、まるでティッシュ箱を横から見たかのような形の空洞。地面より上は、天を突き抜ける程の高さを誇る搭。それを囲うように、まるで壁のようなものがある。

「この空洞に、私達の街はあります。先程も言ったように、住人は全てロボットです」

「さっきの女の子も?」

「さっきの?」

「なんか髪が赤っぽい色した子よ。中学生くらいの」

「あぁ、アルマですね。あの子は私の妹です」

「妹? 随分違う顔してたけど、本当に姉妹なの? アンタの髪は真っ黒だし」

「人間じゃないんですから、そんなの関係ありませんよ。私達が姉妹になりたかったからなった、それだけです」

「……?」

イリーナはワケが分からず、首を傾げる。そもそも、この街で姉妹とはどんな関係なのだろうか。血縁関係とかは無いだろうから、気に入った者同士でなっているのだろうか。

「まぁ、おいおいお話ししますよ」

クラルは少し笑ってから、話を戻した。

「私達は基本充電式で動いています。一人一人に供給されるバッテリーパックを、三ヶ月に一度交換するんです。電気が無くなったバッテリーパックはこの搭で再充電されて、再び私達に供給されます」

「搭で再充電って……その搭はそんなに膨大な電力を永久的に溜め込めるの?」

「溜め込んでるというより、毎日電気を作ってるんです。この搭は、いわば巨大な太陽電池なんです」

「太陽電池?」

「えぇ。太陽光パネルで表面を覆って、毎日膨大な電力を生み出している。私達の生命線です」

つまり、この搭は街全体が消費する三ヶ月分の電力を生み出し、全てのバッテリーパックに供給している。バッテリーパック内電力が無くなるのは、ちょうど三ヶ月後。その時には、また三ヶ月分の電力が搭に溜まっている、という仕組みなのだ。

「永久機関ってことじゃない。こりゃまたとんでもないモンがあるわね、地上には」

「一応電力には余裕があるので、新しくロボットを匿っても大丈夫なんです。なので、私はあなたを助けた。これからイリーナさんの身体を多少改造させていただいて、この搭の充電システムに対応させてしまいます。そうすれば、あなたもこの永久機関の仲間入りです」

しかし、イリーナは首を横に振る。

「あいにくだけど、アタシはこのままでも大丈夫。アンタらみたいに充電式でもないし、外部供給がなくても生きていける身体だから」

「……どういう事ですか?」

「さっきの説明に倣えば、アタシは体内に永久機関があんのよ」

「え!? 詳しく教えてください!!」

先程まで冷静で温厚そうだった彼女が急に、はしゃぐ子供のような輝いた目をしてこちらを見つめ始めた。

「えーとね、まぁホントは永久機関じゃないんだけど、私の身体の中には何十年も溜め込んだ電気が詰め込まれてるの。それこそ不用意に扱えば大爆発が起こるくらいね。一応は人間の寿命を再現するくらいまである」

「……あ、そういう事ですか。技術うんぬんではなく、ただの物量差ということですか」

「言っちゃえばそうね。まぁ、それこそ超莫大な電力をこんな人形の中に押し込めるくらいの小型化技術はあるわけだけどね」

明らかに落胆した感じのクラルに苦笑いするイリーナだったが、そこでふと説明されていない部分が気に掛かった。

「ねぇ、この壁は何? 発電のための搭をカルネイジから守ってんの?」

「そうですね。一応は寄宿施設としても使用していますが」

「はぁ? こんなとこに誰が泊まんのよ」

「寄宿というより、住宅でしょうか。逃げ場の無くなった人間を、ここで保護しているのです」

「保護? どうみても生命線である搭のための身代わりじゃない」

「実際そんなものですね。……というか、なかなか察しがいいですね」

一応、イリーナにも勘というものがある。戦闘経験があるためか、そういう類いの配置には察しがつく。

「人間を盾にしてロボットである自らを守る……か。なんだか可笑しいわね」

イリーナが小馬鹿にしたように笑うと、クラルは同じように笑い、答える。


「いいじゃないですか、あんな下等生物。ロボットである私達の方が優先されるのは、当然の事です」


「……は?」

イリーナは、口をポカンと開けてしまった。

「なにそれ。ちょっち人間を馬鹿にしすぎじゃないの? アンタ達を造ったのは、紛れもない人間でしょう?」

「何言ってるんですか。自らの欲望もまともに制御出来ない生物なんて、下等生物としか呼べないでしょう。他になんて呼べばいいんですか?」

「…………そういうことね」

イリーナは、小さく溜め息をついた。

ロボット達は自分を完璧に制御出来る。そこから人間を馬鹿にしているのだろうが、これではまるで人間でいうところの人種差別だ。というより、種族差別である。

(人間の肩を持つわけじゃないけど……アタシもまだ、ロボットになりきれてないからね……)

少し落胆するイリーナ。驚く事は沢山あるが、とりあえず分かった事がある。

それは、ロボットは『思考』が完璧になっても、『思想』が完璧とは限らない、という事だ。

もちろんクラル一人を見ての意見であるため、この街の住人全員がこの思想とは限らない。しかし、こういう意見を持つ者もいる。

なんだか偉くなったような物言いだが、今だけはそう思った。



――――――アタシをロボットに仕立て上げた連中と、何の変わりもない。



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