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掃討

――――――バスターソード。



一般的にはマイナーな武器。その桁外れな重量と扱いにくさからすれば、あまり需要が無いのも頷ける。

全長は、小さなモノでも1m、大きくなると2mを超すものも出てくる。重量も長さに比例して増加していき、軽いものでも人の手に余る程はあるとか。

そんな知識は誰でも持っている。

だから。

だからそんな知識を持っているイリーナは、未だに目の前の光景を信じられずにいた。

無理もない。自分より身も心も幼いヒツユが、自分では絶対に扱えないであろうバスターソードを、軽々と振るっているのなら。

「よいしよっ!!」

ドバン!! という轟音。切る、というよりは叩きつける、と言った方がニュアンスは近いのではないだろうか? 何メートルも飛び上がったヒツユは、高く振り上げたバスターソードを、まるでバットを叩きつけるかのように、猿型カルネイジの脳天に降り下ろす。

そんな一撃を喰らえば、絶命は免れない。カルネイジは脳天をぶちまけ、気持ちの悪い内蔵を辺り一面に拡散させる。

まるで漫画の主人公のような無双っぷりに、イリーナはしばらくなにもできなかった。

「次ィッ!!」

飛び掛かってくる猿型カルネイジをその薄茶色の瞳で見定めたヒツユは、円を描くように、自身を支点にしてバスターソードを振り回す。周囲に存在するカルネイジを薙ぎ払い、それと同時に絶命させた彼女は、そのままの勢いで再び群れの中へと突撃する。

その大剣を片手に持って。

軽いものでも人の手に余る程はあると言われる、そのバスターソードを。

(オイオイオイオイ……オカシすぎるでしょ……!! あんな小さな()が……!?)

『切る』ことに特化したそのフォルムは、猿共の血飛沫を浴びてもなお、輝きを失わない。

元々の刀身の色が、血で染めたような赤色だったからだ。それ以外の部分は黒を基調としたカラーリングで、銀色の群れの中ではそれが、一段と色濃く見える。

大きさ、長さ的にあれは中型のバスターソードだろう。重量は50kgほどだろうか。あの長さから考えると、それくらいが妥当である。

先述した通り、最近はバスターソードも軽量化されており、威力を犠牲にする代わりに誰でも持てるような重量(それでも相当の重さだが)になっている。

しかし、彼女の紅いバスターソードは違う。

あれは初期の型をカスタマイズし、より威力を重視した、重量など全く気にしていない、化け物しか振るえないような大剣だ。

「イリーナ!!」

「ふぁ、あ、何!?」

「後ろ――――――あぁ、もう!!」

焦れったそうに言うヒツユ。次の瞬間、彼女はイリーナの頭上へと跳んでいた。先程と同じ様に大剣を天高く振り上げた彼女は、回転しながらイリーナの後ろへと降下する。

今にもイリーナに牙を剥きかけたカルネイジを、真っ二つに両断しながら。

「キャッ!?」

ドバッ、と思い切り鮮血を浴びたイリーナは、そのまま不意に倒れこむ。

「うおおおおおおりゃあああああああああああああッッッ!!!」

明らかにふざけたような気楽さを垣間見せながら、ヒツユはもう一度突撃していく。二百匹いた猿型カルネイジは、既に4分の3程が真っ二つか、グシャグシャに潰れた肉塊と化していた。

「次々ィ!! 弱すぎるよッ!!」

恐い。

イリーナは、そんな風に感じ始めていた。

なんだか、目の前の少女が、人間離れしすぎていて。紅く輝くバスターソードを、人間に手に余る巨剣をこんなにも簡単には振り回すこの少女が、自身の常識の範疇を軽く超えていて。

こんなの。


こんなの、どっちが虐殺者(カルネイジ)か分からないじゃないか。


「ぃ、よいしょっと!!」

地面を揺すぶるかのような衝撃。それと共に、イリーナは我に返る。

「ぁ……」

そこには、無数の屍。約二百匹、ありとあらゆる切り方、または潰され方で殺されていた。

殺ったのは、目の前で疲労感たっぷりの溜め息をついた少女。

その茶髪のショートヘアー。その胸下までしかなく、袖のない青めのパーカー。その中に着ている横縞のシャツ。短い黄土色の短パン。濃い紺色のニーソックス。その全てを血に染めた少女、霧島(きりしま)日露(ひつゆ)が、この地獄を作り出したのだ。

彼女とイリーナの周りは、ただただ赤い液体で塗り潰されていた。まるで自分達を中心にして天から赤いペンキを叩きつけたかのように、アスファルトや廃れたビルの壁は燃えるように染まっている。

そんな事は目に入っていないのか、ヒツユはまったくもって気にしない様子で、イリーナの腕を掴む。

「ほら、私だって強いでしょ?」

手にも血が沢山こびりついており、その手を握った瞬間、ベチョリという気持ち悪い音がした。

「あ、えぇ……そ、そうね」

立ち上がる。冷静になって考えてみれば、これが地上での『普通』なのだ。数年前の『地上』は、こんな風景などお遊びに見えるようなモノだった。

少なくとも、イリーナが見たものは。

大事な人が失われた、あの時に比べれば。

「……スゴいわね、あなた。こんなクソ重い大剣振り回すなんて」

「でしょ? ふふーん、私サイキョーなんだから」

頬を染め、腰に手を当てながら小さい胸を張るヒツユ。先程まで殺戮を行っていた少女とは思えない程の素直な喜びように、イリーナは思わず疑問を抱く。

(この子……なんでこんなものを振り回せるのかしら? 特に筋肉が発達してる様子はないし……年相応の身体してるだけじゃない……)

事前に貰ったデータでは、彼女は確か14歳。体重、身長共に気になるところは無かった。

「ね、イリーナ。このあとどうするの?」

「ア、アンタねぇ、ちゃんと知らないでここに来たの? いくら『徴兵令』で集められたとはいえ、最低限の情報は提供されてるハズでしょ?」

すると、ヒツユは僅かに考え込むように頭を俯ける。しかしすぐに顔を上げると、

「……だ、だって先生の話よく分かんなかったんだもん。イリーナ、分かりやすく教えてよ」

「はぁ……まぁいいわ。とりあえずその建物の中に入りましょ。せめて休憩する場所くらい確保しないと。アンタもアタシも、カルネイジの血でベトベトじゃない」

建物、といっても異常な程ボロボロに破壊されたビルなのだが、見たところ一番被害が少ないのはここしかない。一応、倒壊の危険性は無さそうだ。

「うんっ」

そう言って、ヒツユはバスターソードを肩に掛けたままビルの中に走っていった。

(……色々引っ掛かるけど……ま、聞いてみればいいか)

あれだけの力を持っていて、この無邪気さ。こういう力を持った少年少女は大体調子に乗ったりするものだが、彼女からはそれがあまり感じられない。

しかし、ヒツユは色々隠している事がありそうだ。イリーナは、そんな事を小さく呟いた。

まず、あの怪力。そして『徴兵令』で集められたとはいえ、14歳という異例の若さ。

「……あぁ、あとそういえば」

ヒツユの、瞳。



彼女の左の瞳は、何故紅く輝いていたのだろうか?



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