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認められない現状

イリーナは目を覚ました直後、赤っぽい髪色の少女へと向かって問い掛けた。

「……誰よ、アンタ」

少女は答えない。

感情の抜けた瞳で、こちらを見下ろしてくる。

イリーナは現在、ベッドの上で寝転がっていた。何故そうなっていたのかも分からない。

(……あれ、そもそもここって何処?)

そんな思考に取り付かれていると、不意に少女が視界から消えた。どうやら、どこかへと去ってしまったようだ。

「あ、ちょっと」

起き上がろうとするが、身体が動かない。妙にキツい怠さに襲われていて、重みを身体全体に感じる。意識も、軽く朦朧としていた。

と、何故か首に涼しさを感じた。日常的な温もりが消えたような、そんな涼しさ。

手をやってみると、いつも身に付けている赤いマフラーが無い。ハッとしたように目を見開き、勢いよく起き上がる。先程までの倦怠感が嘘のようだった。

(ウソ!? 一体何処に……っ!?)

すると、ようやく彼女は周囲へと目を向けた。

そこは、近未来的な空間だった。女性の個室のようで、所々に可愛げな部分があったが、やはり近代感は拭えない。

部屋自体は白を基調としたカラーリング。ベッドと対になる場所には机、後は小さなテーブルなど、まるで一人暮らしの個室だった。空中に、幾つもの半透明な画面が表示されている以外は。

「え、ちょ……なにこれ!?」

まるで見たことの無い代物ばかり。映画などで見るような幾何学的な物が幾つも並べられていた。

イリーナは好奇心で色々と触ってみたくなるが、マフラーが消えている事を思い出す。

その時。

まるで空気が抜けるような、プシュ、という音と共に、誰かが部屋へと入ってきた。イリーナは警戒心から僅かに身構えるが、入ってきた人物の声を聞いただけで、無意識に気が抜けてしまう。

それは女性だった。しかし、イリーナよりは少し年下そうな少女。

「あら、お目覚めですか?」

その温厚そうな笑顔に、イリーナはどうしても警戒心を抱けなかった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「こ、れって……」

レオとヒツユの二人は、辺り一面に広がる血を凝視しながら、半歩後ずさる。

鳥型カルネイジに勝利し、上機嫌で凱旋した二人を迎えたのは、あまりに残酷な光景だった。

まるで大爆発でも起きたかのように、血が円形に飛び散っている。

そして、その先には。

「お、姉ちゃん……お姉ちゃん!! レンさん!!」

レオは、泣き叫びながら一目散に駆けていく。

そこには、無惨に腹から血を出して横たわっているレンと、女の子座りをしながら茫然自失しているアミが居た。

「レオ君……!」

ヒツユも、レオに続いて駆け出していく。

「お姉ちゃん!! 一体何があったの!? なんでレンさんが……!!」

「………………」

アミは俯いたまま、喋らない。ピクリと動く事もせず、ただ下を向いているだけ。身体に、力すらも入っていなかった。

身体は火照っているから、死んではいない。あまりのショックに、反応すら出来ないのだろうか。

レオは、彼女の血塗れのワイシャツ越しに彼女の肩を掴むと、乱暴に揺さぶりながら叫ぶ。

「お姉ちゃん!! ちゃんと説明してよ!! 何があったの!? どうしてお姉ちゃんは傷一つ負ってないの!? ねぇ!!」

「れ、レオ君……少しは、静かにしてあげた方が……」

「答えてよ、お姉ちゃん!!」

ヒツユが止めるのも構わず、レオは更に金切り声を上げる。まるで、現実から逃げ出そうとするかのように。真相を確かめようとしているかのように思えて、無意識の所で嘘を期待しているかのように。

すると、アミの肩がピクリと動き出した。

彼女は小さく顔を上げ、しかし俯いたままの状態で一人呟く。



「レ……ン……、死ん……じゃ、…………った…………あ、はは、は…………」



「お姉ちゃん……?」

様子がおかしい。

レオは彼女の顔を覗き込みながら、再度問い掛ける。

「ねぇ、なんで笑ってるの? レンさんが死んだのに……!」

「死、んだ……? うん、知ってる……よ? アミ、最初に見つけたもん……」

彼女が大きく顔を上げた時、気付いた。

泣いている。

笑いながら、笑みを浮かべながら、涙を流している。

イカれたような、笑みを。

「お姉ちゃん……? しっかりしてよ!! 説明してよ!! 誰にやられたの!?」

「あははは……はは、はははは……誰? 誰が……? ……アミ? 男の子? 狐? あれ……? ん……?」

「……レオ君。そっとしておこうよ。落ち着いたら、話を聞けばいいよ」

「でも……!!」

「今の状態で、アミが答えられると思う?」

「……っ」

レオは歯噛みしながら、アミから目を逸らした。

これでいいのだ。この状態では、まともに会話すら出来ない。彼女は錯乱しすぎて、我を忘れてしまっている。

「レン……レン……。 ふふ、あははは……」

彼女はそう笑うと、倒れこんで眠ってしまった。よほど精神的に疲弊したのだろう。

「――――――ッ!?」

しかし。

ヒツユは、その一瞬を見逃さなかった。



アミが瞳を閉じる瞬間、その瞳が紅く染まっていた事を。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「どうぞ。コーヒーですけど」

「……ん、ありがと」

少女は、盆に乗せたマグカップをイリーナへと手渡してきた。イリーナはそれに口を付けると、すぐに飲み干してしまった。

相変わらずイリーナはベッドに入ったままだ。上半身だけは起こしているが、気怠さは先程とはあまり変わらない。

「あ、申し遅れました。私、クラルと申します」

「アタシはイリーナ。アンタがアタシを助けてくれたの? ていうかアタシ確か死んでたハズだけど……」

「ロボットに死んだもくそもないでしょう。私がこちらへ運んできてから、首と身体を接続しなおしたのです」

「く、くそもって……」

礼儀正しく見えても何処か抜けているクラルは、イリーナより一歳か二歳ほど年下のように見えた。艶やかな黒髪のロングヘアーで、少し幼げな可愛らしい顔つきをしている。背もイリーナより少し小さいくらいか。平均的な女子高生、といった感じだった。

服装は、全て白で統一されていた。縦に二本の青いラインが入ったネックウォーマー。袖だけが別になっている、裾の短いTシャツ。こちらも青いラインが入っている。そして、結構短めなスカート。こちらも例に違わず、青いラインが入っている。

下に黒い全身タイツを着ているようで、シャツと離れた袖の隙間や腰、脚から見える部分の色は、全て黒だった。何故こんなデザインの服を着ているのかは、イリーナにはよくわからなかった。

「……ん? ロボット? アンタ、アタシがロボットであることにやけに抵抗がないわね。普通だったら……」

「みんな驚きますよね。『そんなもの存在するわけがない!』という風に。でも、私は驚きませんよ」

彼女は悪戯っぽく笑うと、



「私も、ロボットですから」



「……え?」

一瞬、何の事か分からなかった。

「ですから、ロボットなんです。私も」

「ちょ、ちょっと待って……それってどういう……」

「私だけじゃないですよ? この街の住民はみな、ロボットなんです」

そう言って、彼女は一つの半透明な画面をイリーナの前へと移動させた。ただ画面を空中でドラッグさせただけなのに、どういう仕組みなのだろうか。いや、そもそも空中に画面が浮いている事自体が意味不明なのだが。

その画面には、とある交差点のような場所の映像が映し出されていた。相変わらず近未来的なオブジェクトが多数あり、そこでは老若男女、あらゆる人が動き回っていた。

「まさか……この人達みんなロボットだっていうの……!?」

「はい。ここはロボット達の『楽園』とも言える街なんです」

「街……? ここって地上よね? まだ街なんてものが残って……?」

「いえ、地下です。地下深くに巨大な空洞を造って、私達はそこに街を造ったんです」

「地下……? 街……? あーもう、意味分かんないわよ!」

イリーナが自暴自棄になって頭を抱えると、クラルは優しく宥める。

「落ち着いてください。今から説明しますから」

「お願い。ちょっと混乱しすぎて脳がパンクしそう」

「脳……というより、プログラムですよね? 私もたまにありますよ、そんなこと」

「プログラム……?」

今の訂正にどんな意味が含まれていたのか分からないが、とりあえずイリーナは説明を聞くことにした。

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