表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/111

自由の無い平穏

「ね、レンさん」

「ん?」

先程の痴話が一段落し、レオはふて寝、アミはかなり読み倒されたであろうボロボロの雑誌を読んでいるそんな時に、ヒツユはレンの袖を引っ張った。

「何かやることないかなー?」

「ない」

キッパリと断言すると、彼はソファーの上に寝転がりながらあくびをする。

「えぇ~? 暇すぎるよぅ」

「そんな事言ったって何も無いんだからしょうがないだろう。そこにある雑誌でも読んでればいい」

「あ、どうみてもボロッボロのしわくちゃな雑誌がある……」

「じゃ、おやすみ」

「ちょ、ちょっと~!」

(まぶた)を閉じて眠ろうとしていたレンを叩き起こそうとするが、既に眠りに付いてしまったらしい。ヒツユが身体を揺すっても起きようとしない。というよりは、寝てるフリをして無視しているだけのようだが。

ヒツユは大きく頬を膨らまし、

「……必殺、」

物凄い勢いで彼の腹に飛び込む。

「えくすとりーむぼでぃぷれす!」

「ゴブハッ!?」

ヒツユ特有の脚力を少しだけ活用し、レンの腹に飛び乗る。案の定、レンは苦痛の表情を浮かべながら瞳を開いた。

「こ、殺す気か……!? ゴホッ!!」

「私の話を聞いてよ! 暇とかじゃなくて、知りたいことがいっぱいあるんだから! 決して暇とかじゃなくて!」

「暇なんだろ……」

「まぁ暇っちゃ暇だけどねっ」

「やっぱり暇なんじゃないか」

そんな訳で、レンは話を聞いてくれることになった。アミにも声を掛けようとしたが、雑誌をめくりながら何となくまどろんでいるため、やめた。レオも放っておいたほうがいいだろう、ちょっと機嫌悪いし、なんて事を考えると、結局はレンとのマンツーマンになってしまうのだった。

「レンさん達はさ、これからどうするの?」

「これから?」

「うん。私はもし二人が見付かったら、今まで通りカルネイジの掃討に戻らなくちゃいけないの。けど、レンさん達はそんな事関係ないでしょ? だからどうするのかなーって」

「……一応俺達にも、目的はあるんだ」

「目的?」

ヒツユは首を傾げる。レンは一度溜め息をつき、再び話し出す。


「この近くにな、ロボットだけの地下都市があるらしいんだ。俺達はそこに匿ってもらおうと思ってる」


「ロボットだけの、都市……?」

子供が考えそうなトンデモな言葉を、レンは真剣に説明しだす。

「にわかには信じがたいが……あるらしいんだよ。お前は見なかったか? 地上にそびえ立つ巨大なタワーのようなものを」

「うーん、見なかったけどな……」

「そりゃ見てなかっただけだな。俺達がここに来たとき、タワーのようなものがあった。ロボット達はそこに人間を匿っていて、一応は安全らしいんだ」

「あれ、地下都市じゃなかったの?」

「……話がややこしくなりそうだから、簡単に説明するぞ」

ヒツユの了解を得てから、彼は紙と鉛筆を取りだし、真ん中に一本の線を引く。

「この線より上が地上、下が地下だと考えてくれ」

「うん」

どうやら、このラインは地上地下の境目らしい。

「いいか? ロボット達は、地下に巨大な都市を造り、そこに住んでいる。ちょうどこんな風に」

そう言って彼はラインより下、つまり地下に大きな四角形を描いた。

「ここに住んでるのはロボットだけだ。そして、コイツらは電気で自身の身体を動かしているんだ」

「電気? 電気なんてどこから……?」

「それを説明するのが、さっき俺が言ったタワーだ」

今度は、地上から上に向かって縦長の長方形を描き始めた。横幅に比べて縦幅が異常に長く、如何にも(タワー)といった感じだ。

「高さは雲を突き抜ける程あるというから……富士山を優に越えるだろうな。このタワーはな、表面が太陽光パネルで出来ている。そこから出来る膨大な電力を、全て地下都市に回しているんだ。タワーというか、発電塔とでも言うのかもな」

「すっご……!」

ここ数年、減り続ける資源とカルネイジからの施設破壊を考えた結果、太陽光発電は驚くほど進歩した。変換効率も飛躍的に上昇し、一部では『空中庭園』すら太陽光発電の電力で浮かばせているのではないか、という噂が流れるほどである。

「……けど」

しかし、ヒツユはどこか腑に落ちない部分があった。

「そんな目立つタワー、カルネイジに破壊されたりしないの? 格好の的だと思うんだけど……」

「その為の人間さ」

レンはそのタワーと同じ位の長方形を、タワーの周りに2つ描き出す。しかし、横幅はタワーよりも薄く、まるで『壁』のようだった。

「これは壁だ。これで周りを360度囲む事で、あいつらは発電塔を守っている」

「それと人間に何の関係があるの?」

「……あいつらは、この壁の内部に人間を住まわせている」

「壁の……内部に? 何のために?」

「そもそも、だ。カルネイジは、一体何のために発電塔へ来ると思う?」

「食糧を探しに、とか?」

「正解だ。奴らにとって、発電塔自体は何ら興味を引くものではない。さらに、餌を追い求めて発電塔に近付き、壁を破壊して、もしもそこに奴らの格好の餌である莫大な量の人間が居たら……どうなると思う?」

ヒツユは生唾を飲み込みながら、恐る恐る口に出す。

「……発電塔には、近付かない。餌を食べたカルネイジは、それで満足しちゃうんだ……」

「そうだ。まぁ簡単に言ってしまえば、」

レンの言葉を代弁する形で、ヒツユは小さく呟く。



「発電塔を守るための――――――『囮』……?」



レンは僅かに遠い目をしたあと、

「……そんなトコだな」

「何のためにそんな危険な所に行くの? 死んじゃうかもしれないじゃん!」

「だからって、このまま食糧も安定しないまま暮らすのか? そっちの方が遥かに危険だ」

「囮として生きるなんて……そんな……」

「一応、壁の中じゃあ衣食住は保証されているらしい。他の生き残りもほとんど収容されているらしいし、壁もそれなりに強固だと聞く。少なくともここよりかは安全だ」

レンの気持ちは揺るがない。全員で生き残る為なら、最善策を選ぶのは当然なのかもしれない。

「でも……!」

「……いいか、ヒツユ。もしかしたら、お前の仲間もそこに居るかもしれないぞ?」

「……!!」

そうだ。

確かにその可能性も捨てきれない。明日の捜索で見付からなくても、そこには手掛かりがあるかもしれない。

それに。

彼らがどうしようと、所詮ヒツユには何の関係もないのだ。彼女が彼らに付いていかない限りは。

「この話はレオもアミも納得している。付いてくるかどうかは、お前次第だ」

「………………」

「正直、俺はお前に付いていてもらった方がありがたいと思っている。発電塔に辿り着くまでの間、お前も一緒に戦ってくれれば、レオに掛かる負担も半減されるからな」

「…………分かった」

ヒツユは僅かに躊躇いながらも、決意の眼差しを向ける。


「私、みんなの為に頑張る! みんなの為だったら、私何でもする!」


「……ありがとな」

「えへへっ、頑張るんだぜっ」

照れ笑いながら、そんな言葉を口走るヒツユ。

レンもそれにつられて、小さく笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ