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降下

現在、高度1000メートル。

巨大な弾丸のようなカプセルで『空中庭園』を飛び出した二人は、その高さでカプセル自体をも飛び出す。

「いぃぃいいいいやっっっっっほおおおおおおおおおおおおおぅ!!!」

心の底からこの状況を楽しんでいるヒツユ。それを尻目に、無言で装備をいじるイリーナ。

彼女ら『地上掃討部隊』は、高度1000メートルまで、『発射口』と呼ばれる場所から発射されたカプセルで降下する。そこから、支給された装備の一つである『スカイ』を使用して、彼女らは地上へ降りるのだ。

『スカイ』とは、使い捨ての空中飛行用装置の事である。それ自体はリュックサック程度の大きさで、左右にはジェットパックが装着されている。それを操ることにより、安全に地上に着地することが出来る。

パラシュートを使っていた時代もあったのだが、着地時にカルネイジに襲われた時に即座に戦闘態勢に移ることができないため、次第にこちらへ移っていったのだ。

「気ぃいいいいいい持ちぃぃいいいいいいいいいいいいッッッ!!!」

「ちょっと黙んなさい、うっさいから」

「うほおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」

「……ダメだこりゃ」



と、終始ワケの分からない叫び声を上げていたヒツユは、地上に落ちたとたんに地面に転がった。叫ぶことによって疲労感を募らせたのか、ゴロゴロと転がったヒツユは仰向けになったまま、そこに留まったままだ。

少し遅れてキチンと着地したイリーナ。彼女は呆れ気味にヒツユに近付き、その腕を掴む。

「ほら、立ちなさい。そのままだったらカルネイジが寄ってくるわよ」

「え、へへ……疲れちゃった……」

ヒツユは照れ臭そうに舌を出す。地上に来たっていうのに随分気楽ね、なんて口走るイリーナは、その口元に僅かな笑みを浮かべた。

「もうじき武器も飛んでくるはずよ。アタシのみたいな銃火器は大した重さはないから、そのまま持ってこれるけどね」

そう言ってイリーナは次世代的なフォルムの銃を取り出す。普段は腰にあるホルスターに入れてあるようだ。

漆黒に染められた流線的なフォルム。恐らく、彼女用に色々調整がしてあるのだろう。

「カッコいいー!」

「武器は見た目より性能よ、ヒツユ。見た目ばっかりカッコよくて弱い武器なんか、全く意味ないの」

「へへっ、でも私のなんかカッコいいし強いんだからねっ」

「ふーん。アンタって確かバスターソード使うんだっけ?」

バスターソードというのは、ソード類の中でも屈指の巨大さを誇るカテゴリだ。とても目の前の少女に扱えるとは思えないが、武器として支給されているからにはそれなりに扱えるのだろう。

最近は軽量化も進んでると聞くし、大丈夫だろう、とイリーナが考えた時。


「イリーナ、後ろッ!!」


「分かってるわよ」

刹那、イリーナは身体を動かさずに銃口だけを後ろに向ける。ニヤリと彼女が笑った時には、既に引き金は引かれていた。

「ギィィィイイイイイイイッッ!?」

悲鳴。

それと同時に、普通の鉛玉を打ち出すのとは全く別の射撃音が炸裂する。ブルーブラックのレーザーが、襲撃者の胸元を抉る。

それもそのはず、彼女の銃は、

「それって……レーザー銃なの!?」

「鉛玉なんかじゃなかなか倒せないでしょ。実弾じゃ弾切れ起こすし」

撃たれた胸から青黒いラインを引きながら、襲撃者は弾き飛ばされる。二転三転とアスファルトを転がったそれは、赤い血を流しながら息絶えた。

「きったないわね……この汚ザルが」

飛び散った血を拭いながら、彼女は殺気だった目で睨み付ける。

襲撃者は、1mより少し大きい程度の猿だった。しかし地上にいる動物に普通な個体がいるわけがない。

したがって、これは。

「猿型の……カルネイジ?」

ヒツユがそう呟いた瞬間、彼女のすぐ横を青黒い光線が突き抜けた。頬がチリチリと焼けるような感覚がヒツユを襲う。頬の数センチ横を光線が突き抜けたのだから、当然と言えば当然なのだが。

それはさておき、彼女の後ろからは先程と同じ断末魔が聞こえた。こめかみにへばりついた血の生暖かさを感じる頃には、既にイリーナに手を引かれていた。

「アタシと離れちゃダメ!! アタシの後ろに付いてなさい!!」

気付けば、二人の周囲には猿型カルネイジの大群が集まっていた。体毛は濃い銀色、瞳は紅く輝いている。瞳が紅く輝くのは、カルネイジである証拠らしい。というか、カルネイジの瞳は全て紅いのだ。

「う、うんっ」

ヒツユは急いでイリーナの背中に自身の背中を合わせる。イリーナに比べてヒツユは圧倒的に背が低いため、背というよりは腰と合わせている感じだが。

それと同時に、次々と光線が猿型カルネイジを貫いていく。一匹一匹、確実に息の根を止めていく。

しかし、一匹一匹確実に、ということは、逆を取れば多勢には弱いという事である。そして、眼前に広がるカルネイジは百匹を超える大軍勢。視界に入っていない個体、つまり彼女が背を向けている方向にも、恐らく同じほどいるだろう。

優に二百匹を超える猿型カルネイジの波。一匹一匹撃ち貫いていくスタイルのレーザー銃では、いくら彼女でも限界というものがある。

「……っ! 仕方ない、一か八か……!!」

イリーナは銃口を軽く捻る。ガチャリ、という小気味の良い音が聞こえ、彼女はそれを再び猿型カルネイジへと向ける。

そして、

「イリーナ!?」

ヒツユが驚いたような表情を浮かべる。

それもそのはず、何を思ったかイリーナはカルネイジの大群へと自ら飛び込んでいったのだ。銃火器を使用するときは遠距離、または中距離を取る方が適切だというのに。

しかし彼女は猿型カルネイジを目の前にしても走り続ける。そしてその黒光りする銃身を構えたかと思うと。

「アタシをなめんじゃないわよ」


ドバッッ!!と、放射状に広がる青色の光線が、猿達の部位を弾き飛ばす。


いわゆるショットガンである。

イリーナのレーザー銃は、銃口部分を捻ることによって、光線の出力方式を変える事が出来る。その中の一つが、放射状に広がるように光線をばらまく、ショットガン方式なのだ。

(……といっても殺傷性は低いのよね。一回に発射出来る出力量はどの方式でも同じだし。それをばらまくか一発に集中するかどうかだし)

簡単に言えば、普通の射撃をパワー100とすると、ショットガンはパワー10を10発、色んな方向へとばらまくということである。

そんな小さく分けた光線に、大した力はない。せいぜいカルネイジの腕や脚を吹っ飛ばすだけ。心臓や脳などの致命傷を与えられればこちらのものだが、拡散させている手前、どこに当たるかなんて分かるわけがない。

(このままじゃジリ貧ね……! どうすれば……!)

「あッ!?」

その時、細い悲鳴が聞こえた。イリーナが振り返ってみると、ヒツユが猿型カルネイジに殴り飛ばされていた。よく見れば、身体のあちこちに引っ掻かれたような痕がある。

「ヒツユ!!」

イリーナはヒツユの方へ駆け出そうとするが、背後からカルネイジが襲い掛かってくる。とてもじゃないが、目を離せる状況ではない。

(アタシが離れるなって言っといて……! アホかアタシ!)

激しく後悔するが、もはや遅い。カルネイジの波はイリーナをも飲み込もうとしている。少しでも目を離せば、イリーナでさえも食い殺される。

しかし武器の無いヒツユを放っておけばどうなるかは明白。イリーナが無理やりに頭を回転させていると、ヒツユに向かって一匹の猿型カルネイジが飛び込んでいった。異常発達した爪と犬歯をむき出しにして、それはヒツユを貫こうとする。

「ヒツユ……ッ!!」

だが。

「大丈夫」

「!?」

ヒツユは余裕の表情でこちらを向く。そしてニヤリと笑って、

「もう、来たから」

瞬間。



1m半はあるであろう片刃の大剣が、空中から地面に勢いよく地面に突き立った。猿型カルネイジの身体を貫き、まるでギロチンのように。



(う……そ……!? あんな……!!)

「よぅし、見ていろ猿共ぉー!!」

猿型カルネイジから飛び出した血飛沫(ちしぶき)をその身に浴びながら、あくまで笑顔でヒツユは叫び出す。勢いよく立ち上がり、明らかに彼女の丈に合っていないバスターソードを軽々と持ち上げ、



「ここからは、このヒツユ様の番だぞぉぉおおおおおおおおおおおッ!!」



飛び出すように彼女は、猿型カルネイジの群れへと突っ込んだ。

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