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同類

「あれっ?」

一通り作業(鼻血掃除)を終え、小さく溜め息をついたヒツユ。ふと、この教室程しかない小さな部屋に立て掛けられている物の中から、見覚えのある物を見付ける。

「どうした?」

「これ……私のバスターソード。誰が持ってきたの? これ、すっごい重いハズなのに……」

「あぁ、それか。それはレオが持ってきてくれたんだ」

「レオ君が……ふぅん……ってえええええッ!?」

ヒツユは振り返り、驚愕の表情でレオを見つめる。レオはいきなりの彼女の反応にビックリし、思わず『ふぇっ!?』と情けない声を上げる。

「ウソォ!? これ大の大人でも持ち上げられないような剣だよ!? レオ君が運べるワケ……!」

すると、レオは少し頬を膨らませる。

「も、持てるよ。持ってきたんだから、ホラ」

彼はティッシュを鼻に詰めたままヒツユに駆け寄り、バスターソードを掲げてみせる。

「も、持った……なんで……!?」

ヒツユが口を開いたまま呆然としていると、レオはバスターソードをゆっくりと降ろし、壁に掛けてから言う。



「……僕も、君と同じだから……」



「え?」

思わず変な声で呟くヒツユ。すると、後ろからアミがヒツユの肩に手を掛けた。

「レオはね、あなたと同じような怪力と再生能力を持ってるの」

「う、そ。そんな……」

思わず、ヒツユは一歩後ずさる。

イチカの時もそうだが、どうして彼女の周りには自分と同じような人間が集まるのだろうか。

ヒツユはこの力を手にする代わりに、残酷な痛みを受け続けていた。というより、オリジナルだからサンプル代わりにされた、という方が正しいが。

(レオ君も……私の『実験』の産物だったの!?)

そういえば、イチカには聞いていなかった。自分の『実験』による産物なのか、と。

だが、何故か聞きそびれてしまった。なんというか、自分よりも何倍も強い彼女を見ていると、こちらが産物のように思えてきてしまうからだ。

――――――『実験』。

ヒツユをベースにして、彼女のような『半人半カルネイジ』を造る研究。

彼女はそれのベースであり、いわばオリジナルなのだ。

しかし彼女にとって、それは決して喜ばしい事ではない。むしろあの実験中に、ヒツユは何度も自殺を試みた。

が、死ねなかった。『身体再生機能』のせいで、どうあっても生き延びてしまうのだ。

今回地上に降りたのだって、それのテストみたいなものだった。

今でもあの時の事を思い出すと、全身の震えが止まらない。

切り飛ばされる。腕を、脚を。

だけど、死なない。すぐにまた、再生する。

終わらない地獄。

嫌だ。

もうあんな時間は、繰り返したくない――――――!

「ヒツユ……?」

「――――――!」

不意に、意識が現実に集中する。

震える彼女の肩を、レオが押さえていた。

「レオ君……」

「だ、大丈夫? なんだか辛そうだけど……」

本気で不安そうな彼の表情。見せかけや上っ面だけではない本当の気遣いが、そこにはあった。

「……うん。ありがと、レオ君」

「そ、そんな……僕は何も……!」

また顔を真っ赤にして、レオは後退する。顔の前でバタバタと手を振る彼は、それこそ辛そうな顔だった。

「ま、そういう事だ。俺達はレオに助けられてるようなモンだし、再生能力だかにもレオので慣れてる。今さら一人増えたところで、別にどうこうなるわけじゃないさ」

「そ、それより!」

不意に、ヒツユが声を上げた。彼女は一度キョロキョロと辺りを確認すると、再びレンへと問い詰める。

「イリーナは!? イチカは!? 二人を知らない!?」

「イリーナ? 外人さんかな?」

アミが首を傾げる。レンも、レオでさえも首を横に振る。

「見てないな。仲間か付き添いだったのか知らないが、俺達はお前しか見ていない」

「ご、ごめん……」

レオが申し訳なさそうにうなだれる。ヒツユは驚いたように目を見開くと、部屋の出口へと進み、

「探しに行かなくちゃ……!!」

バスターソードを片手に、ドアのノブへ手を掛ける。

が、

「待て」

その一言で、ヒツユは不意に動きを止める。

呼び止めたのは、レンだった。

「悪いが、外には出ないでくれ」

「……なんで!? 早く二人を探さないと……!!」

ヒツユは吐き出すように不満を洩らす。仲間を思うあまりの焦りが、明らかに浮き彫りにされていた。

しかし、レンはあくまで冷静に説明する。

「いいか? お前を助けたとき、ほとんどのカルネイジはレオが倒してくれた。大して数は多くなかったし、レオもそんなに苦戦はしていなかった」

「だったらなんで!!」

「……あの猿共は俺達の経験上、普段何百匹もの大群で動く。そしてあそこにいたのは、ほんの一握りだ。しかもこの音からして、デカイ蛇型のカルネイジまでいる。這いずり回っているような音が聴こえたからな。この状態でお前に出ていかれると、奴ら(カルネイジ)にこの場所が嗅ぎ付けられるかもしれない。そうなることだけは避けたいんだ」

苦い表情で言うレンは、レオとアミを見回す。

「俺達は『空中庭園』に乗れずに置いていかれ、そして生き残った人間だ。この場所だって、長いこと奴らに見つかっていない。ここがバレてしまったら、俺達はまた別の隠れ家を探さなければならないんだ。……そうすれば、レオにも負担が掛かってしまう」

レオもアミも、辛そうな表情を浮かべている。ヒツユに申し訳ないと思っているのか、それともここがバレた時の事を考えているのか。はたまた、両方か。

「分かってくれ……ヒツユ。それに、もしその二人が生きているとしても、あのカルネイジの大群に襲われているのなら……もう……」

それ以上は、聞かなくても分かった。考えの及ばないような彼女でも、その危険性は身に染みている。

(……イリーナ……イチカ……)

そうだ。

そもそも三人が離れてしまったのだって、カルネイジ達に苦戦していたからだ。ましてや巨大な蛇型もいるらしい。もしも一人一人集中して襲っていたのなら、もしかしたら。

二人は。

もう、既に。

「……っ」

ゆっくりと、ヒツユの手がドアノブから離れる。バスターソードを手放し、彼女は崩れ落ちてしまう。

大粒の涙が、零れる。

「……っ、あ。ぁぁあっ……!」

「ヒツユちゃん……」

気の毒そうに、アミが手を掛けようとする。がくりとうなだれ、冷たい雫でシミを作り、全身を震わせるヒツユは、そんな事にすら気が回らなかった。

外に出たい。

そして、大声で彼女らの名前を叫びたい。

そんな思いが、ヒツユの心を駆け巡る。

「……ごめんね。本当に……ごめん」

ふと、アミが抱き締めてくれた。優しい温もり。ゆっくりと頭を撫でてくれて、額にキスをしてくれた。彼女は何回も謝りながら、ヒツユを落ち着かせる。

そんな姉のような優しさに触れてしまったヒツユは、いつの間にか大声上げて泣いていた。この人なら、全て飲み込んでくれる気がして。全て、包み込んでくれる気がして。

「きっと生きてるよ。きっと。アミが保証する」

そう、元気付けてくれた。

「……最低でも3日。奴らがここに居座る可能性があるからな。それを過ぎたら……ヒツユ、お前の仲間を探そう。きっと見付かるさ」

レンもそう言って、ヒツユを慰める。

「ぼ、僕も頑張るから。一緒に探そうよ、ね?」

レオも顔を真っ赤にしながら言う。

そんな彼らをまじまじと眺め、そしてヒツユは涙を拭いながら笑う。



「……あ、ありがと……!」



照れ隠しのように。

幸い、この人達はとっても親切だった。

良かった。

そう、心から思えた。

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