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規格外の怪物

「あった!!」

目の前の看板には上への矢印と、よく分からない地上の地名が書かれていた。

とにかく、これで外に出られる。外に出られれば、圧倒的に戦いやすくなる。戦いやすくなればあんなデカブツ、余裕で撃ち抜く事が出来る。

それが本当か虚勢かは別として、地下より有利なのは間違いない。地下にはヒツユもイチカもいるのだろうが、彼女らはきっとどうにかしているだろう。それだけの力があるのだから。

イリーナは地上への階段、その一段目に足を掛ける。

蛇型カルネイジの姿は今のところ見当たらない。彼女を見失ってしまったのか、それともどこかで待ち伏せしているのか。

しかし、待ち伏せなどは関係ない。後はこの階段を登るだけで、イリーナは地上に出られる。それで危険が無くなるワケではないが、少なくとも減りはする。それだけ、先程の地下は危険だったのだ。

二段飛ばしはもちろん、時には三段飛ばしも織り交ぜながら、彼女は勢いよく階段を駆けていく。焼けるような赤色のマフラーが、地上から入り込む逆風ではためいている。

(あと……少し……!!)

先程まで全速力で逃げ道を探していた彼女の息は、既に途切れかけていた。追い掛けられていたワケではない。しかし、どんどん追い詰められていっているという恐怖から、彼女は自ずと全力疾走してしまっていた。体力の温存も、戦闘では欠かせないというのに。

残り10段程。地上の光が見える。地下のモノとは比べ物にならない程の、輝かしい太陽の光が。

(よし、いけ――――――)

が。

突如、目の前が、暗闇に包まれた。何かが、この階段を埋め尽くす程の巨大な何かが、勢いよく滑り込んでくる。

(なッ……!?)

慌てて立ち止まろうとする。しかし、勢いのついた自身の身体はそう簡単に止められない。しかも、向こう側はこちらへと向かってくる。

その、鋭い牙を剥き出しにしながら。

間違いない。

(さっきの――――――蛇……型!?)

そんなことを言う前に、その牙は、その大口は、イリーナを飲み込もうとする。あわや、彼女の身体がその牙に引き裂かれる。

そんな時。



「――――――進んで!!」



不意に、自身を通り越す影。その影の紅い二つの光が糸を引いていた。それほどに、その動きは素早かった。

そして。

勢いよく腕を掴まれ、イリーナは思わず前に向かって足を出してしまった。それと同時に彼女の身体はその影によって引っ張られる。

――――――その影の手には、巨大な銀槍が握られていた。

それは鋭く前に突き出され、目の前の大蛇を引き裂かんとする。

が、いくら槍が巨大とはいえ、目の前の蛇型カルネイジの、その太い身体の直径までには至らない。このままでは、飲み込まれてしまうだけ。

その恐怖に、イリーナは思わず、その影の名前を叫んでいた。

「イチカッ!!」

しかし、影は薄く笑う。

「……大丈夫ですよ」

それと同時に、彼女の銀槍に異変が生じる。

妙な機械音。そして何かを排出するような音と共に、ラージランスは姿を変える。槍が少しだけ前にずれ、そして真ん中がカチッ、という小気味よい音を出しながら2つに分かれる。

そして2つの刃は180度回転し、外側の鋭い部分が内側へと移動する。そのまま、2つの刃は90度開く。

形としては、まるで両刃のピッケル。しかし、実際に敵を切り裂く部分は刃の上。弧になっている部分である。

横に開いたその長さは、5mを超える。目の前の蛇の直径ちょうどか、少し大きいくらいだ。

そして。


縦に構えられたそれは、大蛇の頭部を真っ二つに引き裂きながら進む。自ずと、二人の進む道が切り開かれる。


(す、ご……!)

「跳びますよ、イリーナさん」

「え? って、うああああああああああああああああああああああああああッ!?」

その瞬間、イチカはイリーナを掴み、跳び上がった。

既に、地上には出ていたのだ。その跳躍力は目を見張るものであり、気が付けば二人は9m程までジャンプしていた。

そのまま、イチカはもう片方の手にある、ピッケルのような槍を、手近なビル壁へと突き刺す。その動きは槍というよりは、もはや鎌のようだった。使い方は、どこか登山用ピッケルのようだが。

と、次の瞬間、イチカはイリーナを上空へと投げ飛ばした。悲鳴を上げたイリーナだったが、その後ちゃんと屋上に着地したため、ホッと安堵の息をつく。

続いてイチカも着地する。ハァ、と息を吐きながら座り込む彼女に、イリーナは慌てて近寄る。

「た、助かったわ……ていうか、大丈夫?」

「……ユ……ゃん」

「ん?」

微かな言葉に耳を澄ませると、突如イチカは思い切り大きな声で、

「ヒツユちゃんは!! 一緒じゃ!! 無いんですか!!」

「うああああああうっさいうっさい!! アタシの鼓膜を破る気か貴様は!!」

「うぇえええんヒツユちゃんが見付からないよぅ」

涙声でそう喚くイチカは、先程イリーナを助けた人間とは思えないほどの情けないメンタルだった。ボロボロと泣き出し、ギリギリとイリーナに抱き付いてくる。

「ちょ……死ぬ……アンタが思い切り抱き締めたら……アタシ……死ぬって……!」

とんでもない筋力で抱き締められたイリーナの身体は、既に色々な所がメシメシ音を立てていた。

「ヒツユちゃんうわああああああああああああああああああああああああああん」

「離しなさい……って……ぐはッ!?」

瞬間、変な所からボキリ、という音が聞こえた。

「……あ、す、すいません」

その音を聞いて流石に恐くなったのか、イチカが恐る恐る離れる。

「遅いから今更すぎるからっていうかめっちゃ痛ぁぁぁああああああああ……」

地面に突っ伏しながら腰を押さえるイリーナ。しかしそうでもなかったのか、すぐに立ち上がる。

「ったく、ヒツユ欲しさに泣き出すのは構わないけどアタシを殺そうとするのは勘弁して。アタシが『こんな身体』してなかったら、今ので死んでたからね」

「だからやったんですよ」

「計算済み!?」

全くイリーナの事を考えていないイチカ。彼女もスッと立ち上がりながら、ビルの下の景色を眺める。

「……ぁ……ぇ? 何、あれ」

驚いて、イリーナは一歩後ずさる。イチカは特に驚いた様子もなく、ただ呆れたように笑う。

「あれってなんていうか……大昔の伝説とかにいたんじゃないですか?」

眼下には、信じられない光景が広がっていた。

地下鉄入り口には、真っ二つになった蛇型カルネイジの頭部。奥の方に頭を突っ込んだまま息絶えていて、ピクリとも動かない。

しかし二人が気になったのはそこではない。もっと、もっと根元まで戻った、その先。

「……か、め……?」



そこには、巨大な亀が佇んでいた。高層ビルと同じ程の大きさで、およそ人の手には量りきれないような『怪物』が。



亀というだけあって、その身体は巨大な甲羅で覆われていた。一個一個が十何メートルもあるような岩を寄せ集めたような、そんな感じの甲羅。恐らく、どんな現代兵器、いや、どれほど次世代へいっても破れなさそうな迫力が、そこにはあった。

まさに、鉄壁。そんな言葉が、一番似合うような。

「嘘……」

そこから僅かに覗く頭部は一言で言えば『龍』。全体的にトゲトゲしたようなイメージで、その鋭い眼光と紅い瞳が、イリーナを縮みあがらせる。

そして、『蛇』。

先程までの強敵な(へび)は、あの怪物の一部にしか過ぎなかったのだ。実際、あの巨大な甲羅の隙間から、見えるだけでも5匹は姿を見せている。その中の一匹は、先程イチカが倒したものだ。

と、遂に亀は動いた。

まるで蜥蜴(とかげ)の尻尾のように、死んだ一匹の蛇を切り離したのだ。そして驚異的な再生能力によって、切り口から新しい蛇が姿を現す。

「何でしたっけあれ。そうだ、中国の伝説で……えっと……」

「んなことどうでもいいから!! とりあえず隠れるわよ!!」

イリーナはイチカを引っ張り、屋上にある貯水用のタンクの裏へと隠れる。

(ったく……何よあれ!! 日本のゴジラもビックリの化け物じゃない……!!)

しかし、彼女が幼い時に再放送か何かで見たゴジラは十分現実味があった。それは恐ろしくて、その当時は本当に襲ってくると思っていた。

が、あれは違う。現実味が無さすぎる。存在する事さえ禁忌なのではないかという化け物が、目の前にいるという恐怖。

それはスクリーン越しの恐怖とは比べ物にならない、圧倒的なものだった。

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