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何の気なしの掃討と追われる恐怖

「ふぅー。お掃除終了」

数百匹は軽く超えるカルネイジの死骸を踏みにじりながら、イチカはニコニコと笑う。その手には、化け物の血によって赤く色付いた銀槍が握られていた。とても16歳の少女には扱えない、2メートルを超す巨槍。


――――――ラージランス。


その名の通り、穂先が大きい槍である。スコップのようなものを想像してもらうと分かりやすいかもしれない。石器時代の細槍、という感じではない。むしろ、刃の部分が大きく、横に広がっている。

ざっくり言ってしまえば、二等辺三角形の刃を棒の先端に付けたような感じだ。

だが、そういう槍は先端部分へ重量がいくため、バランスは良くない。重みが乗るため威力は高いのだが、中々に扱いづらいとされているカテゴリである。

しかし、そんな槍を、彼女は笑顔で振るうことが出来る。彼女もまた、ヒツユと同じ異常な腕力の持ち主だからである。

「さて、リトルマイエンジェルヒツユちゃんを探すかな」

踏みつけていた死骸を軽く蹴飛ばすと、イチカはヒツユが消えたと思われる方向へ歩き出す。首を傾け、二、三回コキコキと鳴らす。

彼女にとって、今の戦闘はそれだけのものでしかなかった。息も少しも上がっていない。ただ槍を振り回して、ただ化け物を殺しただけ。

当然の結果。それほどにしか、彼女は考えていなかった。

だって、頑張る必要なんてないから。

彼女が槍を振るえば、それだけで敵は死ぬのだから。

(……ん?)

その時、どこかで轟音が鳴り響いた。……気がした。

「ヒツユちゃんが戦ってるのかな? そしたら加勢に行かなくちゃ♪」

そう思った瞬間、彼女の心は弾む。あの()と一緒に戦える。その事実だけで、彼女は何でも出来そうな気になるのだ。

ゆっくりとした足取りが、急に駆け足に変わる。ラージランスを肩に掛け、彼女は音のする方へと走り出す。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「うぉッ!?」

一歩退いたイリーナのすぐ手前で、巨大な牙が空を泳ぐ。そこを狙い、彼女はすぐさまショット方式に切り替え、強力な一撃をお見舞いする。

断末魔が、地下に響き渡る。鼓膜が破れるかというほどの声に、イリーナは顔を歪める。すぐさま背を向け、大蛇から距離を取った。

「ったく、何なのよ!! ただ蛇がデカくなっただけなのに、こんなに苦戦するなんて……ッ!!」

頭を蛇型カルネイジへと向ける。カルネイジは上顎の一部が吹き飛んでおり、血がだらだらと流れ出ている。

しかし。

すぐさまその欠けた箇所は復活し、再びイリーナを襲う。とんでもない再生速度に、彼女はただ逃げることしか出来なかった。

再び遅い来る脅威。

(くそ……アイツ蛇だからこんな通路でもぬるぬる動いてくるわね……!!)

この地下通路にこのカルネイジが住み着くのも、何だか頷ける話だ。

カルネイジだけではなく、普通の動物でさえ、狩りをするためには最適な場所を欲する。動物はその場所に合った進化をしていき、カルネイジは自分に合った場所を探す。順序が逆だが、なんらおかしいワケでもないのは確かである。

ここは地下鉄跡。そして地下通路である。

恐らく、蛇型カルネイジの全長はイリーナの想像を絶する程だろう。太さがあれだけあり、元のベースが『蛇』なのだ。普通に考えても、200メートルは優に超えていると考えていいだろう。

もう一度言うが、ここは地下鉄跡。そして地下通路だ。

つまり、この場所は人間の手に余るほど巨大な場所であり、尚且つ入り組んでいるという特徴がある。そこにあの巨体が入り込み、まるで包囲網でも築くかのように囲まれてしまったら。

しかも、地下ということは空に逃げられないという事でもある。仮に、イリーナが空を飛べるような何かを持っていったとしても、この地下通路では何の意味もない。

(……つまり、ここはアタシにとっては最悪の地形。地上に出なくちゃ、(らち)があかない……ッ!!)

イリーナは歯噛みする。

もちろん、さっき入ったばかりの地下通路の出口など覚えているハズもない。両手を使ってライフルを構えているため、先程の携帯端末も取り出すことが出来ない。迫り来る怪物に光線を浴びせ、距離を開き、再び走り出すことしか出来ない。

それでも、地上へ繋がる通路を探すことは出来る。イリーナは出来るだけ周囲に注意を配る。通路の看板を流し読みし、地上へ繋がるものはないか、と。

(どこかに無いの!? こんなにデカイ地下鉄駅なら多めに設置されていても――――――)

その時。



思い切り、何かと正面衝突してしまう。



出口を探すためにあちらこちらへ視線を移していたため、目の前の何かに気付かなかったのかもしれない。

「痛ッ!?」

突然の衝撃に耐えられず、尻餅をつく。

彼女は苛立たしげに目の前を見つめる。

――――――そこには、黒い壁。というより、まるで巨大な黒いパイプを通路にはめ込んだような状態だ。

(パイプ? いや違う、これは――――――)

デコボコと溝が出来ているその壁。

いや、これは鱗だ。

まるで生き物のようにズルズルと横切っていく壁。しかし、次から次へと、壁は終わりが見えない。

違う、これは。

(これは――――――カルネイジの胴体!!)

それと同時、イリーナは何かを悟る。振り向くと、蛇型カルネイジが大口を開けてこちらへ向かってきていた。やはり大きさの問題か、普通の蛇では出せない速度。前も後ろも阻まれた状況で、彼女は必死に頭を回転させる。

前には蛇。

後ろはその胴体。

なら。

「横ッ!!」

首を素早く横に巡らせる。携帯ショップでもやっていたのだろうか、バラバラになった携帯電話の残骸があちこちに散らばっているスペースを見付ける。そこへライフルを構え、方式を定めずに一発撃ち込む。

轟音が辺りに鳴り響いた。スペースの奥に穴が開き、そこから反対側へ行けるようになる。今の衝撃でカルネイジは一瞬怯む。それを見逃さず、イリーナはその隙を突いて携帯ショップ跡へと飛び込んだ。

開いたのは辛うじてイリーナが抜けられそうな程の穴。その中へ勢いよく飛び込み、反対側のスペースから再び通路へと抜け出す。

先程進んでいた方向へと向くが、そこも蛇型カルネイジの胴体によって塞がれている。舌打ちしながら、彼女は反対側の方角へと走り出した。

ひとまずは安心。恐らくあの蛇には壁を破壊するほどの力は無い。そんな力があれば、通路など関係なく彼女を襲っているだろう。常に直線距離で追い付けるのだ、その方が有利に決まっているだろう。

それに、いくら速度が通常の蛇とは段違いといっても、身体が巨大になったからという相対的な話だ。壁を勢いで突き破るほどの勢いなど、あるはずがない。

(隠れられるところは……!? いやダメ、ヒツユやイチカも探さないと……!!)

あの蛇に飲み込まれているとは思いたくはないが、あの二人ならあんな怪物イチコロ……な気がする。少なくとも、イリーナほど苦戦はしないだろう。

それに、彼女が隠れたとしても、蛇には彼女を探すことの出来る能力がある。

(蛇はあの舌で獲物を見付けるとかいうけど……どうせ異常発達してるに決まってるし)

元々、蛇はあまり目が良くない。

それを補ったのが、舌だ。ヤコブソン器官というものが舌にあり、それで匂いの粒子を絡めとり、状況を把握しているのである。

蛇型カルネイジとくれば、それが異常発達している可能性が非常に高い。恐らく目以上に、いや、そもそも目など必要ないほどにその索敵能力は上昇しているのだろう。

――――――だとしたら、隠れても無駄。

しかし、隠れなくても無駄なのではないだろうか。

こうしている間も、蛇型カルネイジは通路を塞いでいっている。早く出口を見付けなければ、このまま追い詰められて圧死するだろう。

切羽詰まりながら、イリーナは駆け続けた。

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