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打開策

「「拠点?」」

イリーナとヒツユは声を揃えた。

「うん」

二人の視界の先には笑顔を浮かべるイチカの姿があった。

「拠点って……カルネイジ掃討の基本に反してないかしら。一つの場所に留まれば、それだけ奇襲される確率も上がる。カルネイジに居場所を掴まれればそれで終わりよ?」

「でも、確実に休憩出来る場所があるのは悪い事じゃないと思うんですよ」

イリーナの問いに対して、イチカは答える。

「だから、複数の拠点を一定距離で作る。作る……っていうより、この辺りの休憩出来るスペースを確保しておくんです。食糧などは『空中庭園』から支給されるんで心配ありませんが、それでも無いよりはあった方がいいんですよ」

「じゃあ、この辺りの地理データを送ってもらいましょう。地図くらいなら人員殺しの『空中庭園』でもくれるでしょうし」

イリーナが『転送』と呟くと、銀色のトラッシュケースが膝の上に現れる。彼女をそれを開き、中から携帯端末を取り出す。縦15センチ弱、横は8センチ、薄さは1センチくらい。黒光りするそのボディは、次世代的なものを感じさせた。

「地図データ……っと。あ、なんだ最初から入ってるじゃない」

画面をタッチしながら、イリーナはこの付近の地図データを確認する。顔を上げ、二人に向かってその画面を見せる。

「まぁ、やろうと思えばどこでも休憩できるんだけどね。これを見て」

三人が覗きこんだ画面には、この付近の地域を上から眺めたようなものが映っていた。


具体的に言えば、このエリアの建造物はほとんどが高層ビルだった。碁盤の目状に道路が敷かれており、モノレールの線路と思えるものもあった。地下鉄が走っていたらしく、別画面で見たデータには地下鉄の場所なども表示されていた。


「どうする? アタシ達がいるのはここの病院。この地図はカルネイジに襲われる前の地図だからあてには出来ないけど、目安くらいにはなると思うわよ」

「……カルネイジはどれぐらいいるのかな」

「そこまでは分からないわよ。ま、ずっとこの町にいるわけじゃないし、とにかく三年間生き残ればいいのよ。そうすれば上に引き上げてくれるんだから」

「そうですね……とりあえず地下に行ってみましょうか。崩落の危険性もありますけど、迷路みたいになってますから、もしかしたら拠点に出来るところは多いかもしれません」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「……で、」

ヒツユは、現在軽くご立腹である。

「なんで今、私はこんなに危険な状況なのかな?」

目の前には、昨日倒した猿型カルネイジと同じ個体が数百体。後ろにも同じ量がいる。

つまり、囲まれているのである。

イリーナとイチカは居ない。戦っている途中にはぐれてしまったのだ。

「よくよく考えてみたら、地下って狭いから戦いづらいよね。なんで気付かなかったんだろ」

カルネイジの一匹が飛び出してくる。そいつの首を掴み、軽く放り投げる。そして、その化け物を、横に薙いだバスターソードで真っ二つにする。

「……ま、いいや。倒しちゃえばいい話だもんね」

それを皮切りに、数百匹の猿型カルネイジが飛び掛かってくる。後ろから、前から。

しかし。

ヒツユはあの時と同じ、獰猛な笑みを浮かべる。その左目を真っ赤に輝かせ、舌舐めずりをした。

彼女は、もはや抑え込まない。

どうせ誰も居ないのだ、さらけ出してもいいだろう。

こんなに暴れたい衝動を。

殺し回りたい衝動を。

昨日のあの時から、何処かスイッチが入ってしまったのかもしれない。カルネイジを目の前にすると、心の奥深くにある残虐性が、散々振り回した後に開けた炭酸飲料のように溢れ出てくる。

「……お前たちのせいだ」

小さな唇を動かし、そう呟く。

それと同時に、爆発的な加速力で何体かのカルネイジの前に飛び出す。既に剣は構えたまま。

「死ね」

その言葉は、重苦しい彼女の過去を全て体現し、尚且つそれを何処かにぶつけているようだった。

瞬間、身体を高速で回転させる。横に一回転したその刃は、目の前にいたカルネイジの首を全て切り飛ばした。

「あはっ」

微かな笑い声。

血飛沫が飛び散り、それが彼女へ降りかかる。しかし彼女は気にも止めない。殺した一匹のカルネイジを掴み、それを他の猿共へとぶつける。崩れるように将棋倒しになったカルネイジの大群の中へ、彼女は上空から飛び掛かった。

ギロチンのようなものを想像すると分かりやすいだろう。カルネイジの一匹へ真上から地面へ突き刺すようにバスターソードを降り下ろす。

「あははっ」

そのまま身体を回転させる。ベーゴマのように回り続ける彼女はその勢いを崩さぬまま、カルネイジの波へと突撃していく。

「殺してる……バケモノを……私が……!!」

狂ったような笑みが浮かぶ。彼女の視線の先には、身体の様々な部分が切り飛ばされていく化け物がいる。頭、腕、脚、尻尾。分類が細かすぎてよく分からない部分までもが、彼女の紅大剣によって両断されていく。

辺り一面に、カルネイジの悲鳴が、断末魔が響き渡る。それがヒツユに聴覚に癒しを与え、さらに力を発揮させる。

「悲鳴……悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴!! もっとぉ!! もっと聞かせてよ!!」

と、その時。

「ぐあっ!?」

起こるはずのない衝撃が、ヒツユの側頭部を襲った。彼女は脚をふらつかせ、そのまま倒れこんでしまう。どうやら先程の攻撃で砕け散った床の破片を、カルネイジが投げつけてきたらしかった。

「……こ、の……!!」

しかし間髪入れず、倒れたヒツユの腹へ向かって、カルネイジの拳が叩き込まれる。衝撃に耐えきれなかったヒツユは血へどを吐き、身体をビクビクと痙攣させる。

それでも、化け物の襲撃は終わらない。ヒツユが半数は殺したとはいえ、まだまだ大群は残っているのだ。

拳が腹へ、胸へ、腕へ、脚へ。やはり重量のせいかバスターソードまでは奪われないが、終わらない襲撃の中で、ヒツユは意識が閉ざされていくのを感じていた。

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