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白いイチカ

何となく、分かってはいたのだ。

だが確信が持てない以上、そうと決めつけるわけにはいかない。それに、ヒツユはそうだと―――信じたくなかった。

あの中心部にいる反応は。存在は。

きっと、ヒツユが良く知る人物。

(―――でも、やっぱり―――)

辿り着いてしまうヒツユ。『ブロッサム』の、その中心部に。そこには―――



「……誰?」



そう呟いた、白い少女が居た。髪も、肌さえも奇妙な程に白く、その中で煌めく紅い双眼が、ぎらぎらと光り輝き、燃え盛るように揺らぐ。

彼女は下半身から下を『ブロッサム』に喰われており、それと同化していた。両手も同様に同化、身体をよじる事くらいしか、彼女には出来ない。

そんな彼女は、変わり果てた彼女は、それでもやはり―――

「……イチ、カ」

かつては黒い印象を与えていた、あの少女だったのだ。だが今の彼女はかつての妖艶な雰囲気を失い、まるで自暴自棄と化したかのように揺らいでいる。そして、彼女はヒツユを見やると、もう一度こう告げた。

「ねえ、誰なの? なんでぼくの名前を知ってるのさ。ぼくは君なんて知らない。なのに……なんでか、ぼくの知ってる何かにとても近い気がしてくるんだ」

理解不能な会話を始めるイチカ。それはイチカであって、イチカではないような気さえしてくる。そう、便宜上で分けるなら―――白いイチカ、と呼ぶのだろう。

「なんで……こんな事に。先生にこんな事にされたの? ねえイチカ、答えてよ!」

「先生? 誰、それ。もう分かんないよ。知らないものばっかり。なんで、『僕』と『わたし』以外に何かが存在してるんだよ。ぼくらで、ぼくらだけで、もう全部完成してるじゃないか……」

「何言ってるの⁉︎ イチカ、私だよ、ヒツユだよ! 思い出してよ、私は霧島日露、ちっちゃい頃に友達だった―――」

「はあ?」

途端に、白いイチカは言葉を遮る。折れてしまいそうな程に首を曲げ、本気で分からないというように言葉を紡ぐ。

「ヒツユちゃんなら『僕』の中にもう居るよ。ヒツユは『わたし』だよ。君は誰だ。どうして『わたし』の名を語るんだい。嘘を吐くなよ、偽者がッ‼︎‼︎」

ますます意味が分からなくなる。彼女は一体、何を言っているというのか。僕? わたし? それとも、ぼく? 一人称がブレブレ、まるで別の人格が存在していて、その境界線が曖昧なようにさえ聞こえる。

―――既に『ブロッサム』の攻撃は止んでいた。と言っても、それはヒツユに向けてのものだけ。こうしている今も、イリーナはあの黒いロボットたちと戦っているのだ。

「分からないよイチカ! 一体どうしちゃったの? なんで私がイチカの中にいるって……」

「……そうかい。いや、そうなんだ。『わたし』は、ここにいるよ」

瞬間。ずずず、と、白いイチカの喉が中から膨れ上がるように蠢きだす。それはすぐに元通りになると、次の言葉からは、見知った声が聞こえる様になった。

「わたしだよ、オリジナルさん」

「―――ッッ‼︎⁉︎」

間違いない。

その声は、間違いなく―――自分の、ヒツユの声だった。

「そういえばはじめましてだったね。わたしのなまえはヒツユ。イチカによってつくられた、あなたをもしてつくられたクローン。ややこしくなるから、イチカのいしきにはすこしねむってもらったよ」

イチカの見た目をしているのに、声はどう聴いても自分のものに他ならない。話し方も、仕草も―――どう見ても、ヒツユそのものだった。

「もう、ゆうごうしたいしきをきりはなすのはたいへんなんだから。まあ、わたしがいま、オリジナルのあなたをさしおいてなにをしているのかというとだね」

白いイチカ、及びヒツユは、とある一言を呟く。



「―――イチカとわたしだけのせかいをつくろうとしているの」



あまりに簡単に告げられたそれに、ヒツユは驚きを隠せなかった。

何故ならそれは―――イチカが望んでいた事と、全く同じだったからだ。

「だからじゃまなものはぜんぶこわすの。あなたも、あのロボットおんなも、カルネイジも、ぜんぶ、ぜんぶ。そのためにさいしょはイチカをとりこんで、それからながれでこの『ブロッサム』もとりこんだ。しってるでしょ、わたしたちカタストロフィにはゆうごうしたりはなしたりするちからがあるんだって」

「それを応用して、こんな兵器と自分自身を融合させたって言うの……? イチカと、意識も融合して。おかしい……そんな事あるはずない!」

ヒツユは必死に反論する。自分はそんな事出来るわけがない。それなら、それなら……彼女は本当に、ただの化け物じゃないか。

「でも、わたしたちはこうしてゆうごうしてる。ねえ、もういいでしょ? はなしはおわり。あなたを、いまからイチカといっしょにつぶすから」

「待って! そんな、そんな事……!」

ヒツユが、猛スピードで近付き、白いイチカに触れようとした時だった。

「―――ッ、さわるなァッ‼︎‼︎」

彼女の周囲に、青黒い光線で造られたバリアのようなものが発生する。それに触れたヒツユの指は―――まるでそこから先は全て消えてしまうとでも言うように、とろけて消えてしまった。

「ッ、が!」

ヒツユは激痛に思わず手を引き、そのまま空中を駆けて距離を取る。するとそれを追うように、白いイチカの周囲から何十台もの砲台が発生、一斉に青黒い光線を発射する。

ヒツユはそれを必死に避ける。あれはイリーナのものと同じ、貫通力は抜群の更に上をいくだろう。当たってしまえら、後は蜂の巣にされるだけ。

「くっ……!」

「ひゃはははははははははははははッッ‼︎‼︎ 消えて! 消えてよ! ぼくら以外のものは全部‼︎‼︎ あははははははははははははははははッッッ‼︎‼︎」

再びイチカと融合しなおし、白いイチカと化した彼女らは、全てを排除する事を楽しむように狂気の笑みを浮かべる。自分達以外を破壊する事に、禁断症状のような、麻薬のような突き抜ける快楽を得ている。

(こうなったら……もう、やるしか……ッ‼︎‼︎)

ヒツユはその時、悲痛な決意を固める。

殺すしかない。(カタストロフィ)の力で、この『ブロッサム』諸共全て破壊するしか。

そう―――イチカごと。

が。

「させないよ」

まるでヒツユの思考を読んだかのように、今イリーナと戦っているものと同じ、黒いロボットを三体作り出す白いイチカ。その紅い瞳をギラギラと輝かせ、彼女は彼らに指令を出す。

「三人同時だ。あの偽者(・・)を片付けろ‼︎」

そういうと、三体のロボットは三つの方向に分かれて飛行を始める。その手にはレーザーソードが二本握られている。そして―――そのまま、ヒツユを挟撃する。

「ッッ‼︎」

こんなところでやられるわけにはいかない。

ヒツユは即座に動く。ロボットの一体のレーザーソードの斬撃を回避すると、他の二体を無視して一体の心臓部分にバスターソードを突き刺し、破壊。その爆風でロボット達の目がくらむ内に、白いイチカに向かって攻撃する―――

―――はずだったのだが。

「バカだなあ」

彼女が嘲るように言うと、爆風を無いように扱い、バスターソードへレーザーソードを押し当てる二体のロボットが現れた。

「ッッ‼︎⁉︎」

「こいつらが生物と同じ様に目で物を見ているわけないじゃないか。ぼくが創り出したとは言え、こいつらは君を熱源として捉えている。爆風を煙幕代わりに使ったところで、意味なんて無いさ」

それと同時に、新たに三体目が造られ、ヒツユへと向かう。

ヒツユは二体のレーザーソードから離れ、急速に距離を取る。なんとか三体目の斬撃はかわしたが、こうなっては白いイチカに近付く事も出来ない。

「ぐっ……」

「大丈夫さ。君もあの黒いロボット女も、すぐに潰してやる。今、僕の力で、地上から高エネルギーの生命体の『力』を二つ吸い寄せてきた」

その瞬間。

何処からか飛んできたエネルギーが、ヒツユの隣を掠める。それは間違いなく、ヒツユと同種のエネルギー。そう、カルネイジのもの。

「そして君に最も精神的苦痛を与えるエネルギーでもある。それをこのロボット達に融合させる!」

二体のロボットが白いイチカの元へと、『ブロッサム』の元へと戻る。その表面に再び埋め込まれると、ヒツユを掠めたエネルギーと混ざり合う。これも、白いイチカ、いや白いヒツユが持つ(カタストロフィ)の、融合させる力。

そして―――このエネルギーには、妙に覚えがあった。

(なんだか、知ってる……? これ、を?)

瞬間。

ゆらりと浮かび上がった二体のロボットが、まるで中から爆発するように形を変化させていく。

片方は装甲が内から炸裂し、カルネイジ特有のグロテスクの肉が膨張、拡張を続けどんどん巨大になっていく。それはやがて獣の姿へと変化していき、そして―――九つ(・・)の尾が現れる。

「ッ⁉︎ これって、まさ……か……!」

それは、九尾の狐だった。

ただし装甲は拡張の果てにその身体を九割程多い、既に機械の獣と化していた。装甲の繋ぎ目から、獣の筋肉が見えている。そして装甲の無数のバーニアによって、その巨体は当たり前のように空中に浮かんでいた。

「アミ……の、力⁉︎」

そして。



もう片方も、同じく獣の形をしていた。九尾の狐とはまた違う、黒い猫。その俊敏性を重要視したフォルムは、同じくバーニアによって空中を飛行しており、白いイチカの傍らに存在している。



「―――レオ、君……?」

不思議と、その怪物からはエネルギーを感じる。とても見知った、とても愛しいエネルギー。ヒツユの中で最も優先順位の高い存在に、限りなく近いそれ。

だが、白いイチカは。

「この感じ……クロじゃないか! ぼくの飼い猫……カルネイジ化した後も生きてたんだね! そうか……人間に同化していたのか。だから……」

クロ?

何か聞き覚えがある。

―――そうだ。幼いイチカと共にいた、あの黒猫だ。逃げようとしたヒツユを直接的に追い詰めた、あの黒猫。

(レオ君に同化してたって……まさか、アミと同じ様に?)

ヒツユは、アミがデストロイである九尾型を倒した事を知らない。だが、彼女が九尾型に乗っ取られていたのは、その目で確かに確認していた。

(レオ君も、同じ様に……)

と。

そんな時だった。

「ふう……まさか、消えたのにもう一度復活出来るとは思わなかったよ。あのクソうぜえ宿主め……殺してやる」

「一度あの少年に封じ込まれたというのに……誰だ? 俺を復活させたのは……」

なんと、その黒猫と九尾が会話を始めたのだ。黒猫型デストロイ―――力は九尾型と同等と感じるから―――と、そう仮定しよう。そんな黒猫型の声は、あの愛しい少年の声以外の何物でもなく、同じく九尾型の声は、少年の姉である少女の声であった。

やがて九尾型はヒツユの存在に気付くと、

「っ……あらあら、まさか制御まで出来るようになってたんだ、(カタストロフィ)さん。久しぶりだね、」

その頭部から人間らしき型が―――ちょうどマネキンのようなそれが現れ、すぐに形作られる。

その長くて白い髪、獣の耳、そして紅い瞳―――

「私だよ、アミに乗り移ってた九尾型」

そう、その姿形は、アミだった。但し、九尾に乗り移られていた時のもの。

同じく、黒猫型も形作られる。それは黒い髪に猫の耳、そして紅い瞳―――しかし肌だけは妙に青白い。

「お前は……九尾型か」

「あらら、創造主様の飼い猫じゃん、久しぶり。君、あの男の子に負けたんでしょ」

「あの少年の心の力が強かったんだ。お陰で俺は存在ごと抹消され、力さえも奪われた」

「ほらあ、クロ、それに九尾型。喋ってないでさ、さっさとあの偽者を片付けてよ」

白いイチカが催促するように言う。すると黒猫型は驚き慄き、こう呟く。

「イチカ! なんで君が……そうか、君が私を……」

「創造主様じゃん。さすが、私達を創り出しただけあるね。でも、あれ……なんか、あの(カタストロフィ)と同じ感じするよ?」

「まあ、それは『僕』だけじゃなくて『わたし』も居るからね。あとで説明するよ」

「……よく分からんが、俺は彼女に従うだけだ。いくぞ、九尾型」

「あいあいさー。……ふふ、あん時の恨み、ここで晴らしてやる。その仰々しい身体ごと、ぐっちゃぐちゃのばらっばらにしてやる……あははっ」

そして。

二体は、ヒツユへと飛び掛る。

ヒツユの心の迷いなど、御構い無しというように。

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