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2101年。

人類は、空へと飛んでいた。否、逃げていた。

彼らは『空中庭園』と呼ばれる空飛ぶ要塞を造り上げ、それに乗り込み、地上へ降りかかる脅威から逃れることが出来ていた。

そんな人類の最後の砦――――――『空中庭園』。その中でも最も端にある、通称『地獄への入り口』と呼ばれる建物の中に、彼女は居た。


「あれー、ちょっと早く来すぎたかなぁ」


見た目は14~15歳程度。小さな背丈と茶髪のショートヘアーが可愛らしい彼女の名前は、『霧島(きりしま)日露(ひつゆ)』だ。

彼女は現在、『地上掃討軍射出所』の玄関ホールに居た。辺りをキョロキョロと見回し、そして首を傾げる。

(でも、どうせちょっとだけだから。そこのベンチに座ってよっと)

そう思いながらヒツユは、病院などにあるようなプラスチックのベンチに腰掛ける。両隣にはどちらも疲れたような顔をした少年達が座っていた。恐らく、高校生くらいだろう。

彼らは、単に歩き疲れた、などという簡単な理由でベンチにへばっているのではない。これから始まる『戦い』の重圧に押し潰されそうになっているのだ。

――――――死にたくない。

――――――降りたくない。

そんな言葉が、彼らの脳裏にはよぎっているのだろう。

そう、これから始まる『戦い』は、彼らにとって災厄に他ならないモノだった。

(……みんな嫌そうな顔してる)

その時、近くの柱に取り付けられたモニターに、『第62部隊は第3発射場まで来てください』という文字が現れた。同じ内容がアナウンスされる。瞬間、右隣の少年が、

「うわぁぁぁ……来た……」

なんて愚痴をこぼした。しばし俯いてから、彼はゆっくりと立ち上がる。顔面蒼白という言葉が一番似合いそうなほど辛そうな表情を浮かべながら、彼は去っていった。

「……頑張ってね」

そんなことを小声で言ったって、彼の運命が変わる訳じゃない。彼の生死は、彼の行動に懸かっているんだから。

去った少年に届かない声で呟いたヒツユは、小さく顔を上げた。

「カルネイジ……か」


それは、これから起こる災厄を引き起こす者の名。『虐殺』の意を持つその名を聞いただけで、この『空中庭園』に住む大半の人間が顔を俯けてしまうだろう。


数十年前に現れた動物の突然変異、それが『カルネイジ』。その脅威は瞬く間に広がり、人類は90%程がその虐殺者(カルネイジ)に殺された。

残った人類は空飛ぶ要塞、『空中庭園』を造り、空に逃げた。そのお陰で今、こうして人類は絶滅せずにいられている。

しかし、そんな急造の空飛ぶ要塞など、人が増えていけばすぐに埋まってしまうだろう。元々、人口面積は危険な状態なのだ。

その為に作られたのが、


「あなたがヒツユね」


「あ」

ヒツユは顔を上げる。そこには、綺麗な外国人女性が佇んでいた。紫がかった髪、海のような青色の瞳。ヘソを見せるような短いタンクトップと、かなり短く黒いズボンを履いた女性だ。彼女は焼けるような赤色のマフラーを僅かに整えながら、もう一度ヒツユに話し掛ける。

「あ、じゃなくて……はい、でしょ? ったく、挨拶もろくに出来ないの?」

「……わぁぁあああああああああ!!」

そんな嬉しそうな声と共に、ヒツユは勢いよく立ち上がる。目の前の女性にいきなり抱き付きながら、彼女は黄色い声でこう言う。

「あなたがイリーナさん!? やったぁあああああああ!!」

「ちょ、なにどうしたの!? いきなり何を……!」

この女性の名前はイリーナ・マルティエヴナ・アレンスカヤ。ロシア人女性である。

「だってすっごい綺麗! 胸でかいし……!」

「あ、ありがとう……」

ヒツユからの称賛を、イリーナは多少引きぎみに返す。ヒツユを元のプラスチックベンチに座らせると、彼女も同じようにヒツユの隣に座った。

「うわっ、なんか生暖かい。誰か座ってた?」

「うん。怖くて冷や汗びっしょりのお兄さんが」

「うえぇ気持ち悪っ」

イリーナは心底気持ち悪そうな顔で溜め息をつく。

「……まぁ仕方ないか。ていうか、国はこんな小さい女の子までカルネイジ掃除に駆り出すのね。よっぽど人口増加に切羽詰まってんのね」

「? じんこ……ん?」

ヒツユは首を傾げる。その可愛らしい仕草に、イリーナは一層嫌な気分になる。

(……はぁ、ホントにヤバいのね。武力さえあれば頭はどうでもいいとか……もう終わってるわ)

人口増加ぐらい中学二年生くらいだったら覚えてるべきでしょうに、と口をこぼす。

「もー、ちゃんと教えてよっ」

「だからえっとね、アタシ達が地上に降りるのは――――――」

その時、新たなアナウンスが響き渡った。


『第68部隊は第9発射場まで来てください。繰り返します、第68部隊は――――――』


「……アタシ達だわ。行きましょう」

「続き」

「降りたら話すわよ、ほら早く」

イリーナはヒツユの手を引っ張り、ホールの奥へと歩き出す。細長く伸びた薄暗い通路を、二人は進んでいった。

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