プロローグ
主人公が別次元の世界に行き、そこでおきている問題(事件)の謎を解明して解決するというのがすっごく大まかな話の流れです。ちなみに相棒役の男に関してはアクション場面においてまったく1ミリも役に立たないヒーローを書こうというのが自分の中の目標だったりします(笑)
小説書くのが遅い上に、完結できるかも怪しいですが、完結目指して頑張ります!!
ゆびきりげんまん
うそついたらはりせんぼんのーます
ゆびきった
夕飯の買出しに出かけた帰り道に出会ったのはそんな懐かしい旋律だった。
私は踏み出した足を止め辺りを見回す。けれど閑散とした住宅街には車どころか人の子一人おらず、斜から差し込む茜色の光が民家の窓ガラスを同色に染め上げている様子しか見て取れない。と、その時体を吹き抜けてゆく風が肩口で切りそろえられている自身の髪を音もなく揺らした。
なるほど。
どうやらあの旋律はこの場所で歌われたものではなく、緩やかに吹く風に乗って運ばれてきたものなのだろう。人影が見当たらないことも頷ける話だ。
私はずっしりとした重さを伝える買い物袋を持ち直し再び歩き始めた。ゆっくりとした歩調に合わせてリズムを取りながら先ほど聞いたあの歌を口ずさむ。もう何年も口に出さなかったメロディは不思議なことに忘れることはなく、幼少のころに近所の友人と交わしたささやかなやくそくを思い起こさせた。それこそ小さなお互いの小指を絡め、小気味良いリズムにあわせて腕を振っている自身の姿が鮮明に思い浮かぶのだ。けれど、その約束がきちんと守られたかどうかは定かではない。いや、きっとあの頃自分の中に生まれた小さな自我は簡単に自身を没落させ、結局自分は約束を破ってしまったのだろう。
今思うと小さいころの私にとってこの行為は自我が芽生え、とかくわがままになりがちな自分自身を戒めるものに過ぎなかったのかもしれない。そして約束を守れなかった自分はそのたびに友人と小さな諍いと仲直りを繰り返していた。
約束をし、そして破られるというサイクル――
それは子供同士が行うほんの些細な約束であったからこそ許されるものだったのだろうか?
音のない夕暮れはどこか別の世界に繋がっているような感覚をもたらすものだった。
“おおまがとき ”
そう呼ばれ人々の心に不安の陰を呼び込むこの時刻は別の意味で私を翻弄する。胸にしまいこんでいた古びた記憶を呼び起こすのだ。
『やくそくをしよう』
通り過ぎた家々から香る夕餉の匂いが鼻先をくすぐる。
『ずっと一緒にいられるように』
けれど自分の意思に反して思いは急速に過去へと引きずられた。
『離れ離れにならないように』
自然と歩みが遅くなり私はピタリとその場に立ち尽くしてしまう。
仰ぎ見る空から濃厚な夜の気配を感じ取ることができた。
『やくそくをしよう』
闇が私の頭上を覆いつくそうとしているのだ。
その世界では太陽の庇護が届くことはない。
あるのは月の輝き。
闇の中で唯一の光源は淡いあの光だけとなり、太陽のような暖かさをもたらさない弱弱しいそれだけが全てとなる。
「でも――」
私は空に向かって呟いた。
買い物袋の紐が指に食い込んで痛みを訴える。
「本当にそれでよかったの?」
震える声を聞いている者は誰もいなかった。
***
彼女は微笑んでいた。
まるで春風が頬をそっと滑るかのように、大切な人たちに向かって――
彼女は呼んでいた。
まるで湖面を静かに揺らす波紋のような声音で、大切な人たちの名前を――
だから幼いころの自分はいつも母親の胎内の中をたゆたっているような心地よさと安心感の中でまどろんでいられたんだ。
けれど彼女のことを思うたびに感じる痛みは消えることはなく、心をじわりじわりと侵食する闇は簡単に無くすことはできなかった。だから、
「おねえちゃんはしあわせなの?」
「うん・・・・・・しあわせだよ。」
「じゃあ、つらくはない?」
「つらくなんてないよ!!」
思わず口にした台詞に彼女はそっと手を重ねることで答えてくれた。そこから伝わる熱は自分の言葉を肯定してくれているようでふっと心が軽くなる。触れ合った肌からあふれる信頼と愛しさが悲しくもないのに涙を誘った。
「どうして?どうしておねえちゃんはしあわせっていえるの?つらくないっていえるの?」
「それは・・・・・・」
繋がれた手にギュッと力をこめた自分。
その思いに応えるように彼女はやんわりとその手を握り返してくれたんだ。ただそれだけのことが嬉しくて、嬉しくて――
だからこそ、彼女の骨ばった荒れた手をどうすることもできない自分がたまらなく悔しかった。
「ねぇ、どうして?おねえちゃんはしあわせだっていえるの?」
「うーん、それはね?1人じゃないから、かな。」
「え?」
そっと頭上に乗せられた指が自身の髪を掬うように撫でる。
それは彼女がよくおこなっていた何気ない仕草だった。
そして幼い自身の心を震わせる仕草だった。
「いっしょにいられるから?」
「うん。だって一緒にいられればこうやって抱きしめることができるもんね?そうすれば寒くはないでしょ?」
背中に回された腕がそっと自分を抱き寄せた。
「寒さで体が動かなくなっちゃったら何もできないけど、私はあったかいから頑張れるんだよ?」
「おねえちゃん・・・・・・」
太陽みたいに明るい笑顔に隠された真実を知ったのはずっと後のこと。
結局自分のことしか考えられなかった子どもは簡単に不安を口にした。
「でも、もしずぅっといしょにいられなかったら?」
けれどその言葉にすら彼女は小さく微笑んだ。その拍子に触れ合った肌から伝わる振動が自身の体を優しく揺らした。
「じゃあ、やくそくをしようか?」
「――ッ!?」
と、とたんに目に飛び込む漆黒に呆然とする。そっと手を突いて体を起すとパタパタと膝の上に水滴が落ちた。
あまりにもリアルな夢。
彼女の肌のぬくもりも、匂いも感じられそうなほどリアルな夢。
そして、まだ何も知らない残酷なほど無邪気な自分が馬鹿面をさらしている夢――
窓から差し込む淡い光に照らされて机上の書類と白い紙袋がほんのりと光って見える。
これは偶然か?
それも必然?
そのどちらが正しいのか自身に分かるはずもない。けれど、
「やくそく・・・・・・」
自分が行うべきことはただ1つだけだった。




