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帝国の終章は異世界で  作者: リュウジン
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第三話 賽は変えられた

ちょっと駆け足で話を進めます

第三話 賽は変えられた


世界の行く末を大きく変えていながら原因が未だに解明できない当時の世界各国の政治家、科学者が一様に頭を抱えた歴史的大事件の最初の事象が起きた場所は、有力な説では1944年6月21日アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市の夜だと言われている。



夜のシカゴ市幹線道路を愛車のフォード製デラックスで走っているジェームズ・コンラッドは勤め先から帰宅途中にあった。


普段なら残業せず、すでに帰っている時刻だったが最近はボーイング社で開発されアメリカ陸軍でも、ひと月前から正式に運用開始されたばかりであるB-29爆撃機の生産をジェームズが技術者として働いているボーイング社の工場が担当しており、運用されてから判明した改善点を生産ラインに反映させる作業のために残業を繰り返している。


これが普通の旅客機生産でのことならジェームズは声を大にして社に文句ないし愚痴を周囲に漏らすが、戦場で戦う勇敢なるアメリカ軍兵士が、あの憎きナチどもを自分の作った爆撃機で焼き尽くしてくれると思うと不満を覚えるどころかこの仕事を誇らしくさえ感じていた。


朝や夕方は通勤する車で混雑する幹線道路も夕飯時をすぎた時刻となると走る車の数も少ない、スピードが出ない旧型車に何台も前を塞がれてイライラする事もなくジェームズはリラックスして買ったばかりの愛車を走らせていたが。


(……?)


風邪を引いたわけでもない急に悪寒が体中を巡ったのでジェームズは困惑しながら辺りを見渡しても、先程と変わらないヘッドライトが道路を照らしているだけの景色だったが、悪寒というより嫌な予感は治まるどころか徐々に強くなって行く。


(どうした…別になにも)


何か変化があるわけでもないのに本能が強く訴える警告を不安だと思いながら、実際に何かが起きているわけでもないのでそのまま車を走らせているが、この時に幾分かの減速をしておいたのがジェームズの命を結果的に助けることになった。


「なっ!?」


いきなり目の前の道が轟音を立てて“消失”したという緊急事態にパニック状態の頭が機能を復活させてからブレーキをかけて車の前輪だけが突如出来た穴に突っ込むだけで済んだということだから普段のスピードだったら今頃は道と一緒にジェームズは消失していただろう。


「いっ、一体なにが…」


しばらくは車の中で目の前の出来事と自分の命が助かったことが信じられず座ったままだったが、前輪だけとはいえ穴に突っ込んでいる車は危ないとしばらく経ってから気づき車内から恐る恐る這うように出る。


這ったまま穴を覗いてみて道が消失したのでなく2、3m崩落したと初めて知り、ここもまだ崩落するかもしれないと考えて、とりあえず一旦ここを離れてから警察と消防に電話するために下がろうと後ろを見てしまった。


「“こっち”もかよ」


今度は少し離れた道が沈むではなく盛り上がって2、3mの土壁になっていたため、またしばらく思考停止状態になったが少し離れた場所を見たためようやく自分の周りが地獄絵図となっている事に気づくことができた。



「誰かー助けてくれーー」


しっかりと舗装されていたはずの幹線道路は今やいたるところで穴や壁が発生し、走っていた車はジェームズのように助かることは叶わず壁に突っ込んでしまったり穴に落ちてしまったりとそこらじゅうで煙を吐いて中には爆発炎上している車もいた。


「待って車にまだ子供が!!」


幹線道路には道だけが引いているだけではなかった、各都市に運ぶガス、水道、電気のライフラインも道に沿って引いてあったが、これらにも深刻な損傷を受けたため被害をより深刻かつ広範囲へと事態を持っていく。


「くそったれ、足が挟まって」


近くに見える川にかかっていた橋は橋脚の一部が地面に沈んでしまったために真ん中の橋桁が折れてしまい、橋としての機能を完全に喪失している。



「神よ…」


あまりの惨状に心を折られたジェームズは地面にへたり込み思わず神に祈っていたが、自分の数百メートルの上に光り輝く球の体を持ち、この惨事を引き起こした“神様”がいた事にはもちろん気づくわけがなかった。



(うーん、ちょっとやりすぎかな)


アマナグルは上空数百メートルから自ら引き起こした地獄絵図を眺めていた。


シカゴ市の主要な橋、幹線道路はアマナグルが得意とする転移魔法でボコボコになり、車や都市ガスに引火した箇所も発生してため街の一部は昼間のように明るくなって上から街の被害状況が確認が容易になっている。


とはいえアマナグルの目的は人を殺すことでない。


(でも、これで道や橋はしばらく使えない)


東條達に自分の力を認めさせるためにアメリカと対等な講和をさせると約束したが、アマナグルはこの世界に来たばかりであまり世界情勢には詳しくない、なので単純明快にアメリカを戦争継続不可能に追い込んで講和に持ち込ませよう考えた。


とはいえアメリカが強大な国ということは流石に知っていため。


(いかに強大な獅子でも内側から血液を止めたら死ぬしかないよね)


古今東西、そして例え異世界だろうと国家の血管と言われている道を転移魔法を駆使して破壊することによってアメリカの戦争継続を不可能に追い込んでみようとアマナグルが実験を行ってみたため下の状況が生まれたわけである。


(でも根こそぎやっていたら魔力が足りない、もう少し効果的なやり方が必要かな?)


しかしアメリカも広い上にアマナグルも無限に転移魔法を使えるわけがないので道路の数センチ下の土を数メートル離れた場所の道路の下に転移させて一回の転移で二箇所破壊する工夫も凝らしていたが穴と盛土を作っただけでは結局そう長く使用不可にはできないはずなので焼け石に水だった。


(とりあえず何箇所かやってそれでも未来が変わらなかったら何か考えよう)


長々と考えるのがめんどくさくなってきたアマナグルは、一旦は問題を先送りにしてもう何度か試すための供物となる次の街へと飛んでき、未だに赤く照らされるシカゴ市だけが残された。



このアマナグルによる交通網の大規模破壊により、アメリカ合衆国政府は未曾有の大混乱に陥った。


夜中に事態を知ったアメリカ大統領のルーズベルトは直ちに、ホワイトハウスで緊急対策の会議を開こうと閣僚を招集したが、すでに道路が破壊され車が使用できないため、暴動まで発生している中でホワイトハウスに徒歩で行くしかない状況では、明け方になっても主要な閣僚は国務長官のハルしか集まらず、対応の遅れに拍車を掛ける事になる。


「ではジョンソン大佐、報告をたのむ」


明け方の大統領室にて被害状況の1次報告を、顔を真っ青にして黙っている部屋の主であるルーズベルトの代わりにハルが道路の復旧対策の現場指揮を取っている陸軍大佐のジョンソンに説明を求める。


「はい、被害が集中している中部、東海岸の各州の州軍、そして地元の警察、消防と協力して復旧作業にあたっていますが、道路の復旧には早くとも1年以上は必要です」


「1年だと…」


ハルは思わず頭を抱えたくなった、中部と東海岸はアメリカで最大の生産能力と技術開発もつ重要地域であり、アメリカの戦争遂行には不可欠な場所だった。


「現場までの移動に車が使えず、まだ崩落の危険性は残っていますから作業は慎重に行わなければなりません、また同じ理由で重機も投入できませんので手作業です」


この災害の原因は、どの科学者からもまともに答えられておらず、しかも再び起きる可能性も否定できない上にその地域の安全確認すらどうやったらいいのかも分かっていない。


おかけで中部と東海岸から脱出を図ろうとする人が大量に発生して混乱が被害の小さい州にまで波及させていたのに政府は今回の事態になんら具体的な説明も国民にできていなかった。


「ライフラインは?」


「担当の技術者達によりますと一部のパイプや電柱がごっそりと無くなっているので、新しいパイプと電柱が来ないとどうしようもないそうです」


「そしてその輸送に」


「はい、トラックを使いますのでライフラインの復旧は、道路の復旧以降となります」


「そうか、では引き続き道路の復旧を最優先で頼む、要請があった人員の追加はなんとかしよう」


「ありがとうございます、それでは失礼します」


ジョンソン大佐はハルとルーズベルトに敬礼すると大統領室から出て行った。


ハルは扉がしまったのを確認するとルーズベルトにどうする?といった目線を送るがルーズベルトは絶望した顔で首を振りため息を繰り返す。


(無理もないか)


工場に直接被害はなかったが、電気水道ガスが供給できない上にそもそも資材が届かない、つまり1年近くの中部と東海岸における生産能力の喪失による今後用意できる戦力の大幅な低下。


一見関係なさそうな戦艦や空母も発注していた部品が作れないまたは届けることができないため一時建造停止となった。


そのため兵器の生産能力向上のために工場や造船所で大量に雇用した臨時工も職を失うなどの経済の被害も深刻な物になる。


そしてもっともルーズベルト達が心配したのは国民の厭戦感情が高まることだった、今までは戦争中でも生活が苦しくなることがなく、ドイツと日本に対する怒りで国民の戦意はむしろ高かったが今回の災害での被害で生活が苦しくなり戦争を続ければ、誰だって大量に生産された物資が生活が苦しい自分の前を通り過ぎて戦地に送られたら怒りを政府に向けるだろう。


戦地にいる兵士達も家族が大変な目にあってるかもしれないとすれば士気の低下も心配された。


つまり一晩でアメリカの戦争計画は根底から崩壊することになった、今後戦争の行方がどうなるかはハルにもわからなかった。


考え事をしていたら大統領室のドアが慌ただしくノックされたためハルは我に帰りルーズベルトを見るが入室の許可を与える様子がないので代わりに許可を与えるとホワイトハウスの職員の一人が入ってきた。


「失礼します!、先程パナマ共和国より至急電報がありました」


ハルはパナマと聞いて背筋が凍りつく。


(まさか…そんな嘘だ…そんなこと)


「内容は明朝にパナマ運河にて原因不明の大規模崩落が発生したため、運河の使用について大至急話し合いとのことです」


「……」


ルーズベルトとハルは聞いたことが信じられず口をぽかんと開けて呆然していた。


パナマ運河が使えなくなればアメリカは太平洋と大西洋を結ぶ最短経路を失った事になる。


「それは本当か?」


「残念ながら真実かと」


ハルは激しい目眩を感じて頭を抱えるがルーズベルトが体を震えさせながら机から転げ落ちたので慌てて駆け寄る。


「大統領!?」


「頭が・・ひどく・・・痛い」


「医師を早く呼べ、大統領が倒れたぞ!!」


ルーズベルトはこの後あまりのショックで史実より10ヶ月早く脳卒中で亡くなりアメリカは指導者も失い更に混乱の渦へ引き込まれた。



このアメリカでの大規模災害と大統領の死はすぐに世界が知ることになり大きな衝撃を与えた。


大日本帝国でも東條はこの事態に緊急会議を招集した結果、とりあえずルーズベルトの死を悼む内容の声明を出して後の具体的なことは情報が集まってからとなったが事の真相を知る、あの4人は会議中はずっと顔が真っ青だったため他の閣僚から心配されたりした。


そしてその日の夜に4人はまたアマナグルに例の世界に呼ばれて東條達はアマナグルの力を認めてアメリカとの講和を目指すことになったのは言うまでもない、敵になると恐ろしいにも程があるが味方でも恐ろしいといえば恐ろしいがまだマシと言うことだった。


その後東條はすぐに内閣を解散させ新たにできた鈴木貫太郎内閣は終戦工作を行うことになり、その結果アマナグルの世界に呼ばれる人間が増えたりもしたがそれは仕方のない尊い犠牲といえるだろう。


しかしこの終戦工作の動きに大日本帝国における最大の障害と言うべき勢力は静かに牙を剥き始めた。


アマナグルのことマグちゃんと呼べる人は多分出ません(汗)


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