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帝国の終章は異世界で  作者: リュウジン
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第二話 分水嶺

異世界に行くまでもう少しかかります

第二話 分水嶺


大日本帝国には、その後の日本国では廃止された五相会議なるものがあった。


主に陸海軍の軍事行動について話し合うための会議であり、参加するのは内閣総理大臣・陸軍大臣・海軍大臣・大蔵大臣・外務大臣の五人の閣僚で開催されるため五相会議と呼ばれる所以である。


今ここに居る四人の閣僚

総理大臣兼陸軍大臣 東條英機

海軍大臣 嶋田繁太郎

大蔵大臣 石渡莊太郎

外務大臣 重光葵

の、4人が長机を囲んで座っている。


世界がただ青空が広がる草原しかなかったり、長机の真ん中に喋る光球がふわふわ浮いている、異常事態一色の状況だとしても一応参加メンバーだけ見ればこの状況は五相会議とも言えるだろう、ただし普通の五相会議と違い会議の進行役は少なくとも人間ではない。


「それじゃあ、話を先に進めるけど・・・」


進行役でありこの状況を生み出した本人である光球、アマナグルは話を先に進めようとするが大蔵大臣の石渡荘太郎が待ったを掛ける。


「待ってくれ、先程君はこの世界を“私の世界”と言ったがどういうことだ、我々の体は今どうなってるのだ」


ここにいる全員この世界に来た時に自らこの世界が夢ではないと証明されたが、この世界に体ごと連れてきたとなると今、各自宅には布団だけ残っているので、もし家にいる家族などに発見されたら誘拐といった大きな騒ぎになるのでは、と石渡は心配になった、そもそもここから帰してくれるのかという心配もあるが。


「えーっと、それはね私これでも元の世界では時の神様だから、あっ!神様と言っても私はとても親しみやすい神様だから私のことは気軽にマグちゃんとでも呼んでいいからね、それでこの世界は一言で言うと神様専用空間かな?と言っても諸事情でただの草原世界だけどね、とにかくこの空間に君達の魂だけ呼んで仮の肉体を与えているだけだから君達の言う現実世界ではただ“死んだように”寝てるだけだから安心してね」


「そ、そうか、話を遮ってしまって済まない」


話の内容はよくわからなかったがとりあえず魂だけ呼ばれた事はわかったので、なにか聞き捨てならない単語も聞いたような気もするがとりあえず、この自称神様の話を進めること石渡は優先した。


「いやいや、これからもなにかわからない事があったら遠慮なく質問してね、それと今質問で思い出したけど私からも君たちにいくつか聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


そう言うとアマナグル目の前の何もない空間からいきなり羊皮紙が一枚あらわれた。


羊皮紙には外交官という仕事柄で数多くの言語に触れたことがある重光も見たこともない文字でびっしりと埋め尽くされている。


「私達が話せる範囲なら」


東條はアマナグルが世間話のような軽さで重大な事をポイっと渡してくるのは身に染みてわかっていたのでいくらか緊張気味にとりあえず当たり障りがない返答するが、いくら人智には計り知れない不思議な力を持つとはいえ自称神様に国家機密などを話つもりはもちろんない。


「大丈夫だよ、“国の特徴”について確認したいだけだから」


そんな東條の心情を察したのか、アマナグルは安心させるかのように言うと、えーっと言いながら羊皮紙を目で流しながらと言っても外見から何をしてるか全くわからないが目的の項目を見つた。


「まず一つ目は、ニホンは島国だよね?」


「元島国だ」


なんでそんことを聞くのかアマナグルの真意を測りきれないが、東條は本当にただの国の特徴なら答えても問題はないだろうと正直に質問に答える。


大日本帝国が誕生以来、東アジアへの欧米諸国の進出を食い止めるためにそして増えた人口を外地へと送り出すために中国大陸へ進出を繰り返してきた大日本帝国は島国ではなくなり、ついには満州国建国までこぎつけてきた、しかし多くの血を流して手に入れた大陸の領地を失いがためにアメリカとの戦争となるのは皮肉と言えた。


「いや“本体”が島国ならいいんだ、二つ目はね魔法文明の有無はもう調べが付いてるから、えーっとニホンは資源がない?少なくとも自給自足できない?」


東條達はいくつか不穏にも聞こえる言葉聞いてお互いに顔を見渡したが、とりあえずはこの一問一答を続けることにする。


「・・・少なくとも資源大国ではない」


日本列島には資源の種類は多いがとにかく量が絶望的に少なく、各種資源特に石油を獲得するには輸入に頼っていたために、アメリカがABCD包囲網で全面禁輸処置をしたために生命線を断たれた日本は戦争を決断することになるが、東條は答えながら、もし我が国が資源大国だったら私は陛下に泥棒いたすしかございませんと言わずに済んだんだろうなと考えずにはいられなかった。


「じゃあ、次が最後になるけど海軍には、自信がある?」


やっと最後の質問だと先程の質問で若干欝になっていた東條だが、最後の質問を聞いて東條をいれて3人はその質問で緊張が走った。


3人は恐る恐るといった感じで“海軍”大臣の嶋田を見る。


「自信だと?・・・帝国海軍はもう・・・」


3人が心配した通りに嶋田は見るからに深く落ち込んでしまったが、なにせ開国当時は海軍というより水軍としか言えないほど脆弱だった帝国海軍は、数十年で大国である清の北洋艦隊、次に構成は世界最強だったバルチック艦隊を下してみせ、今となっては列強でも有数の海軍となった栄光の大日本帝国海軍は今やアメリカ海軍に負け続けのジリ貧状態で、そこにきてあの大敗を喫したマリアナ沖海戦が起きてからまだ数日しかたっておらず未だに嶋田は立ち直れてはいなかった。


「世界有数の海軍だと自負している」


完全に欝状態となり回答不能となった嶋田の代わりに陸軍大臣でもある東條が海軍を誇るという、普段だったらまずありえない光景が繰り広げながら若干一名の犠牲者が出たもの、東條達はとりあえず最後の質問に答える。


「うん、ありがとね何事もチェックはきちんとしておかないいけないよね、やっぱりこの国が一番“条件”に一致してるね、さすが私」


人の地雷を思いっきり踏み抜いておきながら微塵も気にした様子がないアマナグルは一人で勝手に納得すると羊皮紙をまたどこかにしまった。


「それで結局君の目的はなんなのかね?」


先程の質疑応答もだがまったくアマナグルが何をしようとしてるのわからない東條達だったが先程のなにげもない国の特徴を答えただけで、この国だけではなく世界の分水嶺だったとわかるはずもなかった、つまるところ。


「うん私の目的はたった今確定したよ、この国を異世界に召喚すること」


この世界のいわゆる史実ルートが消え去った瞬間である


「・・・!?」


東條達は呆然として何らリアクションを示さなかった、この自称神様が何か良くないことをしでかそうとしてるのはわかっていたし、言われる覚悟も完了していたが流石にアマナグルが宣言したことが予想の斜め上過ぎて理解が追いつかなかった。


「あれ?なんで黙るの?うーん・・・」


重要なことを言ったのに東條達が驚いたりと何ら反応を示さないことに不満に思ったアマナグルは今度は威厳を込めて言ってみる。


「この世界を異世界に召喚することだ!!」


「一体何をいっているのだ、意味がわからん」


ショックから立ち直った東條はとりあえず、ここにいる全員がまず思ったことを代弁した。


「えー、だから・・・」


何度も同じことを言うのが、めんどくさくなり口で言うより見せた方がいいのかなと思ったアマナグルは一旦区切ると長机の上に大きな日本地図を召喚する。


「ニホンの赤くなってる部分を私の世界に召喚するの」


アマナグルがそう言うと長机の上に置かれた日本地図の日本列島のみが赤く染まるが,今は日本に併合されている朝鮮半島などは赤くならなかった。


「そもそも、そんな事ができるわけがないだろう」


確かに東條はアマナグルが人ならざる力を持っている事を認めていたが、これは4人の魂と日本列島では話のスケールが違いすぎたし、そもそも国を異世界に召喚すると言われて、はいそうですかと言う人がいるわけがない。


「大丈夫、依頼人から必要な魔力は貰っているから」


アマナグルはここに来る前に依頼人から莫大な量の魔力を補給しているから、それぐらいの魔法は行使できると伝えたかったのだが、東條が言っていたのはそう言う意味ではない。


「君たちの世界では普通かもしれないが私達の世界ではそういった不思議な力がそもそもないのだよ」


4人の中で最初に冷静になれた重光はアマナグルに認識のズレをしている事を伝える。


「あっそうだったね、こっちには魔法文明がないんだよね、うーんどうしよう」


アマナグルにとっては、当たり前である魔法がないとすると、アマナグルがすでに東條達の世界に渡っているという実演で最高峰の魔法技術を持っている事を見せていたことに意味はなく、ただ東條達がアマナグルが不思議な力を持っている事を認めさせているに過ぎない、東條達に自分が国を異世界に召喚するだけの力を持っている事を認めさせるには、東條達にとってそれと同じくらい事を実演してみる必要がある事は、アマナグルにもようやくわかったが、一体何をしてみせれば信じてくれのかがアマナグルを悩ませた。


「それで仮に君が私達の国を召喚するとして何故私達をここに?」


重光が一番聞きたかった事、アマナグルに4人を呼んだ真意を問う、

ただ質問するためだけにここに呼んだとは重光にはどうしても思えなかったというよりそうで欲しくなかった。


「それはね、ほら君達の国は今ものすごい戦争してて、それでしかも負けそうな状況でしょ?だから国のトップの人達に何も言わないでいきなり召喚するのは“かわいそう”かなと思って、それで最初はこの国のトップの天皇陛下に会ったんだけど、その人に「この国の行き先を決めるのは朕でない」って言われたから、じゃあ誰に聞けばいいのって聞いたら君達に聞くと良いって言われたから、ここに呼んだの」


「……」


東條達は、かわいそうだと思っているならそもそも召喚しようとするなと心の中で突っ込んだが、それよりも衝撃的な名前が上がったのでそんなことは吹っ飛んだ。


「そうか…陛下が」


重光は何故ここにいる人物があまり日本に詳しくなそうなアマナグルが五相会議と同じ人選ができた理由をようやく知ることができた。


「でも困ったなあ、私としてはすぐに戦争終わらせて異世界に行く準備をして欲しかったんだけどね」


すぐに召喚するのは、かわいそうだからせめて準備期間はあげようと思ったいたがこの戦争の結末を“知っている”アマナグルからすると、依頼人のやりたいことをこの国にやってもらうには、日本がこのまま戦争を続けてしまい、疲弊しきった状態で召喚してもダメだった。


「戦争を終わらせるか、対等な講和ができるようなら考えても良い、あのアメリカがそんなことをするわけがないと思うがね」


確かに大日本帝国は、圧倒的不利な状況に追い込まれているのは、東條にもわかっていたし、すぐにアメリカと講和するべきという意見も閣内からも出ていたが、東條には開戦前のアメリカとの交渉時に日本がドイツとの同盟を解消するとまで譲歩する提案に対する答えが、日露戦争以降の日本が獲得した全ての権益を破棄せよというハルノートを出すような国がまともに交渉できるとは、思えなかった。


それに東條は、日本がこのまま徹底抗戦を続ければアメリカ側に厭戦感情が蔓延して、根を上げるから大丈夫だろうと楽観視していた。


そのため、終戦工作をする上で邪魔だと思われた東條は、マリアナ沖海戦後に激化した倒閣運動にて結局総理を辞職することになるが、もちろんまだ本人は知らない。


「しかし総理このま…」


重光が、終戦工作に対する批判に反論をしようとするが、それをアマナグルの嬉しそうな声を上げて遮る。


「じゃあ、もしそのアメリカと対等に講和できる状況を私が作ったら私の話を信じて協力してくれる?」


アマナグルは、自分の力をどうやって東條達に信じさせて戦争を辞めさせるか、悩んでいたが即時のアメリカとの対等な講和という東條達にとって話のスケールが大きく絶対不可能な物が出てきた上にそれは、アマナグルには“簡単”なことだったためまさしく渡り舟となった。


「…もし出来たら少なくとも君の力を信じよう」


終戦工作のことを持ち出されて少し熱くなっていた東條はそんなことはできるわけがないと思い答えた、そう答えてしまったのだ。


「その言葉忘れないでね、じゃあ私は、ちょっとアメリカに行ってくるから、明日また会おうね」


そういうと唐突にアマナグルは4人がなんの反応も返せないうちに虚空へと消えていった。


「…まずいことを言ってしまったか」


いきなり、何もない草原に取り残され呆然としていた東條たちだったが、アマナグルと約束してしまった東條はなんだかとんでもない悪魔の力を借りてしまったような気がしてきたが、何故なら明日もアレに合わないといけない方がきつく思わせるほど嵐のような存在の自称神様だからである


「一応、力を信じるとだけでなにか具体的な物は要求されてませんから大丈夫かと、ただ明日もここに連れて来られるようですが」


重光は外交官という口を使った戦争を何度も戦ってきた今回ばかりは終始相手のペースに飲まれていたことに悔しく思いながら、ようやく緊張から解放された事には安堵しつつ、アマナグルの対応をほとんど任せてしまってた東條に慰めの言葉を掛ける。


「しかし…」


これに対して東條はなにか返答しようとしたが、いきなり目の前が真っ白になり意識を失ったためそれは叶わなかった。


(起きたら全部夢だったという事にはならないのか)


と4人全員が願いながらら悪夢ような現実から目覚めた。



「…ん」


東條は、目覚めて最初に見たものが、見慣れた自宅の天井である事に深く安堵しながら起き上がり、周りを見渡しても何時も通りの朝の目覚めだった。


あの自称神様との記憶はしっかり痛みと共に残っていたし、なにより寝ていたのにとてつもない精神的な疲労を東條は感じていた。


「結局夢だったのか…」


しかし、あまりに現実離れした話だった上に、物理的でなく自分の記憶という不確かな証拠しかなく、何よりも何時も通りの朝を迎えていた東條は、あれは結局不思議な夢ではなかったのではないかと思い始めて、むしろその方であってほしい、とりあえず今日は、あれはなかった事にしようとまで考えていたら、廊下を慌ただしく走る音で東條の思考は中断された。


「なんだ?」


廊下を走っていた人物は東條の寝室の前にたどり着くと襖を思いっきり開ける。


「とっ、東條閣下たいへんです!!」


寝室の襖を開けたのが東條の付き人なのは、顔は汗だらけで息も荒かったがすぐにわかったので、とりあえず付き人に落ち着くようにと言おうと東條は口を開けたが。


「アメリカが!!」


という言葉で東條は、口を開けてそのまま固まる。


日本にとって救世主とも悪魔ともいわれた神様との付き合いの一日目が終わり、日本が異世界に飛ばされるまでのタイムリミットが始まった。

誤字脱字等ありましたら教えてください。

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