第一話 夢と現実
ようやく一話書けました
第一話 夢と現実
1944年6月、この時期は第二次世界大戦において重要な意味を持つ、大戦初期には破竹の進撃を繰り返した持たざる国々たる枢軸国は、圧倒的物量を誇る連合国によって一様に決定的な劣勢に追い込まれたのである。
装甲部隊を集中運用にて敵陣を突破する電撃戦で連合国を翻弄した枢軸国の盟主たるドイツ第三帝国は、1941年6月22日に始まった独ソ戦でもソ連に対して圧倒的強さでソ連領へと流れ込んだが、ソ連の都市であるスターリングラードにおいて史上最大の市街地戦で泥沼にはまってしまい、戦力を大きく消耗し敗北。
これにより独ソ戦においての優位がドイツからソ連へと移り、1944年6月22日にソ連のドイツに対する最大規模の反攻作戦となったバクラチオン作戦で、世界に誇ったドイツの装甲部隊も巨大な赤い津波の前に敢え無く飲み込まれていき、独ソ戦前の国境まで押し寄せられていった。
そして同月6日には大戦初期に占領したフランスにおいて第二次世界大戦で史上最大かつ最も有名なノルマンディー上陸戦が決行された。
ドイツ軍も少数ながら必死の防衛戦を繰り広げ、連合軍にも決して小さくない規模の損害を与えるも連合軍の物量に押し込まれてしまい、上陸戦は成功しドイツ軍は東と西で二正面作戦を展開せざる負えなくなる。
同じく枢軸国の1つである大日本帝国も1941年12月8日の真珠湾攻撃でアメリカの太平洋艦隊に大きな打撃を与え制海権を奪取し太平洋戦争に突入した。
制海権を得た大日本帝国陸海軍は当初の作戦日程を上回る速度でマレーやシンガポールを攻略するなど、史上稀に見る快進撃を続けたが1942年6月5日のミッドウェー海戦で空母4隻を失う大損害を受けた頃から戦況が不利となり徐々に後退を重ね、ついに1944年6月19日にアメリカ海軍がマリアナ諸島への侵攻を帝国海軍が迎撃したために発生したマリアナ沖海戦で空母艦隊に壊滅的損害を受けてしまい、ついに太平洋の制海権を完全に奪われてしまう。
このように連合国は華々しい栄光と勝利の歴史を作り上げてき、枢軸国はゆっくりとだが確実に絶望への淵に引きずり込まれて行くのを頑なに見て見ぬふりをして、これは一時期的な物だと周りに言い聞かせ楽観しておきながら、何をしてでも必死に這い上がろうと狂気への道に歩み始めていたはずだった。
1944年6月22日夜中。
「・・・ん」
第40代内閣総理大臣の東條英機はふと気がついたら何もない真っ白な世界に一人で立ち尽くしていた、周りを見てもただ白い世界が再現なく広がっており、なにもなさすぎて上下感覚がおかしくなりかねない。
ここまで来て東條は自分が夢を見ているだと考えつき、さっきまで日課である部下から報告された時にメモした物を更に内容別で3種類の手帳に書き込む作業を終えて布団に入った所まで鮮明に思い出すことができたのでこれは自分が夢を見ていると自覚できる明晰夢に違いないと結論づける。
もう一つは自分がポックリと逝ってしまった可能性もあるがそれなら三途の川が目の前にあるはずなのでありえない、ということで信心深い東條はそれ以上考えないことにしておいた。
色々考えたりすることができるほど意識がはっきりとする夢は少なくとも覚えている範囲では初めての経験だったので、こういう夢もあるのかと戸惑いを覚えていたら木製のドアが目の前にあった。
「いつの間に?」
どこからいきなり現れたとかではなく、まるで最初からそこにあって、存在に今まで気がつかなかったと言えるほど自然にドアはそこに存在している。
「・・・開くのか?」
東條がドアノブを捻って見ようと恐る恐る手を伸ばすと触れるまでもなく勝手にドアが開き、中に入ってくださいとドアが言っているかのようだ。
少々不気味に感じながらこれは夢だから何も臆する必要はないと、東條はそのままドアの中へと足を踏み入れる。
「なっ・・・!?」
ドアの向こう側はさっきの白の世界とは違い今度は雲一つない青空の下に青々とした芝生が生える平坦な大地がどこまでも続いた、しかし東條が驚きの声を上げたのは足に感じる芝生の感触や頬を撫でる風などが、あまりにも夢とは思えないほど現実的すぎたことではない。
何もない平原にポツンとひとつだけ置かれた2~3mの長机を囲んでよく見知った顔ぶれが着席している。
海軍大臣 嶋田繁太郎
外務大臣 重光葵
大蔵大臣 石渡莊太郎
3人とも緊張した面持ちで東條の事を見つめていた。
「もう寝るのが遅いよ、それで君はえーっと、総理大臣のトウジョウだよね、とりあえず座って座って」
いきなり“頭上”から話しかけられて再び驚いて顔を上げるとそこには光り輝く光球が中に浮いており、まさかコレが話しかけてきたのかと、東條が一度に色々と起こり過ぎて混乱していると。
「総理、困惑しておられるのは重々承知ですが、とにかく一度座って落ち着いてください」
重光が助け舟を出して着席を勧めると東條は我に返り、これは夢なのにをさっきからなにを狼狽えておるのだと自分を叱咤すると自分の夢ながら全く状況がわからないが3人が座っている長机まで歩いて着席した。
「これで君が呼んだと言った4人は全員揃ったから詳しい事情を話してくれるかな」
重光は東條が座ったのを確認し光球に向かって話しかけると、光球は4人が座る長机の真ん中にフラフラと移動する。
「ちょっと待ってその前に、みんな同じ誤解してたから聞くけどトウジョウはコレが夢だと思ってる?」
光球は重光の質問に答える前に、先に来た3人から学んだ初めてこの空間に来た人間にするべきことを実践する。
「そうだが」
男か女か判別がつかない声で喋りこの空間で一番非現実的な存在である光球の質問に東條は夢で夢を見てるのかと聞かれるのも変な話だと思いながら素直に返答する。
「うーんやっぱりね、じゃあ他の3人にもやってもらったけど、手の甲を抓ってみて」
この世界でも定番であることがさっき確認された、夢でないかを確かめる動作を東條に求める、当たり前だが抓ってみて、痛くなければ夢、もし痛ければ・・・。
「なぜそのような・・・」
これが夢だと決まってるのになぜそんな事をしなければならいのだと東條は断ろうとしたが、この世界に来てから心のどこかでこれは夢ではないと思っていたのもまた事実だった、この世界はありえない物ばかりなのに体全体から伝わってくる五感は現実と変わらないものを東條に与えていた。
東條は少しの間考えると意を決してこの世界の真実を知ることにした、つまり手の甲を抓った。
「っ!?」
東條の視覚は手の甲は抓った部分が赤くなった情報を与え、そして痛覚は“手の甲の痛み”を東條に与えていた。
「ね、わかったでしょ、この世界はトウジョウの夢じゃないよ」
まるで世間話のようなしてるかのような軽さで
「それじゃあ始めようか、私の名前はアマナグル、皆さん私の世界にようこそ!」
魔王の依頼をこなしに来たアマナグルは東條に現実を告げる。
誤字脱字等ありましたら教えてください