序章 始まりの儀式
作者はこの作品が初投稿となりますのでお見苦しい点が多々あることをあらかじめご了承ください。
序章 始まりの儀式
「・・・○×△□・・・」
広大で薄暗い部屋に、黒いローブを着た人間がうずくまりブツブツとつぶやいていた。
薄く照らされた部屋には何もおいておらず代わりに壁や天井には凝った装飾が施されており、明るい所で見れば神殿のような荘厳さを醸し出すだろうそれも、薄暗くしかも呪文のような物が聞こえていれば不気味さの助長にしかなっていない。
それも今この部屋で唯一の光源であり、ローブの人間を中心に広がっている輝く巨大な魔法陣があるとするのだから、どう見ても何か怪しげな儀式をしているようにしか見えないだろう。
実際にローブの人間はある大いなる力を持つ、ある物を召喚しあることをやってもらうために召喚儀式を行っている最中だった。
「○×△□・・・」
下を見てブツブツと召喚の儀式を行っていたが急に沈黙し、顔を上げて天井を凝視し始めると人の頭ほどの大きさの光り輝く球が部屋の天井を通り抜けて、ローブの人間にふらふらと近づく。
この見るものによっては腰を抜かしかねない現象には、ローブの人間はまったく驚かずにじっと光球を眺めて光球が近づくのを待っていた。
「まさか君が私を呼ぶとなんてね、てっきり嫌われてると思ったよ、何百年ぶりだっけ?」
光球はそばまで降りると男性とも女性ともわからない中性的な声で、しかし人間が声を発するものとは全く違ったが楽しげにローブの人間に話しかけた。
「・・・・・」
それに対してローブの人間はその問い掛けには返答せず、黙って懐から一枚の羊皮紙を取り出し光球に黙って進めろと言わんばかりに突き出す。
「やっぱり、嫌わてるよね、うん」
光球は苦笑しつつ、羊皮紙を受け取った、と言っても光球から腕が生えたわけではなく、羊皮紙がひとりでに中に浮き、ローブの人間の手から離れて光球の目の前まで運ばれた。
羊皮紙にはこのローブの人間と光球との間で結ばれる契約内容が長々と書かれており、言ってしまえば支払われる対価とそれに伴う要求内容であり、これが妥当なもので尚且つ光球にとって“面白い”どうか判断しなければならないので、光球はどれどれと熟読し始める。
「うわっ、すごい報酬だね、一体何をさせるつも・・・・・ねぇ・・これ本気?冗談だよね?」
最初は支払われる対価のすごさに光球は興奮気味にだったが、ローブの人間からの要求内容を読むと興奮から醒めて光球にとっては珍しく真面目にローブの人間の真意を問いただした。
要求内容に対する対価は妥当と言えたし、また光球にとっては可能なことだったがこれを行えば世界を大きく変動させてしまうかもしれず、それだけではなく下手をすればこの世界を破滅させかねないほどの。
この問いただしに対しても、ローブの人間はただ肩をすくめてみせて光球を見据えていただけで、しばらく一人と一つは睨み合っていたが、緊迫した空気を先に崩したのは光球だった。
「・・ふふっ、わかったよ君の目的は予想がつくけど、最近退屈なこの世界に喝を入れてみるのも面白そうだね、うーんこんなことは初めてだからワクワクしてきた」
確かにこの世界に大きな騒乱を持ち込むことになるが、そんなことは光球にとっては別に大事なことではない、光球にとって大事なのは面白いか否かであり、そう言う意味ではこの契約は非常に魅力的であり近頃退屈していた光球にとって馬の前に垂らされた人参と言える。
「それじゃあ、この契約を時の管理人たるこのアマナグルが結び、遵守することをここに誓約するよ!」
楽しそうに光球は、この世界では<時の神アマナグル>と呼ばれる神の1柱は、後にこの世界に大きな変動をもたらす事になったこの契約をあっさりと、しかもただ面白そうという理由だけで結んだ。
時に神も荒ぶったり奇行をしたりもするものだが、実はコレにはこう言う深い理由があったはずと解釈出来るなら、この契約によって大きく岐路を変えられた国家や人は、自分を神様のする事だから仕方ないねと無理やり納得させることもできるが、この件に関してはそんな深い理由なんてものはない、ただ退屈してた、これだけなのだから泣き寝入りするしかない。
「契約は済んだから、さっそく私は探しに行くよ。これだけの大仕事だからねサクサクと候補の国を見つけないとね、またねバイバイ」
アマナグルは声を弾ませながらローブの人間に別れを告げると、来た時よりも落ち着き無く上昇していき、足早に部屋の天井の向こうへと通り抜けていった。
そして契約書たる羊皮紙もいつの間にか消えており、部屋の光源となっていた巨大な魔法陣も徐々に明滅を繰り返しながら暗くなっていき部屋は完全な闇に包まれる。
「ふう・・・」
闇の中でローブの人間は、重責の立場にいるくせに相変わらずアレな言動を取る神様に対するため息と、うまくその神様をのせることができた安堵の息が五分五分に混じったものを吐き出しつつ、立ち上がる。
そこへ、ローブの人間の背後から扉が開く音ともに光が差し込み背中を照らすと共に全身を覆う黒の甲冑を着た人型が入ってきた、その背は2mは超えており体格もその背に見合うほど太く、逞しいものでまさしく人外と言える姿であり、ローブの人間などひと薙ぎで殺せてしまいそうである。
その甲冑の怪物は1歩ずつに重厚な足音を立てながらローブの人間に近づくと足を折ってその場に片膝をつき、頭を上げて言葉を発しようとしたが、先に目前にいる自分の主人が口を開いたのを察し口を閉じて再度深く頭を下げた。
「アレハンクス、報酬は?」
ローブの人間の声は酷くしわがれていたが、それも当たり前で先程の召喚の儀式で何時間もの間にわたって呪文を唱えており喉は、その酷使に耐え切れずガラガラになっておりアマナグルの問いかけを無視していたのはアマナグルを嫌悪していてのもあるが、しわがれた己の声を聞かれてたくはなかったためでもある。
「先程、アマナグルの報酬である魔力結晶は全て魔力を抜かれました」
魔力結晶とはこの世界では金や鉄といった物と同じくらい、またはそれ以上に重要な鉱物であり、魔力が結晶化したもので、魔法の行使の補助や消費魔力の代わりにできたりなど用途は幅広いが、産出量が限られているため希少性が高く魔力結晶が掘れる鉱山を巡って戦争までが起きた事例は非常に多い。
その魔力結晶をアマナグルの報酬として隣の部屋に用意していた、その量はこの世界の中小国家程度の国家予算3年分ほどの物だったが、その監視と警護をローブの人間に任されたのがアレハンクスであり、魔力結晶の輝きつまり魔力を失われたのを見たため契約の完了を感じ取り、すぐにこの部屋へとやってきたわけである。
「そうか・・・これで我らは時間を得ることができる」
「本当に契約通りの国を連れてこれるでしょうか?」
アレハンクスには、いくらあのアマナグルとはいえ無茶な注文に思えて、本当にできるのかと疑問だった。
「安心しろ、あいつが楽しむためにやると言ったんだ、この世界に騒乱を呼んでな、だったらあいつは必ずやってみせる、そういう奴なんだ・・・とにかく今は休みたい、行くぞアレハンクス」
「御意のままに・・・魔王様」
人類の敵とされてきた魔物を統べし王は、ローブの奥で疲れきった顔をしながら、口元には笑みを浮かべて、側近であるアレハンクスを伴い部屋から出て行った。
後に魔王の言葉通りにアマナグルは契約通りの国を召喚してみせたが、しかし魔王もまたアマナグルを甘く見ていたと深く後悔する羽目になった事は、まだ本人が知るわけがなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。