2. 【開始前】 魔術師と傭兵と
リーヴ・ハクロは絶句していた。
マニアックな魔法書を扱うことで有名な行きつけの本屋が知らぬ間になくなっていたとか、自室に保管してある魔法書に誤ってコーヒーをこぼしてしまったとか、そんなレベルの驚きではない。
例えるなら、王城に勤める者すらもその実態を知るものは少ない、作者不詳原理不明の魔法陣「勇者召還の陣」が一般に向けて公開されることがあるとして、そのくらいの心理状況に匹敵するだろう。ただし、こちら場合は好ましい驚きであると注釈をつけねばならないが。
それほどの動揺と、歓喜とは真逆のベクトルを持った感情――絶望にも似たショックがハクロを襲っていた。
時刻は夕方。
王城の自室から行きつけの魔法装飾屋「エブロイド」に向かう途中でのことだった。
唯一の公式な出入り口である南向きの城門を出て、そのまま王城の周りを囲う塀に沿って四分の一周ほどをまわり、王城を中心にして放射線状に伸びる通りのうちの一本に入った。
相変わらずの活気。
彼女の身長の一・五倍はあろうかという大人の群れ。
そんな中を銀髪の少女は目的地へ向かって淡々と歩いていた。
彼女くらいの見た目の年頃の少女にありがちな、迷子になるという展開はない。
ハクロはその外見に反して幾度となく目的地へと足を運んでいたからだ。
いつもと変わらない道中、ハクロはふと、道の脇にある掲示板へと目をやった。
特別な意図があったわけではない。普段ならば、そこに掲示板があることは知っていても内容を見ずに素通りするはずだった。
だから「それ」を目にしたのは、単なる気まぐれが起こした結果――偶然。
「模擬戦争、参加者求む」
初めはちょっとした疑問だった。
模擬戦争が行なわれること自体は一ヶ月前から知っていた。城内でメイドが模擬戦争について話していたのを耳にする機会があったからだ。
ハクロの記憶が正しければ開催日は明日だったはずだ。
しかしそれはおかしい。こんな時期になるまで募集の張り紙をしておくのはどういうことなのか。
模擬戦争の参加者募集は遅くても三日前までには終わらせるのが通例だった。万全のコンディションで参加するためには、直前に参加を決めているというのでは論外だし、作戦を立案にしても一日は欲しい。
ハクロの記憶違いなのだろうかと、模擬戦争の開催日を見たが、そこにはしっかりと明日の日付が記されていた。
それでは、当番の衛兵が模擬戦争告知のこの紙を回収し忘れて、今日まで残ってしまっているのだろうか。
それらのちょっとした疑問からハクロは立ち止まり、掲示板を見上げた。
そして見つけてしまった。
「メセノ」という村の名前を。
自らの目を疑い、何度も読み返す。
だが何度読んでも、そこに記してあることは変わらなかった。
絶句。驚愕。
何を語るでもなく、その小さな口を開き、閉じ、それを繰り返す。
言葉が出てこなかった。
どうして自分はもっと詳しく話を聞いておこうとしなかったのだろう。そんな後悔がハクロの小さな身体を襲う。
「エッジドルク王国――メセノ
ガゼン共和国――ヒルドル」
その記述は、模擬戦争の敗戦国が、自国のどの領土を相手に譲渡するかを記したものだ。
つまりこの国――エッジドルクが負けることがあれば、ハクロの故郷であるメセノは他国の領土になってしまうということを意味している。
頭は真っ白で、ただ記述を目で追う。
どうしてこんな時期まで募集の張り紙がしてあるのかという疑問の答えもあっけなく見つかる。
参加者が不足しているらしい。
現在参加が決定しているのは五人だけ。
参加者不足で不戦敗になることはない。
けれど参加者の上限が一チームにつき十人までという制限を考えるとこの人数で勝利を手にすることは絶望的に思える。
数刻が経ち、受けた衝撃から我に返った時にはすでに日が暮れ始めていた。
少女は、戦争に参加する準備を整えるべく、ひとまずは元々の目的地へ駆け出した。
*****
「おじさんッッ!!」
目的の店「エブロイド」のドアを体当たりと変わらない勢いで押し開くと、開口一番にそう叫んだ。
「なんだ、テメェー!? ウチのドア、んな乱暴に開けやがって! ……ってリーの嬢ちゃんじゃねぇか」
店にはカウンターをはさんで商談をしていたらしい二人の男性がいた。
ハクロはそのうち、自身を「リー」と名前で呼んだ、店の奥側に立っている方の男に詰め寄る。
「おじさん、コレ! コレ!!」
バンッ、バンッ! とポケットから取り出した二枚の金貨をカウンターに叩きつける。慌てすぎてハクロの頭からはいろんな物が抜け落ちていた。
注文しておいた商品を受け取るためには代金を渡さなければならない、ただそれだけが頭に残っていた結果がこれである。するべき会話は全部自己完結して省略していた。
「これって言われても……嬢ちゃん……」
エブロイドの店主――エボックは突然の事態に困り顔である。
ハクロの態度から、何か訳があって急いでいるということは読み取れるのだが、彼も客商売である以上、先に商談を始めていた相手を待たせてまでハクロの用件を優先するというのはできない相談なのだった。
「おやっさん、このちみっ娘は?」
「ちみっ娘じゃない!」
そこに話しかけてきたのは、先ほどまでエボックと商談をしていた青年だった。
目深にフードをかぶり、手のひらを覆い隠してあまりあるほど袖が長いシャツを纏ったその姿からは「ワケ有り」の感じが漂っている。
しかし、件のフード付きのシャツを依頼されて製作し、青年の顔を見たこともあるエボックからしてみれば、気にするほどのことでもなかったのだが。
青年が陽気で、物怖じせず、人懐っこい性格だったことも、それに拍車をかけていた。
その青年に今にも噛み付いていきそうなハクロ。
小さいことをからかわれることはよくあった。けれど普段ならばそれに真っ向から反応せず、受け流すくらいの冷静さは持ち合わせているはずだった。
「この娘はリーヴちゃんっていって、ウチの常連さん。いつもはもっと物静かな感じなんだけど……」
「ほんなら、そっちのちみっ娘を先にな。自分の用件は急ぎとちゃうで。なんやすごい剣幕やし」
「すまんね、レムさん」
「気にせんでええよ。おやっさんには世話になっとるしな」
レムと呼ばれた青年は、エボックの表情から彼の板ばさみの状況を把握したのだろう。穏便に事態を解決するためにカウンターから身を引く。
そこにすかさず入り込むハクロ。
彼女は平時であれば、無理矢理他人に順番を譲らせるような我が儘な少女ではない。彼女にとって事態がそれほど深刻なものだったということだ。
「おじさん早く、早くッ!!」
「はいはい、ちょいと落ち着いて待っとれ。すぐに用意するから」
普段の物静かなハクロを知るものに訊けば、十人が十人「この子は本当にハクロなのか!?」と答えるだろうほどの捲くし立て方。もちろんエボックも驚いてはいたが、いくつもの場数を踏んできたベテラン商人だけあって、驚愕を表情に出すことはない。
一分後。ハクロの手の大きさに合わせて作ったグローブを店の奥から持ち出してきたエボックはそれをカウンターに置いた。
「左手だけなんか」
カウンターの脇からグローブを見た青年が呟いた。
「嬢ちゃんの注文でな。手のひらの所に魔法陣を縫い込んであるんだ」
「へぇ~」
エボックが答えてすぐ、二枚の金貨をカウンターに置きっぱなしにしていたハクロがひったくるようにグローブを掴み、手にはめた。
二度握り込み、感触を確かめる。
「おじさんありがと!」
言って、笑顔をエボックに向けたハクロは、
次の瞬間、
――――忽然と消えた。
少なくともエボックの目にはそう映った。
空気に溶けるように消えたのではなく、一瞬にしてその存在を捉えられなくなった。
瞬きの時間で少女はいなくなった。
目を閉じ、再び開けた時には、そこにハクロはいなかった。
エボックには何が起こったのか分からなかった。
目を見開き、そしてハクロが消えてしまったことを疑問に思うより早く、
――――ガキンッッッ!!!
まるで、ガラスの食器を石の床に思い切り叩きつけたような、音。
店の中からその音は聞こえていた。
この店にはそんな音を立てるものを置かれていないにもかかわらず。
いや、エボックも気づいてはいたのだ。
しかしどうしても彼の常識は今さっき鳴った音を認められなかった。
「じょ、嬢ちゃん!?」
エボックは思わず叫んでいた。
彼の視界は、脚を高く上げて回し蹴りを打ち込んだ姿勢のままのハクロとその蹴りを右腕で受け止めた青年レムの姿を捉えていた。
*****
グローブの性能を確かめるための行為だった。
先日ハクロ自身が開発した治癒専用の魔法陣を縫い込んでもらったグローブの効果を確かめるには、身近にいる人間に怪我を負わせてせて、それを治すのが一番の近道なのだと、焦りが支配するハクロの頭脳は結論付けていた。
もちろん「ちみっ娘」などと呼ばれたことへのイラつきはあったが、もっと別の論理的な理由故なのだと、ハクロ自身は思っていた。
そのために青年の腕を折るつもりだった。
少女の身体の軽さゆえの威力不足を補うために、靴に仕込んだ魔法陣でスピードを生み出した結果だった。
強烈な慣性力による全身打撲にも似た症状と引き換えに、少女は速さと同時に威力を手に入れた。
それなのに、少女の予測を超えることが起こった。
エボックの叫び声はハクロには届かない。
全身を襲う言い表しようのない激痛は瞬時に収まっていた。
ハクロの思考は、痛みではなく今起こった現象の考察に埋め尽くされていた。外界の音に意識を割けないほどに。
ありえない。
ありえないことだった。
――――人間の身体はガラスではないのだ。
もっと鈍い、ぐちゃりと潰れる気味の悪い音が鳴るはずだ。
甲高くて耳障りな音が鳴っていい道理など何処にもない。
そもそも、どうしてこの青年はハクロの回し蹴りを右腕で受け止めているのだろう。
青年は左半身をハクロに向ける体勢で立っていたのに。
初動は気づかれなかったはずだ。
にもかかわらず、青年は蹴りを右腕で受けている。
普通の人間ならば、たとえハクロの意図に気づいたとしても左腕を盾にして内臓へのダメージを防ぐのが精一杯のはずだ。
ハクロもそのつもりで蹴りを放っていた。
それなのにどうしてこの青年は、わざわざ左脚を一歩引いて右半身を前に出すという動きをしてまで左半身を守ったのか。
左利きなのだろうか。
だとしても瞬時にそんな判断ができるものなのだろうか。
――いや、そもそもあの音は何だ。
青年が着ているシャツは袖が長いという特徴はあるものの、極めて一般的なデザインのものだ。内側に防具を仕込むなんて芸当ができるとは思えない。
生身の腕を蹴った感触ではなかった。
だとしたらあの一瞬で障壁系の魔法を発動させたのか?
……いや、それもありえない。あのスピードで障壁を張るなんて人間業ではないし、そんな余裕があるなら身をひねってかわすくらいのことはやってのけるだろう。障壁が砕けたことによる破片の被害を考えれば、あの程度の強度の障壁など張らない方がマシだ。どう考えてもデメリットの方が大きい。
正直に言えば、ハクロはこの時、得体の知れないこの青年に対して恐怖を抱いていた。
その証拠に、回し蹴りに使った脚を地面へと下ろした後、無意識の内に一歩二歩と後ずさっていた。
「あー、……、」
ハクロもエボックも言葉を発せない中で、気まずそうに青年が声を上げる。
「なんか、ごめんな」
居たたまれなくなったのか、青年は愛想笑いを浮かべながら場違いな謝罪をする。
加害者が絶句しているのに、被害者の方が謝るとは一体全体どういうことなのか。その問いに答えられる人間はこの場にはいなかった。
十中八九折れているだろう右腕を撫でさすっていた青年は、長い袖に隠されている腕の、手首があるだろう場所を左手で掴むと、
――ガツンッッ、
と肩へ突き上げた。
「―――ッ!?」
声にならない悲鳴を上げたのは、しかし痛みを受けているはずの張本人ではない。
ありえないほど痛々しい治療法と、本来なら人体から鳴るはずのない音。
エボックとハクロは、理由こそ違ったが、両者同じような引き攣った顔をしていた。
そんな無理のある治療法(?)だったにもかかわらず、
「よし、直った」
青年はそう言って、肩や肘の可動範囲の確認を行なっていた。
確認が済むと、青年はバツの悪そうな口調で、
「あー、後生やで、今のことは内密に頼んますわ」
一方的に攻撃を受けたというのに、怒るそぶりも見せないこの青年は、まったくどういう身体・精神構造をしているのだろうか。
白昼夢でも見ているのではないか。エボックはそう思った。
「レムさん、あんた一体……」
その言葉を聞いて、ハクロはひとつ思い出したことがあった。
レム。
どこかで聞いたことのある名前だと思っていた。
メイドたちが噂をしていたのを今、思い出した。
「自殺」なんていう不名誉な二つ名を冠する若すぎるSランカー。
冒険者ギルドで設定されるランクのうち上から二番目であるランクSを、成人するかしないかの年齢の者が冠するのは数十年ぶりのことらしい。
大型魔獣を単独狩りするという自殺行為を繰り返し、性質が悪いことにそんな死戦を何度も切り抜けることができるほどの実力を兼ね備える。
極めつけは、彼がランクSを冠する直接の理由にもなった竜種の岩石竜の単独討伐である。
竜種の中では最下級に位置すると云われるロックドラゴンだが、もちろん竜種だけあってその討伐には多大な危険が伴う。エッジドルク王国で国内最強と謳われるエッジドルク第一騎士団の精鋭をもってしても被害ゼロで討伐することは難しいと云われている。
そんなドラゴンを数多くの証人がいる前で見事、単独討伐を果たしてしまったのだから、彼がSランカーになることに疑問を呈する人間はいなかったという。
本人であるかどうかは分からない。
噂をどこまで信じていいのかも分からない。
けれど、目の前の青年が自分よりずっと強いことは確かだった。
全身の力が、足の裏から地面に抜けていくような、そんな気がした。
不意に腰が抜けた。
ぺたん、と正座が崩れたような体勢で床に座り込む。
「嬢ちゃん!?」
「……あ、あららぁ~?」
驚きの声と苦笑交じりの声が上から降ってくる。
恐怖から力が抜けたのではなかった。
安堵が溢れ出していた。
いきなり手を出してしまって、許してもらえるかは分からない。
都合がいい女だと呆れられるかもしれない。
もしも断られたらという不安もあった。
それでも、
それでも。
「あのっ!」
ハクロは顔を上げ、まだあどけなさの残る青年の顔を真っ直ぐに見つめた。
「私とっ、私と一緒に戦ってください」
*****
明日、模擬戦争が行なわれること。
にもかかわらず参加者が五人しか集まっていないこと。
戦争に負ければハクロの故郷、メセノが隣国に奪われてしまうこと。
それらのことを説明する。
こんなお願いは非常識なことだと、ハクロは理解していた。
過酷なゲームに好んで参加する人間はいない。
だからこそ「国が参加を強制してはならない」などというルールがある。本来であれば、個人が参加を依頼すること自体、黙認されているだけでグレーゾーンなのだ。
大抵の人間なら今日会ったばかりの赤の他人の故郷のことなど知ったことではないと、メリット・デメリットを考慮するまでもなく、笑い飛ばすだけだろう。
それでもレムはハクロの話を最後まで聞いた。
ハクロにはそのことが不思議でならなかった。
「家族は、その村におるんか?」
先ほどまでのおちゃらけた調子は消え、声には真剣さが宿っている。
レムの問いに、ハクロは首を横に振った。
「……みんな、ずっと前に……」
……頭の上に、何かが乗せられた。レムの袖に包まれた左手だった。
撫でるでもなく、ただ乗せられているだけ。
懐かしい匂いが漂っている気がする。
――この手を、私は壊そうとしたんだ。
六年前。
夏の日。
夕方。
夕飯の匂い。
蝉の声。
笑い声。
炎。炎。
悲鳴。
怒号。
何もできなかった。
黙っていた。
卑しく怖気づいていた。
――本当は私が、死ぬべきだったんだ。
「……帰る場所がなくなるんは、悲しいことや」
ハクロの意識を現実に引き戻したのはレムの声だった。
「……えっ?」
突然のことに何を言われたのか理解できなかった。
「そやから――――自分、戦うわ」
信じられなかった。
どうしてこの人は頼みごとにこんなにも簡単に頷いてくれたのだろう。
Sランカーだから?
自信があるから?
名誉のため?
同情?
哀れみ?
しかし考えうる可能性のどれもが、このレムという青年の動機には不適切に思えた。
ハクロを現実に引き戻した彼の寂しそうな声が、耳について離れなかった。
助けてくれる理由は分からない。分からないけれど。
その手を取らない選択肢は、ハクロの中にはなかった。
差し出された右手を、両手で包むように握った。縋るように。
石のように硬い、右手だった。
「―――いやぁ、あのSランカーのレムが籠絡される瞬間をこの目で見ることができるとはねぇ」
空気を読まない、オヤジがひとり。
「おじさん、雰囲気壊しすぎ」
「そうや、おやっさん。それに自分、籠絡されたわけやあらへん。自分がこれから籠絡するんや」
「……ぇ゛!?」
ハクロの表情が一瞬して氷付けになる。
「ま、冗談なんやけどな。自分、こないなちみっ娘に興味あらへん。もっとナイスバデーしとる姉ちゃんがいいんや」
そんなハクロを気にせず、へらへらと笑うレム。
ハクロは今更ながら、自分のした選択が正しかったのか早くも後悔し始めていた。
「……ちみっ娘じゃない。リーヴ」
とはいえ彼女から話を持ちかけている以上、あまり強気に出ることは出来なかった。
「りょーかい。リーちゃん、な」
「……リーヴなのに……」
どうにもハクロは他人から「ちゃん」付けで呼ばれるのは好きになれなかった。
いくら言っても「ちゃん」付けをやめてくれないエボックに加えて、また一人「ちゃん」付けで自分を呼ぶ人が増えたことが少しだけ彼女を憂鬱にさせる。
「はいはい。リーちゃん、リーちゃん。な、おやっさん」
レムが「リーちゃん」と呼ぶことの同意をエボックに求める。
しかし……。
彼は何故かレムをニヤニヤと見つめているのだった。
「おやっさん?」
「いや、一匹狼のあんたにもついに春が来たのかと感慨深くてね」
冗談めかしてエボックは言う。
「そないなこと言うとって、ちみっ娘の我が儘に困り顔しとったんは何処のおやっさんやったん?」
「……これは一本取られたな」
にひひ、とレムが笑う。
「そうやろそうやろ。……自分はな、おやっさん。『自殺』とか自殺志願者とか、血も涙もないとか色々言われとるけどな、別に普通の人間とそう違うわけやあらへん。ちみっ娘に泣きつかれたら話くらい聞くし、助けたいとも思う。どんだけ強うなっても、人間としての情だけは断ち切れんかった。けど、それで良かったとも思っとる」
話してみれば、案外普通の人なのかもしれない。
ちょっと馴れ馴れしくて、変な言葉遣いの人だけど、と。
この時、ハクロはそう思った。
「自分、詐欺師に騙されて死んでいくような、そんな善良な人間なんや」
エセ関西弁≠関西弁
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