【おまけ】詐欺師と侍女。
本日3話目です!
「ティル様」
キッティ様が去った後、ペルシはキッティお嬢様の婚約者に話しかける。
「あ、はい。どうなさいましたか?」
使用人に対してすら丁寧で人当たりの柔らかい彼に、淡々と問いを重ねた。
「この件は、本当にただの『事故』でございますか?」
ペルシは少々、このティルという人物を疑っていた。
この青年は割と、自分の目から見ても底が読めないからである。
人当たりが柔らかい人物は、基本的に二種類に分かれる、とペルシは思っていた。
一つは、自分が傷つけられることにひどく敏感な人物。
もう一つは、他人のことが全てどうでもいい人物、である。
彼はどちらなのか、その真意を図りかねていたので、良い機会だと思い尋ねてみることにしたのだ。
キッティお嬢様に害となりそうな人物なのであれば、御当主様に再度婚姻を見直すように進言しなければならない。
そう思っての発言だったが、彼は何を言われたのか分からない様子で首を傾げた。
「えっと……ああ、これがキッティ様を楽しませる為にわざと私がやったことではないか、というお話でしょうか?」
「ええ。聡くて大変助かります」
すると彼は、苦笑して首を横に振った。
「ペルシ様は、私を買い被っておられます。それで言うと、伯爵家の皆様がたがそうなのですが」
「……」
「最初からずっとお伝えしていると思いますが、私はそもそも、キッティ様と釣り合うような大した人物ではありません。ただ、本を読むことが好きなだけの人間です」
その発言に、嘘は見えなかった。
だからこそ、ペルシは疑っているのだ。
一切嘘をつかない人間などというものを、生まれてこの方見たことがなかったからである。
キッティお嬢様は嘘が大層下手ではあるものの、それでも『嘘の仮面』を被り、それを『本当の顔』にしようと自分を磨いてきておられる。
努力や研鑽といった正の強がりも、詐欺や誤魔化しといった負の言い訳も、等しくそれは『嘘』であるから。
ティルという青年の察しの良さは、異常である。
彼はキッティお嬢様の発言を聞いて、『そういう場面』なのかと問いかけた。
それは主人の意図や内心を察した上で付き合っている、という発言と同義。
幼少からキッティお嬢様を見守っている訳でもなく、演じている主人しか見ていないにも拘らずそれが分かる、というのは、異常なのだ。
しかし。
「キッティ様を楽しませようと思うのであれば、このやり方は間違っているでしょう。少しでも喜んでいただけるかと思った、この本を買うという行動の方が、私の考えたことです」
と、ティル様は汚れてしまった本に目を向ける。
「けれど、実際に喜んでいただけるかどうかすら、対面するまで分かってはおりませんでしたよ。私はそのくらいの人間です」
ーーー嘘がない。
相変わらず、ティルという青年から嘘の気配を感じなかった。
こうなれば、ペルシとしては認めざるを得ない。
もし自分の目でも、ここに及んで見抜けない程に嘘を上手く隠す人物であるのなら。
そのまま貫き通してもらうだけである。
これだけの芝居を打った上で姿を現したのなら、目的は金銭ではない。
もっと大きなことを狙っている可能性が高い。
そして、もう一つの可能性として。
ーーーこの方は、本当に『そう』であるのでしょうか。
己に背伸びという嘘すら一切つかず、息を吸うように、努力を努力とも思わずに研鑽を積んであれだけの所作を身につけ、キッティお嬢様の心に触れたのであれば。
「どちらにせよ、ティル様は傑物にあらせられますね」
「……あの? 私の話、聞いておられましたか?」
「はい。聞いた上で、そう判断致しました。キッティお嬢様がお待ちですので、これで失礼致します」
と、ペルシが頭を下げると、ティル様はため息を吐いた。
「本当に、買い被りなのですが……ああ、えっと、戻られるのであればこれをお持ちいただけますか? 私は動けないので……」
と、ハンカチを差し出される。
「これは?」
「もし泣いておられるなら、私からの謝罪と共にお渡しして下さい。心配をかけて、本当に申し訳ありませんでした、と」
「……」
「キッティ様が繊細で情緒豊かな方というのは、文章から伝わって参ります。私の状況を知って心を痛めておられない、とは思えませんので……もし泣かせてしまっていたら、それは私の不注意のせいですから」
ーーー本当に……察しの良い。
しかし、何故彼がそう思うのか、という点は理解できた。
数年に渡る手紙の文面から、ティル様はお嬢様の『本当』を読み取っていたのだろう。
そう思いながら、ペルシはそのハンカチを受け取る。
「承りました。最後に僭越ながら、従者として一言申し上げますが」
「ええ」
ペルシは、滅多に浮かべない笑みを、ティル様に向かって浮かべてみせる。
「ーーー貴方は、この上なくキッティお嬢様に相応しい方です」
終わりですー♪
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