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文通令嬢ですが、持参金をお渡しした後から相手方と連絡が取れません。もしや結婚詐欺の被害に遭ったのでしょうか?  作者: メアリー=ドゥ


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真相は分かりましたわ!

本日2話目です。


「か、紙がない……?」


 予想外の言葉に、キッティはポカンと口を開けた。


「そうです。この村には文字を書ける人がおらず、油紙くらいは他所から入ってくるものの、書き物が必要のない生活をしておられるのです。なので、私は手紙すら書くことが出来なかったのです。外から来る人に預けようにも、行商人すら季節の変わり目くらいしか訪れないそうで」

「な、なるほどですわ!!」


 確かに、盲点である。

 本どころか紙のない生活なんて、キッティの想像の外にある生活だ。


 勿論冒険活劇などの物語で『そういう生活をしている人もいる』というのは書いてあったりするので読んだ記憶はあるけれど、それが現実としてピンと来ていなかった。


「話が少し逸れましたが、そのような経緯でキッティ様からお預かりした高価本も、馬車も、持参金も失ってしまい、連絡も取れず。……誠に申し訳ありません。これで婚約が白紙になってしまっても仕方がない失態だと……」

「ああ、それについては全く何も問題ございませんわ!」


 キッティはウキウキと、自分の方もティル様に種明かしをすることにした。


賊は捕縛して(・・・・・・)全部取り返しました(・・・・・・・・・)もの!」

「……え?」


 今度はティル様がポカンと口を開けるのに、ふふーん、とキッティは胸元に手を当てる。


「わたくし達アイズ伯爵家は、竜騎士の家系ですのよ! あの程度の賊など、朝飯前に蹴散らせますわ!」

「正確には、竜を操る伝令の家系ですが」

「些細な違いですわ!」


 アイズ伯爵家は、代々飛竜と心を通わせる才覚を備えている。


 そのお陰で大昔に王家に重宝され、火急の用件を遠方に伝える際や、戦争の時の偵察などを任されていたのだ。


 すると段々、王国が大きくなるにつれ、相手の重鎮などに会うことにもなって、爵位を与えられ、教養が求められるようになり……と、文武両道が必要になった。


 アイズ伯爵家が、本と竜、という家紋を持ち、元々武門の家であるのにも拘らず書籍の類いが豊富にあるのも、そうした理由なのである。


 ペルシは傍系の男爵家の次女なので、同じように才覚があった。

 幼少の頃からあまりにも優秀すぎて、ただ親戚として置いておくのは勿体ないから召し上げられた、という話を聞いている。


「最初に私どもが見つけたのは、賊のアジトでした。なので、とりあえず潰しました」

「楽勝でしたわ!」

「男爵家の御者の方も囚われて少々憔悴しておりましたが、始末もされておらず、どうにか無事です。失ったのはその際に切り捨てられた馬1頭と、持参金の一部が使われた程度ですね」


 あの馬車は賊のアジトに止められており、賊は高価本の価値が分かっていなかったので、幌の中の本は手付かずだったのだ。

 あれをもっと早く売ろうとしていれば、もう少し早く捕まっていたと思うけれど、人売りも本売りも、実はそうそう簡単に出来ることではない、とペルシは言っていた。


 そんな彼女が、淡々と話を続ける。


「賊に、私が少々手荒(・・・・)に吐かせたところ、ティル様が姿を消した辺りが分かりましたので、周辺を飛竜で飛んで捜索したのです。そしてこの村に辿り着いた、ということですね」

「なるほど……」


 ティル様が納得したように頷くのに、キッティはパン、と両手を合わせる。


「真相としてはありきたりで物足りなかったですけれど、ティル様がご無事だったのでよしとしますわ!! 紙の話はちょっと面白かったですし!!」

「で、ですが……」

「もし荷物が全部戻って来なくとも、持参金が全て失われていたとしても、この程度で婚約解消なんて致しませんわよ! 何せティル様が詐欺師でも、見つけ出して旦那様にするつもりだったわたくしですわよ!!」

「と、いうことです。療養の為に人手の手配を致しますし、村の者にも謝礼を支払っておきますので、どうぞもうしばらく、ごゆるりとなさって下さい」

「は、はぁ……」

「さ、ペルシ! 戻りますわよー!! ティル様、また会いに来ますわねー♪」


 ブンブン、と手を振って、キッティは外に出る。


 しかし、村の広場に置かせて貰った飛竜の側に行っても、ちょっとの間ペルシが戻って来なかった。


「お、遅いですわね……ねぇ?」


 鼻を寄せてくる愛騎にそう呟いていると、背後でサクサクと土を踏む音がした。


「お嬢様」

「何、でず、の?」


 後ろを振り向かないまま応じると、いつも通りの声音でペルシが呟く。


「ティル様が詐欺師でなかったことに心底安堵して、ご無事であったことを泣きじゃくるくらい喜んでおられるのなら、素直にそう仰れば宜しいかと」

「っ!」


 キッティはビクン、と背中を震わせた後に、声を絞り出す。



「な゛、な゛い゛て゛ま゛せ゛ん゛わ゛……!」


 

「どう聞いても泣いておられますが」

「じゅ、じゅじんにだいじで、じつれい゛な侍女でずわ……!」

「最早何を言っているのか分からないくらい、グズグズでございますが」


 ーーーだって。


 キッティが好奇心旺盛なのは、紛れもない事実である。

 謎や分からないこと、そうしたものを全て知らないと気が収まらないのも。


 でもそれは、不安がる性格(・・・・・・)の裏返し(・・・・)だと、家族は皆知っていた。


 知らないことが怖い。

 分からないことがあると、怖くて眠れない。


 昔のキッティはそういう性格で、だからあまり外にも出なくて、家で本ばかり読んでいる子どもだった。


 外は分からないことが多くて、怖いから。

 人は、何を考えているのか分からなくて、怖いから。


 本に書いてあることを知ると、そういう怖さが少し和らぐから。


 匿名交換の手紙だって、少しでも外と繋がりを持った方がいいのでは、と最初はお母様が提案してくれたのだ。

 顔さえ見なければ……誰かに書く手紙を読んだり書いたりのやり取りなら、楽しく出来ていたキッティだから。


 そうして、ティル様と知り合った。


 彼に対して最初に書いた手紙の、本の内容は、凛々しい女性騎士の物語で、その主人公に関する自分の考えを記したものだったのだ。


 どんな苦難が襲い来ても、決して諦めず、道を切り拓く主人公の姿に憧れて、憧れて、憧れて……きっと元々、怖いものなんて何もない女性なのだろう、とキッティは思っていて。


 だからそれを、手紙に書いた。

 するとティル様は、返事の中でこう書いて来たのだ。


『もしかしたら、女性騎士も恐ろしいと、怖いと感じておられるのではないでしょうか。


 ですが、この女性騎士がそう思っていたとしても、物語の中でもし苦難を解決出来なかったとしても……怖いものに挑戦するその姿勢そのものが尊い、と私は思うのです。


 勇気というのは、一歩を踏み出してみる力であり、踏み出してみると、違う景色が見えるのではないでしょうか。』


 その言葉に、キッティは心が動いた。

 そして次に渡した本は、今度は引っ込み思案で、何も出来ないけど、それでも幸せになれた女の子の物語だった。


 ちょっとだけ、キッティに似ていると思って。

 何も出来なくても、幸せになれるのかしら、と書くと、ティル様はこう返事をくれた。


『彼女は一見、何もしていないように見えますね。ですが、絵を描くのがとても上手な方で、人の心の機微に聡いというような、小さな小さな積み重ねがあの結末を導いたのだと、私は思っております。


 絵を描くことで、その絵が心の癒しになった方も、彼女のほんの小さな一言で救われた方も物語の中にいらっしゃいます。

 それは決して『何もしていない』とは言えないのではないでしょうか。


 出来ることを、少しずつやることが大切と、私はこの物語を受け止めております』


 心の中に、小さな明かりが灯った気がした。


 だからキッティは、頑張ろうと思ったのだ。

 ちょっとずつ外に出て、飛竜も怖かったけど、お父様の飛竜に触れ合わせて貰って、お世話の仕方や飛竜の好きなこと嫌いなことを習った。

 

 剣の扱いも槍の扱いも、痛いお稽古も、全部怖かったけど。

 『出来るように少しずつやる』って思ったら、お兄様達も丁寧に優しく教えてくれた。


『まさか、キッティに一番才能があるとは思わなんだな』


 やがてお父様は、そう口にした。

 それともう一つ、キッティが頑張りたいと思ったのは、最初の物語の女騎士みたいに、自分も怖いことを笑い飛ばせるような人になりたい、って思ったこと。

 

 『初めは形から、真似事でもいいのでは』とペルシに言われて、淑女の微笑みを作るみたいに、笑顔を浮かべるようにしてみた。


 不安で怖いことがあったら、笑ってみる。

 何も怖くないよ、って。


 そうして……キッティは、今のキッティになった。


 飛竜も、アイズ伯爵家の掟では自分で捕まえて来ないといけなかったけど、ペルシと二人だったら怖くても頑張れた。


 ティル様との手紙のやり取りを心の支えに、一生懸命、外に出たのだ。

 

 稽古以外に、お洒落だって勉強したし、本もティル様に負けないように今まで以上にいっぱい読んだ。


 ーーーティル様が、わたくしに、お返事をくれたから。


 確かにそうして、キッティの世界は広がったのだ。


 だから、裏切られたのかと思った時にも、不安で不安でしょうがなかったけど、笑った。

 ティル様が、キッティの憧れた女騎士が、怖くても頑張ったのかもしれない、って、言ってたから。


『そんな面白そうなこと(・・・・・・・)ある〜〜〜!!??』


 そうやって笑った時に、本当に面白いと思う気持ちの方が強くなっていて。

 キッティは変われたと、思ってたのに。


 ーーーティル様に、裏切られてしまったのかもしれない。

 ーーーティル様が、もしかしたら何か災難に巻き込まれたのかもしれない。


 折に触れて心に湧き上がってくるその気持ちを抑えるために、『ティル様は詐欺師なの!』って思い込んだのだ。


 

 ーーーティル様が、いなくなってしまうかも。



 それが、怖くて。


 今のキッティになって、会った時に『女神の似姿かと思った』って、褒めてくれたあの言葉が、嘘かもしれなくても。

 きっかけを作ってくれたあの人に、生きていて欲しいと思ったから。


「では、泣いていないということで、こちらをどうぞ」


 と、ペルシが後ろから差し出してきたものを、チラッと見ると……それはちょっとくたびれたハンカチだった。


「ティル様からです。『もし泣いておられるなら、私からの謝罪と共にお渡しして下さい』と」

「……!!」


 びっくりし過ぎて、逆に涙が止まった。


「な、何故ですの……?」


 ティル様に対する『キッティ』は完璧だった筈なのに。

 そう思っていると。


「『キッティ様が繊細で情緒豊かな方というのは、文章から伝わって参ります。私の状況を知って心を痛めておられない、とは思えませんので』だそうです」


 ーーーティル様……!


 バッと、ペルシの手から奪うようにハンカチを受け取ったキッティは、そこに顔を埋める。


「ティル様は、本当のお嬢様をきちんとご理解しておられます。お嬢様の仰る通り、得難い程に『気が合う男性』でございますね」

「一言……よ゛け゛い゛て゛す゛わ゛……!!」

「失礼致しました」


 また溢れ出してきた涙が収まったところで、腫れぼったい瞼のまま、キッティは一度村を後にした。


 そうして少々延期になったものの、キッティは無事にティル様との新居に移り住むことになった。

 婚約披露などで、また少々忙しくなったのは、別の話である。

 



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