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文通令嬢ですが、持参金をお渡しした後から相手方と連絡が取れません。もしや結婚詐欺の被害に遭ったのでしょうか?  作者: メアリー=ドゥ


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見つけましたわよ!


 けれど、ティル様はその後、すぐに見つかった。


「ティル様ーーーー!!」


 バン!! とキッティがドアを開けると、びっくりした顔のティル様がそこにいた。

 ベッドに寝転んでいる。


 枕元に、同じ大きさに切り出した木の板を上に置いた本が見えた。

 キッティの見る限り装丁そうていの状態があまりよろしくなく、少し土に汚れたような気配のある本である。


 ちょっと水気を含んで、ページがシワになっていそうな膨らみ方をしているので、多分上から圧を加えてある程度戻そうとしているのだろう。

 多分、乾くまで挟んでいたらしい布が側に置かれており、挟んでいたのが紙ではないなら多分本は戻り切らないのでは、と思われた。


 しかし、それは一旦置いておく。


「ティル様! ついに居場所を突き止めましたわよ!!」


 キッティがそうして、彼にビシッと指を突きつけると。

 ティル様は目をぱちくりさせた後に……ふ〜、と安堵と申し訳なさ(・・・・・・・・)が入り混じった表情で、深く息を吐いた。


「礼を取ることも出来ない状態で、失礼致します。……もしかせずとも、大変、お手間をかけさせてしまったのではないでしょうか」

「全くですわ!! 全然行方が掴めず、とっても苦労いたしましてよ!!」


 時間は然程経っていないけれど、学者の街から先は、ペルシの目が良かったことで偶然辿れたものである。


「とっても面白かったですわ!!」

「面白……?」

「ええ、ティル様が姿を眩ます為の用意周到っぷりには大変恐れ入った、と言っても過言ではございませんわね!」


 ティル様はベッドに半身を起こした姿勢のまま、少し考えた後にペルシに目を向ける。


「ええと、状況をご説明いただいても宜しいでしょうか?」

「畏まりました。お嬢様はティル様の行方が分からなくなったことをお知りになった時点で、結婚詐欺を疑われました。それを面白がり、自らの足で捜索に赴いた後、学者の街まで足跡そくせきを辿り、現在でございます」

「ああ、なるほど」


 ティル様は納得したように頷くと、またキッティに目を向ける。


「つまり、持参金を着服し、大量の高価本を手に姿を消した詐欺師ティルの居場所を、キッティ様が突き止められた……そういう場面(・・)なのですね?」

「流石の察しの良さですわね! さ、真相をお吐きなさい!! 面白い真実を期待していますわよ!!」


 キッティはふふん、と腰に両手を当ててティル様を見下ろし、ちょっと気になったことを付け加える。


「あら? 持参金を着服した割に随分お痩せになっておられますわね」

「ああ……この村の方々は親切なので、食事をしていない訳ではありませんが」


 と、ティル様は自分の腕をさする。


「ご覧の通り動けないもので。動けないと人は随分早く痩せるもののようです。得難い経験ですが、あまり良い経験ではないかもしれません」


 と、ティル様は自分の足を指差した。

 そこには木による添木を当てられ、細い布でぐるぐる巻きにされた右足が見える。


「崖を転がり落ちた際に、足が折れてしまいまして。治ってきてはいるものの、痛みが残るかもしれませんね……まともな治療も受けておりませんし」

「折れていますのね!? ペルシ、軽く見て差し上げて!」

「はい、では失礼致します」


 滑るように前に進み出たペルシが、軽く彼の足に触れたりしながら観察する。


「多分、状態は悪くありません。折れ方が良かったか、添え木が早かったか、あるいはその両方か。ですが確かに簡素な治療ではありますので、正式には伯爵家お抱えの治癒術士に診ていただきましょう」

「痛みが残ると仰っておられますけれど?」

「このままなら、可能性はございます。ですが、治癒魔術で完治するかと」


 キッティはペルシの言葉に満足した。


 治療魔術の類いは、才能のある者しか使えないのである。

 確かに、この村では魔術的治療は出来ないと思われるので、ティル様を運ぶ方法を考えるだけでいいようだ。


 無理そうなら、治癒術師(あの子)をこちらまで運べばいい。


「この添え木は、ご自身で?」

「ああ、そうですね。村の者が用意してくれたのですが、私自身、読んだ本の知識が多少はありましたので、それを元に添えていただきました」


 ペルシの言葉に頷いたティル様は、キッティに対して深く頭を下げる。


「命が助かり、再会出来たのは大変喜ばしいのですが……キッティ様には非常に申し訳ないことを、私の方からお伝えせねばなりません」

「あら、それは事の真相に関わる話ですの!?」

「はい」


 と、ティル様は我が身に起こったことを話し始めた。


 伯爵邸を出た後、滞りなく山の近くの宿泊地に着いたティル様は、ちょっと用事があって、一度学者の街に足を運んだらしい。


「何故学者の街に赴かれましたの!? 高価本を売りに行ったわけではございませんでしたわね!?」

「そのようなことは致しません。キッティ様と私の為に、少しだけ立ち寄ったのです」

「……どういうことですの?」


 キッティが首を傾げると、ティル様は少しはにかんだような笑みを浮かべた。


「私は、大変良くしていただいております。飛び地に持参金、そして本まで貸していただけて、挙句に私が嫡男であるばかりに、伯爵家から男爵家へ嫁ぐことになる……なのに私からキッティ様に出来ることは、然程多くありません」

「ええ、それが?」

「伯爵家に対して益になるようなことは、矮小の身では叶いません。であればせめて、キッティ様ご自身に私の方から返せるものは何か、とずっと考えておりました」


 そこでティル様は『やはり、自分たちを繋いだものは本だ』と考え、何か一つ、キッティに贈るものを探そうとしたらしい。

 そこで見つけたのが。


「この本、です。お渡しするまで肌身離さず持っていようとしたお陰で、無事に残ったのですが……崖から落ちた時に包み紙が破れてしまいまして。水を吸ってこのような姿になってしまいました」


 と、ティル様は少し悲しそうに、木板を重しに置いた本を見つめる。


「何の本ですの?♪」


 キッティが興味津々に尋ねると、ティル様はその本のタイトルを口にした。

 ティル様と初めてやり取りをした時に話題に上げた、キッティの一番好きな本である。


「読み返しているうちに、かなりボロボロになってしまった、と話して下さいましたね。私も同じ本を持っていますが、同様に擦り切れております。なので」


 と、ティル様は少し照れくさそうに頬を掻いた。


「二人で新居に住む時に、新たに一冊、キッティ様に贈って、我が家に置いておこうと思ったのです。二人を繋いだ二冊と共に……二人の門出から見守ってくれる一冊を」

「……っ!」


 キッティは、思わず口元に手を当てた。


「な……なんて素晴らしい提案ですの……!!」

「非常にロマンティックであらせられますね」


 ペルシのツッコミに、ますます気恥ずかしそうになったティル様は、手を眉の辺りに当てて顔を伏せる。


「こんなことしか思い付かなかったのです。ですが、それが悪かったのでしょうね。どうやら宿泊地の辺りには賊がいたようで、一日馬車を留め置いたことで狙われたのかもしれません」


 背後から盗賊に襲撃されたティル様は、二頭立ての片方に御者を乗せ、そのまま馬を切り離した。

 そして自分も二頭立てのもう一頭に乗ろうとした……ところで、周りの矢の風切り音や賊の怒鳴り声、馬車の重さも増したことで馬が怯えて暴れ出し、ティル様はそのまま転げ落ちたらしい。


 そこが運が良かったのか悪かったのか、崖の斜面で、落下の衝撃こそ多少緩和されたもののそのまま滑り落ちたと。


「足が折れて動けず、しかし夕暮れ時だったので、賊も崖を降りて追うのを躊躇ったのでしょう。あるいは、最初から荷だけが狙いだったか、ですね。捨て置かれた私は、本を抱えて、そこにあるもので何とか合図をしようと」


 望み薄だったが、ナイフがあったので周りに散らばった枝を削り、火おこしの魔術でどうにか夜中過ぎに狼煙を上げたそうだ。


「魔獣の類いを引き寄せてしまう可能性もありましたが、たまたま近くに生えていたのが、燃やすと魔獣の嫌がる臭いを発する魔除けの木だったので、その枝を多めに集めて焚きました」


 すると、たまたまその日、崖の近くの村で狩人が夜番をしており、臭いに気づいてくれた。

 人がいい狩人が捜索してくれて、明け方近くに、どうにか助けて貰ったのだと。


「経緯は分かりましたけれど、それでどうして、こんなに長い間連絡を取れませんでしたの?」


 怪我をして村に助けられたのなら、伝令でも頼めば問題なかった筈である。

 するとティル様は、ちょっと面白そうな表情になって、問いかけてきた。


「これはきっと、キッティ様にとっては盲点で面白い話、かと思います。何故だと思われますか?」


 言われて、キッティは首を傾げる。


「盲点、ですの?」

「ええ。理由の一つは、実際に頼んだ上で、村の方々が外に出るのを嫌がったのです。ここはちょうど、どこの領からも合間にある山奥の村ですから……『賊が出ている以上、油断できない。賊を狩るまで男手を一人でも外には出せず、女子どもであれば尚更』と言われてしまえば、助けられた身で強く言うことも出来ません」

「それは確かに、その通りですわね」

「大きな理由はそれですが、もう一つ、もし街に伝えて貰っても話が男爵領や伯爵領にまでは届かないだろう、という理由があります」


 それが、盲点で面白い理由、なのだろう。


「むむむ……ペルシ、分かりまして!?」

「想像はつきますが、正解かは分かりかねます」

「思いつくのですの!?」

「はい。各領に届くか分からない、ということですので。つまり、聞き込み調査をしている侍従などに、村の方々が接触するような偶然に頼らざるを得ない、というお話なのではと」

「ええ、その通りです」


 二人は分かっているのに、キッティだけが分からないらしい。


「〜〜〜〜! き、気になりますわ!! 教えて下さいませ!!」

「少しはご自身で考えられては?」

「考えても分かりませんわ!」

「ティル様を詐欺師と思う、豊かな想像力はどこに行ったのでしょうか」

「わたくし、ナゾナゾは苦手ですのよ!!」


 キッティが白旗を上げると、ティル様は親指と人差し指で何かを握るような仕草を見せた後、濡れてシワになった本の側に置いてある布に手を当てて、こう告げた。


「では、正解です。ーーーこの村には紙がない(・・・・)のです」

 

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