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プロローグ 廃ビルの白骨遺体発見
早朝の横浜中華街。朝靄が薄くかかる狭い路地の奥、数年前から人の出入りが途絶えた廃ビルがあった。
そこに、不穏な知らせが届く。清掃員の男が偶然、建物の一角で白骨化した女性の遺体を発見したのだ。
神奈川県警の大島警部は、現場に慎重に足を踏み入れた。
床には埃が積もり、壁は崩れ落ちかけている。だが遺体の左手だけは不自然に固まっていた。そこには錆びた刃物がしっかりと握られている。
「何か……普通じゃない」
大島は眉間に皺を寄せた。遺体の毛髪のDNA鑑定結果はすでに出ており、身元は四宮 奈緒という名の女性である可能性が高い。
しかし、死後の時間が相当に長いため、詳しい死因や事件の状況はまだ闇の中だった。
その報告書を受け取った私立探偵の神代慎は、ひと目で違和感を覚えた。
「警察はたぶん、この事件の本質を見誤っている」
神代は独り呟く。
「この事件、何かひと筋縄ではいかない気がする……」
彼の鋭い直感が、今、静かに炎を灯し始めたのだった。