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97/231

S4−14


橋本 絵美 ピアノソロコンサート


ショパン至極の三選と

創作ピアノ曲集より



・エチュード三選


・ワルツ三選


・ポロネーズ三選



『躍動』〜『嘆き』『微笑み』『想う』他




コース料理のお品書きのように記された

リーフレットに目を通し、夏芽は

どことなく彼女らしさを感じて

少し緊張する。



三選。一体、何を弾くんだろう。

気分で、変えちゃうとか······?


レッスン自体も、橋本先生は

具体的に言わなかった。

何を、どうしたらいいか。

自分で考えなさい。というスタイル。


それが、自分にとっては苦しくて。

細かく、指摘してほしい。

正解が分からなくて、考えすぎて。

埋もれて、わけが分からなくなった。



隣から、小さく息が漏れる。



「先生らしいよな。」



笑みを浮かべる唱磨を見て、

複雑な気持ちになった。



彼にとって、橋本先生は。

自分とは違う風に、見えている。



「唱磨くんって、橋本先生のレッスンを

 受けた事あるの?」



今まで、聞かなかった。いや、

何となく、聞いちゃいけないような気がした。



彼は、意味ありげに笑う。



「あの人、マジで気に入らんと

 レッスンせんらしいっちゃんね。」


「······えっ?」


「で、お前も知っとるやろうけど、

 指導には向いとらんけんさ。

 ······

 俺の父さんくらいやないと?

 教え子として付いていったのって。」



理解が、追いつかなかった。


ポカンとしていると、彼は更に笑った。



「見込みあるヤツじゃないと、

 先生はレッスンせんってこと。

 ······今更やけど、最初さ。

 それで、お前に八つ当たりしたんよ。」



えっ?



目を丸くして聞き返そうとした時、

ホール内が暗くなった。



ステージに、スポットライトが当てられる。


大きな拍手が起こった。



薔薇のように華やかで、鮮やかな赤のドレス。


それに身を包んで現れた、細身の女性。


顔に年輪は刻まれているが、

背筋は綺麗に伸び、堂々と

グランドピアノへ向かって歩いていく姿は、

瑞々しさを感じさせた。



夏芽は、慌てて拍手を送る。



リアル、橋本先生だ。


圧が、すごい。



皆に向かって、笑顔を浮かべ。


深々と、お辞儀をする。


同時に拍手の波が、大きくなった。



踵を返した際、広く開いた背中が目に入る。


その、白くてあまりの綺麗さに。

息を飲んだ。



先生って······歳、いくつだっけ?




ひらりと、ドレスの裾が

蝶のように舞って、ピアノ椅子に止まる。



天井を仰ぎ、何かを見上げる横顔。


しんと、静まり返る。



何かが、下りてくるのを待っているのか。


固唾を呑み、注目する。




小さく、口端が上がって見えた。



白く、細い腕が上がり。


繊細な両指が、ふわりと鍵盤に置かれる。






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