S4−12
「はいはいみんな寄って〜!」
完全に主導権を握る沙綾に従い、
皆ポスターの側で身を寄せ合っていく。
なぜか唱磨と隣同士にさせられて、
できるだけ夏芽はミリでも距離を保とうと
必死で、立ち位置を確保する。
会場に着いて、明るい所で改めて
彼の姿を目の当たりにした。
めっちゃ、かっこいい。と、素直に
言えるはずもなく。
スマホに画像を収めたかったが、
そんな申し出もできず。
只々、盗み見するようにチラチラと
瞳のファインダーに定点を合わせた。
今でも、彼女は自らの
お祭り騒ぎする心臓と闘っていて。
それは、治まる気配がない。
「みなさん、とても素敵ですね〜!」
とても快く撮影を引き受けてくれた女性は、
見た目沙綾と同じくらいの年齢に見える。
「素敵なお姫さまと王子さま〜。
もっと寄ってくれると、
ありがたいですけど〜。」
まさか、そんな呼び方で、
そんな要望が来るとは思わず。
夏芽は、大きく動揺した。
それは、唱磨も同じくで。
「はい恥ずかしがらない〜!」
「えっ」
「うわっ」
「おいおいそんな無理矢理······」
「もたもたしてたら、
コンサート始まっちゃうでしょ〜?」
「あははっ。その通りですねっ。」
大翔と手を繋いでいない、片手を取られ。
彼の腕に、絡みつくようにして。
文字通り、腕組みが完了する。
「笑顔も、くださーい!」
当の二人は、何も言えず。
言われるままに、笑みを浮かべ。
「はーい、何枚か撮りまーす!」
固まったまま、撮影を終える。
「ありがとうございました!」
「いえいえ〜。」
にこやかに去っていく、その女性に。
二人は、会釈をして見送った。
「······うふふっ。」
「二人とも、いつまで
そのままでいるのかな〜?」
面白くなさそうな秀一の言葉に、ようやく
夏芽と唱磨は気づいて、即座に離れる。
同時に、激しい動悸が襲ってきた。
うわうわうわーっ······
事故だ。もう、これは。
悪ノリすぎる。
彼女が、ちら、と彼を窺うと。
無表情だったが、どことなく
落ち着かない様子に見えた。
ごめん。唱磨くん。
嫌な思いしてたら、申し訳なさすぎる。
······自分は、ちょっと。
うれしかった、けど。
「······あの。俺たちだけで、
撮ってもらうこと、できますか?」
思わぬ、彼のリクエストに。
大人たちは一瞬、固まった。
それは、彼女も同じであり。
驚きのあまり目を向けると、
彼の視線とぶつかる。
「ばりばり、かわいいけん。記念に。」
こんな、面と向かって、まっすぐに。
伝えられる彼は、ホントに。
どうしてすぐに、有限実行できるのか。
夏芽の顔が、この上なく赤く染まるとともに
大人たちがざわつき始める。
「ええ!勿論よ!撮ってあげる!」
「俺のスマホで、お願いします。」
「ふふっ、はーい!」
「ぼ、僕も混ざっていいかな〜?」
「秀一さんは、後でね。」
「僕も後で、唱磨と一緒に撮りたいです!」
「えっ、父さん?」
「はい!とにかく、今から
ツーショット撮りますから!」




