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S4−10


小野田一家を乗せた車は、数分も経たずに

的野家へと到着する。


雨でよく見えない車窓から、傘を差した

恭佑と唱磨が目に入った。



普段の、ラフな格好。そして、制服姿。

どの彼も、当て嵌まらない。


スーツを、着ている。



「どうもこんにちは!お待たせしました!」


「こんにちは!すみません!

 よろしくお願いします!」



開けられたウインドウ越しに

頭を下げ合う父親同士が、何となく

面白く見えて、夏芽は自然と笑ってしまった。


後部座席のドアが、自動で開いていく。



「後ろにどうぞ!」


「はい!失礼します!」


「こんにちは、先生!唱磨くん!」


「こんにちは!」


「······こんちは。」



恭佑が沙綾の挨拶に応えて

元気に返したのに対し、唱磨は

ぼそっと呟くように発して頭を下げる。


後部座席に乗り込む際、はっきりと

彼の姿を確認できた。

同時に、ちらっと、相手も

こちらを窺ってくる。


狭い車内というのもあり

距離が近いまま、その視線と

ばちっと合って。


彼女の鼓動が、一気に跳ね上がってしまう。


内心大きく慌てて、目を逸らした。



うわ。かっこいい。


えっ。ヤバい。スーツ効果、すごすぎ。

なにこれ。自分、耐えられるのかな。



ドキドキというより、ドクンドクン鳴って

落ち着かなくなる。



車の移動時間は、渋滞具合を含めて

約一時間らしい。


一時間。すぐ後ろにいるって思ったら。

ヤバい。ヤバいって。落ち着け。



焦って、深呼吸して、景色で紛らそうと

車窓に視線を移すが、よく見えない。



うぅ。何で今日、雨なのぉ?



そんな夏芽をよそに、大人たちは

和やかな雰囲気で話している。



「唱磨くん、イケメンさんだから

 スーツ似合うねぇ!かっこいいなぁ!」


「そうね!見る度に

 かっこよくなっていくわよねぇ〜!」


「最近声変わりも落ち着いて、

 背も伸びてきとって。妻の面影の方が

 強いので、悔しいですが僕は負けますね。

 ははっ!」



何で、自慢のように恥ずかしげもなく。



そう呆れているような彼の顔が、

車窓に映っている。


雨で外が暗くなっているせいもあり、

鏡のように車内が反射していた。



······

雨で良かった、かも。


目が合うことなく、見ることができる。



「今日の夏芽ちゃん、

 お姫さまみたいやね!」


「そうでしょ〜う?めっちゃかわいくって!

 行く前に、いっぱい撮っちゃいました!」



あっ。飛び火が、自分にも。



「どんどん綺麗になっていくので、

 僕の方が置いていかれる感じで

 ちょっと寂しいんですよ······」


「秀一さん、最近こんな感じで。

 困ったものですわ。ふふっ。」


「父親として、娘さんは特別でしょうね······

 お気持ち、察します。」


「先生っ!分かってもらえますか?!」


「はいっ。その上、夏芽ちゃんは

 礼儀正しくて可愛いですから。」


「そうです!そうなんですっ!」



父親たちは、異常なくらい

意気投合している。



唱磨くんの気持ち、分かるかも。



そう思って、車窓から窺うと

彼は柔らかく微笑んでいた。


それにまた、ドキドキする。



ヤバいな。今日。


唱磨くんが、めっちゃ輝いて見える。




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