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S4−3


「······

 前から思っとったけど、

 何でバッハだけ、“さん”付けなん?」


「音楽の、お父さんだから。」


「······ははっ。へー。なるほど。」


「尊敬の意味も込めて、かな。」


「分かる。俺も、バッハは特別なんよね。」



その特別は。楽友の仲とは、

また別枠になるんだろうな。



「最近、14番ばっかり弾いてる。

 めっちゃ綺麗なんだよね。」


「うん。17小節目から、

 18小節目にかけての調和がいい。」


「そうそうっ。いいよねっ。」


「ずっと聴いとる時あったな〜。

 ······あれ?でも、

 レッスンで弾いとらんよな?」


「まだ、もう少し

 弾けるようになってからと思って。」


「十分弾けるやろ。······

 お前、結構こだわりありそうやもんな。」


「えっ。そんなこと、ないよ。」


「ある。」


「······」



返事に困った。



そう。


最近、急に話が途切れた後の

無言の時間が、ちょっと苦しい。


だから無理矢理、話題を作る。



「あ。話変わるんだけど、

 悠乃と前田くんがね、自分に

 校歌弾いたらどうかって言ってさ。」


「校歌?」


「先生たち、弾ける人探してるみたいだよ。

 今弾いてる人が三年生だから、

 引き継ぎたいんだって。」


「······それ、俺んとこに頼みに来た。」


「えっ?」


「父さんがピアノの先生って、

 先生たち知っとるけん。

 俺が、弾けるって事も。」


「······」



そう、なんだ。


じゃあ、唱磨くんが弾くってことで

解決するじゃん。



「唱磨くんなら弾けるよ。頑張ってね。」


「······」



言葉が、返ってこない。


無言の時間に、苦しいなと思い始めた時

やっと返事が来る。



「お前のことやけん、

 弾かんって言ったっちゃろ?

 変なとこで、引っ込むけん。」



意味深で不可解な言葉に、

思わず目を向けてしまう。



「小野田が弾きたいって思うなら、

 先生に推薦する。俺は、

 お前が弾く校歌の方がいい。

 聴きたいけど。」



それは、二人にも言われた。


だけど、なぜだろう。

彼に聴きたいと言われたら、

弾いてみてもいいかなという気になるのは。



「弾けるやろ?お前なら。」


「······い、いや、でも、

 先生が頼んだのは、的野くんでしょ?

 そこで、自分が出るのは······」


「無理なら、俺が弾く。」



“弾けばいいやん。”


そう、言われると思っていた。


でも。



「ただ、人前に出て弾く機会って

 滅多にないやろ?場慣れするには、

 丁度いいと思うっちゃけど。」



それも、二人に言われた。けど。


まるで、自分の陰キャを理解して

説得しているような。


そんな、言い方だった。



彼と目が合って、慌てて目を逸らす。



これも、問題なんだ。

目を合わせると、動悸が、ヤバくなる。



「今、弾いてみて。」




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