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S4−2


「みんなの前で、弾くのは······」


「えっ?でもさ。将来、みんなの前で

 弾くことになるやんかー?今の内に、

 慣れとけばいいやんか。」


「うんうん。」



ピアノ弾けますよって。

自慢する感じになりそうで、何か嫌だな。


······

こんな考えしかできない自分も、嫌だ。



「とにかく、自分は、いいよ。」


「後藤センセーに、

 聞いてみるだけでもいいやん?

 もう決まっとったら、それでいいやろ。」


「そうやね。夏芽が弾く校歌で歌いたーい!」


「ちょ、悠乃、声が大き······」


「聞きづらかったら、俺が聞いちゃる!」



そんな、勝手に。



「やめて。お願い。」



夏芽は、強い口調で言った。



真面目に伝えたのが効いたのか、

悠乃と怜央は押し黙る。


空気が重くなったのを感じて、

慌てて弁解した。



「ご、ごめん······

 目立つ事は、したくない······」



矛盾してる。分かってる。


二人の言う通り、ピアニストになるってことは

みんなの前で弾くということ。

場に慣れる為に、という考えは

間違っていない。


でも。


自分の陰キャが、許してくれない。

良くない方ばかり考えてしまう。

そうじゃないって。分かってるのに。



「······いや、俺こそ、ごめん。

 勝手に盛り上がって。」


「自分も。ごめんね。」



二人は、謝る必要ないのに。


ホント、ダメだな。自分。



気まずくなりかけた時、ちょうど

担任の後藤が教室に入ってきた。



「はいみんなおはよー。席に着けー。

 始めるぞーっ。」



ほっと、息をつく。



また、前みたいに

自分の陰キャが強くなってる。


ダメだな、自分。そう思う事が増えた。



今、何も。自分のこと、肯定できない。
























レッスンが終わった後に

楽友と過ごす時間は、今まで通りだ。


普通に話すし、楽しい。


ただ。見えない壁に、

触れないようにしている。



「もうすぐやな。橋本先生のコンサート。」



ソファーで寛ぎながら言葉を投げる唱磨に、

ピアノ椅子に座っていた夏芽は

目を向けないようにして、

鍵盤に視線を落とす。



「うん。楽しみだね。」



コンサートに着ていく服は、流石に

普通の服じゃ、ダメだよね······はぁ。

ママ、絶対張り切っちゃうだろうし。



「4番、ばりばり弾けるようになったやん。

 すごいと思う。」



その褒め言葉に、ほんの少し前なら

素直に喜んでいた。



「······まだ、オクターブの連打が

 ミスっちゃうけどね······」


「それが気にならんくらい、

 上手くなっとる。相当練習しとるやろ?」



褒められるのは嬉しい、けど。



「······まだまだ、全然だよ。」



ダメな部分ばかり見つけて、

言い訳してしまう。



「バッハさんのお陰で、何とか

 なってるだけで。」




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