S3−32
以前、彼の手が背中に触れた時の、熱さと。
比にならないくらいの熱波が、押し寄せる。
急に鼓動の高鳴りが発生して
彼女は声が出せなくなり俯いていると、
ぱっ、と彼の手が離れた。
「······慣れんやつ、履いとるけんやろ。」
「······ご、こめん······」
そうだよ。普通の靴なら、
よろけるだけで踏ん張れたし。
迷惑、掛けなかったし。
「······ん。」
離した手が、なぜか差し出される。
その意味が分からず、夏芽は
唱磨に目を向けるが、彼の目線は
そっぽを向いたままだった。
「やっぱコケたら怖いけん、繋いどけ。
手をついて、怪我とかしたら笑えん。」
「······えっ?」
なに。それ。
「繋いどけって。」
「だっ、大丈夫だもんっ」
「お前、危なっかしいったい。」
「危なくないしっ」
なんで、そんな言い方するの?
「大翔。行こ。」
離れたくて、
引っ張って行こうとしたけど、
大翔は動かない。
「はるっ!」
思わず、強い口調になった。
唱磨くんの目が、自分に向く。
「何で、怒っとるん?」
「······怒ってない!」
「怒っとるやんか。」
「怒ってないもん!」
はる。お願い。動いて。
「おいっ」
彼の手が、彼女の腕を掴んだ。
それから逃れようと、
振り払おうとした瞬間。
握っていた、大翔の手が離れる。
はっとして目を向けたのと、
その離れた手が自分の手首を掴んだのは、
同時だった。
そして。
もう片方の大翔の手が、彼の手首を掴む。
「······め······」
本当に、小さく。
それは、聞こえた。
夏芽の手と。
唱磨の手を。
合わせるように、引き寄せて。
「······め······」
再び、漏れる。
今度は。確かに、聞こえた。
二人は、顔を見合わせる。
言いたい事は。きっと、同じだった。
今さっきまで、この場から逃げたくて
仕方がなかった気持ちは、吹き飛び。
逃げようとする彼女の気持ちが分からず、
問い正そうとした焦りは、消え去り。
引き合わされた手を、握るしかなくて。
ケンカ、ダメ。
自分たちに、そう伝えたんだと。
一致した時、笑みが零れた。
「ケンカ、してないよ。はる。」
「心配せんでよかよ。」
そして優しく、言葉を掛ける。
すると、両者の手首を掴んでいた
大翔の手が離れた。
小さくても。
声を、出してくれたことが。
久しぶりに聞けたことが。
すごく、すごく、嬉しい。
「おーい!お前らの分、小野田ママさんが
買ってくれとるばーい!
焼きそば食おーぜーっ!」
その呼び掛けで、二人は現実に戻る。
ぱっと離れたが、さっきみたいに
モヤモヤしてイラついた気持ちはなく。
手に残る温かさが、互いに嬉しかった。
夏芽は、再び大翔の手を取る。
握り返してくれる、その力が。
少しだけ、強くなった気がした。
sinfonia3終わりです。
ここまで読んでくださり、
本当に本当にありがとうございます♡♪
m(_ _)m。・゜・゜・。∞
これからもお時間の許す限り
よろしくお願いします。




