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P−7


「······いえ、実は······

 お断りしようと、考えていたのを

 昨日改めまして。せっかく橋本先生が

 僕に引き継ごうと話してくださったし、

 繋がった小野田さんとの縁を

 遠ざけるのは、と······

 夏芽ちゃんの指導は、責任を持って

 引き継がせてもらう次第です。」



その言葉に沙綾は、安堵の息を漏らした。



「良かった······

 橋本先生から、指導者としても

 素晴らしい方だと伺っていましたので。

 是非とも、的野先生に夏芽を託したいと

 強く考えていました。」


「······そんな。勿体ないお言葉です。

 大変恐縮です。

 懸念しているのは、レッスン時間を

 小野田さんのご要望に合わせるのが

 難しい点でして······できる限り、

 努力いたします。」


「大丈夫です。先生に合わせます。」


ママ。自分のレッスンなんだけど。


「夏芽ちゃん。すまない。

 都合が合わない時は、

 遠慮なく言ってほしい。大丈夫かな?」



思っていたことが通じたかのように

言葉を掛けられて、夏芽は目を丸くする。


真っ直ぐ向けられる恭佑の眼差しに、

逸らさず、きちんと合わせた。



この人は。

自分を、真っ直ぐに見てくれている。



「······自分は、全然大丈夫です。

 部活に入るつもりはないし、いつでも。」


「君がしたい事を我慢して、

 優先する必要はないからね。」


「······はい。」



見透かされたような気がした。


自分が、ピアノに対して

真っ直ぐじゃないことを。


······気のせい、かもしれないけど。



「ピアノに触れる時間が、楽しくなるように。

 橋本先生ほどの技術はないけど、

 僕なりに注いでいきたいと思っているよ。

 ······正直で、芯が強いと聞いている。

 君の色が、綺麗に染まるように

 導いていきたい。」



正直で、芯が強い。


橋本先生、自分のこと

そんな風に思ってたんだ。ちょっと意外。



“君の色が、綺麗に染まるように。”



先生、詩人みたい。


自分の色って······何色なんだろう。

今はまだ、透明なのかな。




とても温かくて、頼れる大人。


それが夏芽の、恭佑に対する印象だった。









レッスンに関する話と他愛ない談笑で

30分程過ぎた頃、夏芽と沙綾は

的野家を後にした。



結局、唱磨くんは帰ってこなかった。



“「おかしいなぁ······そんな遠くに、

  行っとらんはずなんですけど······」”



困り気味で博多弁を喋る的野先生は、

何か好感が持てた。


浮かべた父親の顔は、

扱いが難しい自分たち世代のことを、

必死で分かろうとしているように見えて。

ウチのパパも、あんな顔をする。



夏芽としては、唱磨と会わなかった事に

少なからず安心していた。


もしかしたら、向こうも人見知りで

会うのを避けたのでは。

何となく、そう思ってしまったのだ。








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