S3−26
学校でも時々、唱磨くんは
自分とこの教室にやってきて、
話すことが多くなった。
自分と悠乃、唱磨くんと前田くん。
あれから何かと、4人で集まることも。
幼なじみ二人と楽しそうに話している
唱磨くんを見ていると、自分も楽しくなる。
レッスン後で会う時の唱磨くんとは、
少し違う顔。何ていうか、子どもっぽい。
······子ども、なんだけど。
どっちの唱磨くんも、輝いて見える。
初めて会った時より、ずっと明るい。
良かったなぁって。安心できる。
あっという間に、夏休みが来た。
やっと、学校へ行く足が軽くなったのに。
みんなと毎日会えてたのに、ちょっと寂しい。
前田くんは、部活とか試合とかで
忙しいみたいだった。
今でもちょっと意外だと思うけど、
剣道の有段者。しかも、
大会に出るくらい強いみたい。
文武両道って言葉があるけど。
これで勉強もできるってなったら、
その言葉が似合いすぎる。
悠乃も部活で学校に行っていて、
会って遊ぶのは減っちゃってるけど。
スマホでのやり取りは、毎日している。
この前通話した時、聞かれた事があった。
—「夏芽ってさ。的野くんのこと、
好きっちゃんね?」—
その質問は、真っ直ぐすぎて。
意味は、痛いほど分かった。
はい、とも、いいえ、とも言わず
黙っていると、ガチトーンで返ってきた。
—「······スルーしとると、
苦しくなっちゃうよ?」—
悠乃は、ホントにすごい。
自分のこと、よく分かってる。
—「心配してくれて、ありがとう。悠乃。
スルーしてるわけじゃなくて······
その······」—
どうしたらいいか、分からないんだ。
—「もし、的野くんが······夏芽のこと
好きって言ったらどうすると?」—
その言葉に、ドキッとして、
ズキンとした。
—「そ、それは、ないよ。」—
—「あるよ、きっと。」—
—「楽友関係を、大事にしてるから。」—
楽友にならん?って言ったのは、
唱磨くんからだ。
自分のことは、それ以上でも
それ以下でもない、ってことで······
—「いつか、変わると思う。」—
······変わる?
—「今は二人とも、自覚しとらんけんよ。
きっとね、同じ状態っていうのは
ないと思うんよ。だから······
その時、ちゃんと正直に
伝えないかんよ。」—
悠乃が言っている事は、
よく分からなかった。
だけど。周りから見ての意見だって事は、
分かったつもりだった。
しかも、自分よりも悠乃は
それを、真剣に考えてくれていて。
唱磨くんのこと、好き?嫌い?
どっち、と言われたら······
好き、としか言えない。
嫌い、じゃないし。
それで、どうするって言われても。
今の自分には、分からない。




