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S3−21


町内の盆踊り。その響きは、

今の心境をリセットするくらいに

興味を引いた。



東京では、友だちと

花火大会に行ったことはある。

大きなお祭りなので、

知ってる顔と会うのは、それこそなかった。


町内っていうくらいだから、

ほとんど唱磨くんたちが知ってる人が

来るってことよね。



「いっぱい楽しもーっ!」


「今からもう血が騒ぐーっ!」


「早すぎやろ。まずは期末テスト。」


「現実に戻すなーっ!」



前田くんの気持ち、少し分かる。

お祭りって聞いただけで、

テンション上がるよね。



「これからどーする?遊ぶ?」


「おい。今俺が言った言葉、

 聞いとったやろうもん。」


「でもせっかくやから、ちょっとだけ

 ゲーセン行こーよ!」



この流れで言いにくいけど、言わないと。



「あのっ······自分、これからっ······」


「小野田は、15時からレッスンなんよ。

 俺も、もう帰る。」



楽友が先に言ってしまい、夏芽は

口をパクパクさせるしかなかった。


怜央は、ニヤニヤしている。



「ほほぉ。そっかー。

 それは邪魔しちゃいかんなー。」


「邪魔って、何の?」


「うほほこっちの話!」



······うぅ。

ホントに、レッスンなんだってばぁ。



「レッスンなら、仕方なかね。

 じゃあ、ここで解散しよ。

 来週の期末テスト、みんながんばろーっ!」



遊びに全力の悠乃が、意外にも

あっさり引き下がってくれた。


さっきもだけど、話を逸らしてくれたり

気を遣ってくれているような。


ありがとね。悠乃。



「唱磨に勝つぞーっ!」


「勉強し始めたの、何日か前やろ。

 そんなんで、俺に勝てると思うなよ?」


「はぁーっ?!俺のガチをなめんなよ?!」


「ふふっ!自分も〜!」


「海の幸天丼、楽しみやなぁ。」


「もう食う気でおるん?!くっそ!

 お前がもし負けたら、焼きそばおごれ!

 大盛りやけんな?!」


「ははっ。焼きそばでいいと?やっす。」


「こらーっ!

 叔父さん叔母さん父さんに謝れーっ!」




幼なじみ三人のやり取りは。


入る隙間がなくて見守るだけになるけど、

自然に笑うことができる。



これまで、ネイティブな博多弁は

ケンカ腰にしか聞こえなかったけど。


今では、仲の良さが伝わってくる。



いいな。幼なじみって。


















ショッピングモールで解散した

夏芽と唱磨は、自転車で

それぞれの自宅へ向かう。



天高く昇った太陽の光は、容赦なく

ギラギラしていて

熱波を生み出していた。



「······アイス食いたくなる!」


「うん!めっちゃ暑いね!」



せっかく引いていた汗も、ぶり返して

滝のように流れ出す。



向かい風が、生温い。


でも、吹かないよりはいい。




前を走る唱磨の背中を見ていると、頭の中で

ノクターンの11番が再生された。




的野先生が弾いた、ショパンのノクターン。


それを聴いて、驚くほど心が軽くなった。



技術不足だとか、劣等感とか。

いつもそれが足枷になっていて。


重くて、引きずっているのに。



それが、何もかも

どうでもよくなるくらいに。




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