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P−6


アンティーク調の可愛いチェストの上に、

一枚の写真が飾られていた。



幸せそうに微笑む綺麗な女性と、

今より少し若い的野先生。

この女性は多分、亡くなられた奥さまだ。


そして、間にいる赤ちゃんは。二人の子ども。

きっと、唱磨くんだろう。


······赤ちゃんの頃は、みんな誰だって

かわいいよね。

でも、美男美女の間に生まれてるから

······顔、整ってる気がする。



「お待たせしました。」


「わぁっ!とてもいい香りっ!

 早速、いただきますっ!」



ママってば。そんなに、がっついて······


わっ···この甘い香り、バニラだ。いいにおい。


······うわ。なにこれ。やばっ。おいしっ。

今まで飲んできた中で、ダントツじゃん。

えっ、知り合いのオリジナルって言った?

数量限定の、特別品······

えっ······



「お好みで、砂糖どうぞ。」


お砂糖、いらない。

入れなくても十分、おいしい。


「すっっっっごく美味しいですっ!」


「ははっ!でしょう?

 茶菓子も美味しいですよ。

 行きつけのパティスリーがありまして。

 そのお店のマカロンです。」


「わぁっ。マカロン大好きなんですっ。

 嬉しい!いただきます!」



······うん。これは、紅茶に合う。


しゅわっと口の中で溶けていく

オレンジクリームの爽やかさと、

バニラの甘い香りが相まって、

豊潤なデュエットを奏でている。


なんて、食リポをしてみる。


いや、どっちもヤバい。おいし。

大事に、いただこう。




紅茶と茶菓子を無言で堪能している

夏芽を他所に、大人二人は

にこやかに世間話を交わした後、静かに

グランドピアノへ目を向けた。


しばらく間を置いた後、恭佑は

沙綾と視線を合わせて声を紡ぐ。


「橋本先生から、

 僕の経歴は聞いていますか?」


「はい。少しだけ。」


「現在、ここでピアノ教室を開いていますが、

 傍らF女子短期大学の非常勤講師も

 勤めています。」


「はい。そのように、伺っています。」


「実は4月から、教授の推薦で助教として

 勤める事になりまして······」


「まぁっ、そうだったんですね!

 おめでとうございます!」


顔を輝かせる沙綾とは反対に、

恭佑の表情は暗くなる。


「僕としては、ピアノ教室を続けたいのですが

 ······両立は難しいと、判断せざるを得なくて。

 閉めることになりました。

 橋本先生に連絡するのが遅れたのは、

 大変申し訳なく思っております。」


「······えっ······

 それでは、その······夏芽の指導は?

 できない、という事、ですか?」


「······」



極上のティータイムを、終えたところだった。


雲行きが、怪しい。





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