S3−16
夏芽は枕元に置いていたスマホに
手を伸ばし、通知を確認する。
本人の目の前で画面を開かなかったのは、
ニヤついてしまいそうだったから。
部屋で落ち着いてから見ようと思って、
今の今まで開かず楽しみを取っておいた。
楽友とスマホで繋がれたのは、
ホントに嬉しい。
ずらりと一曲ずつ音源が並んで、
最後にメッセージが届いていた。
その時間を見ると、約一時間前である。
《おれもノクターンひこうかな》
内容もだけど、字面で見ると
ものすごくヤバい。ニヤける。
思わず、返事したくなった。
どうしよう。ちょっと見るの遅かったかな。
······今、いいかな、送っても。
《ごめん今からきこうと思う》
《的野くんのノクターンききたいな》
すると、すぐに既読が付く。
その事に、ドキッとした。
《おまえひく?》
短い言葉だけど、何でこんなに
嬉しいんだろう。
お陰で、迷ってた気持ちも吹き飛んだ。
《うん》
《ひいてみようと思う》
既読が付いてから
少し間があったが、返事が来た。
《いちばんすきなノクターンどれ?》
質問。会話、していいってことかな。
やり取りできるの、うれしいな。
《4番かな》
《しぶ》
《おれは11ばん》
渋いかなぁ。
それなら、11番の方が渋いけどなぁ。
互いに、有名な2番を言わないのは
ちょっとおもしろい。
《短調好きだよね》
《うん》
《すきになるのがたんちょうやね》
《ノクターン全部好きかも》
《おれも》
《やけどおれはひくぎじゅつがたりん
けんいちばんすきなやつだけひく》
《おまえはぜんぶひけるやろ》
全部ひらがなだと、暗号みたい。
解読が、楽しい。
《がんばる》
《橋本先生のコンサート》
《楽しみだね》
《うん》
《とうさんよろこんでた》
《おれもせんせいとひさしぶりにあう
けんうれしい》
《うちにとまるとおもうけんきたら》
えっ?それは······
橋本先生とレッスン以外で会って話したのは、
ママを通しての食事くらいで······
お家に泊まるくらい、仲良しじゃない。
そんなに、仲良しなの?
《緊張するかも》
《きんちょう?なんで》
《レッスン以外であまり話したことない》
《そうなん?》
《せんせいおもろいよ》
おもろい。
それも、初めて知った。
《レッスンとプライベートのきりかえ
せんせいすごいけんな》
《それだけおまえにガチでおしえとっ
たってことやろ》
そう、なのかな。
そういう見方、しなかった。
《いまおまえはとうさんのせいとやけ
んきんちょうせんでいいやん》




