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「外装も素敵ですけど、インテリアも
すごく可愛いです!」
「ははっ。妻が聞いたら喜んだやろうなぁ。
ほぼ、彼女の要望に応えた家ですから。
周りは田んぼだらけで、
全然合っとらんと思いますけど······」
「そんな事ないです!逆に、風景と合っていて
素晴らしいと思いますよ?」
「ははっ。ありがとうございます。
···ここら辺、何もなくて驚いたでしょう?」
「何もないどころか、自然に溢れて
とても癒やされています。
穏やかな時間って、必要なんだなぁって
改めて実感しました。」
「そう仰ってくださると······
何というか、嬉しい気持ちになりますね。」
「ふふっ」
自分は、先生が言うように何もなさすぎて
どうしようかと思ったけど。
家に行く途中、ローカルなコンビニはあった。
でも、少し歩かないと辿り着かない距離。
「今は時期じゃありませんが、すぐ側に
僕の父が遺した田んぼがありまして。
そこで、米を作っています。
自給自足程度ですが。」
「まぁっ!すごいですね!」
「出来たら、差し上げますね。
自分で言うのも何ですが、
とても美味しいんですよ。」
「わぁっ!いいんですか?!嬉しいっ!
是非、よろしくお願いします!」
ママ。テンション上げすぎじゃない?
でも、確かに。
美味しいお米が食べれるのは嬉しい。
そのお米で、ツナおにぎり食べたい。
一年後、かな。楽しみにしとこ。
通された部屋には、
立派な黒のグランドピアノが置かれていた。
所々に傷は付いてるけど、
綺麗に拭き上げられてピカピカしている。
自分とこのピアノとは、貫禄が違った。
「こちらにどうぞ。」
恭佑が、ピアノのすぐ側に置かれている
ソファーに、夏芽と沙綾を促す。
「紅茶と茶菓子をお持ちします。
ゆっくり寛いでいてください。」
「ふふっ。すみません。
紅茶って聞くと、弱くて······」
「ははっ。僕もなんですよ。」
「私も夏芽も大好きで、毎日飲んでます。」
「そうですか!ははっ、それも同じです!
今ハマっとるのが、知り合いが製造している
オリジナルの紅茶でして。数量限定品を、
特別に売ってもらってます。」
「わぁっ······!それは嬉しい!」
「ちょっと待っとってくださいね。」
「はい!ありがとうございます!」
深々と頭を下げて恭佑を見送る沙綾に、夏芽は
冷ややかな視線を送る。
「······挨拶だけじゃ、なかったの?」
その言葉に、すぐさま頭を上げて
沙綾は答えた。
「断れるわけがないでしょう?!
いいじゃない。グランドピアノを
眺めながらのティータイムなんて、優雅で。
しかも、美味しいとか数量限定とか
言わちゃったら、飲みたくなるわよ〜!
なっちゃんだって、紅茶大好きなくせに〜」
そんな、嬉しそうに言い訳して。
「良かったわね。とても優しそうで、
素敵な方よ。ママは、
100点満点付けちゃうわ。」
······イケメンだからじゃないの?
まだ、分かんないじゃん。優しいかどうか。
教えるってなった時に、鬼になるかも。