S3−2
7月1日。自分の誕生日。
今日で、13歳になった。
まだ13なんだ、と思うのか。
もう13なんだ、と思うのか。
自分は、どっちでもない気がする。
ただ、13なんだなって思う。
見た目は変わってるかもだけど、
中身は多分、変わらない。ずっと。
博多弁は相変わらず、まだ喋れないけど
時々早口になる楽友の言葉を、
聞き返すことがなくなった。
この前の博多弁講座で、
―「“好いとうと”って、日常使わないの?」―
と、前から思っていた疑問を投げると
―「使わん。言っとるやつ、身近におらん。」―
と、鼻で笑われてしまった。
言わないんだ。じゃあ、それって
わざと使ってるやつなんだ。
そう言ったら、唱磨くんは笑ってた。
―「わざとって。少なくとも、
俺の周りではおらんってだけ。
よくあるやん。よそ者が、勝手に
イメージして思い込んでるやつ。
俺だって、東京には自然がないって
思い込んどるし。」―
あ。そっか。それ、分かりやすい。
なるほど。と、勝手に解決した。
自分の相棒を調律してもらった日から、
楽友関係は良い方向に進んでいる。
ピアノのレッスン後、唱磨くんは
自分に会いに来るようになった。
でも毎回、あの小節のクレッシェンドが
弱かったとか伸びが足りないとか
ダメ出しをもらう。悔しいけど。
まぁ、良かったところも言われる。
それが嬉しかったりするけど。
自分のピアノを、
真っ直ぐ聴いてくれている。
それって、恥ずかしいけど
幸せなことだよね。
彼の言葉は、遠慮がない。
それは、良い意味で。
言ってることは嘘じゃないし、
納得することが多いから。
素直に聞き入れて、噛み砕いて、
飲み込める。そんな友だち、
今まで会った中で、いたかな。
······思い当たる子は、いない。
“楽友”っていう特別枠も。
そして、大翔と友だちでいてくれている。
ブロッコリーマン繋がりで。
あれ以来、家には来てないけど
“大翔くん元気?”と、会う度に聞かれる。
借りた、おっきなブロッコリーマンは今
リビングの窓際に座らせていた。
大翔の定位置で。
抱いて歩くかと思ったけど、それはなかった。その隣にくっついて、座るだけ。
友だちと思ってるのかな。
正直、ホッとしてる。
大翔の背丈と同じくらいだから、
引きずる感じになってしまう。そうなると、
汚れてしまうから。
隙を見て、自分が責任を持って
綺麗に手入れをするようにしていた。
ほこほこな手触りを保ちたい。
特別に借りてる、
大事なブロッコリーマンだもんね。
あれから大翔は、
自分を見てくれるようになった。
まだそこから変わらずにいるけど、
見えない何かが変わったと思う。
パパママは、その事を
すごく喜んでた。
二人のことも見てほしい。
まだそれは、できていない。
でも、焦らなくていいよね。
少しずつで、いいんだ。
そう思って、待っていればいい。
楽友も、そう言ってるから。
······
『なっちゃん』
夢、だったけど。
大翔が、笑顔で呼んでくれた。
もう、そんな日が
来るのかもしれないって。
期待してて、いいんだよね。




