S2−18
「泣かれると······
困るっちゃけど······」
唱磨くんは、慌てている。
あの時も、そうだった。
それが可笑しくて、笑った。
「泣いて、ごめん······」
「いや、謝られても······」
「ありがとう······」
「お礼、言われても······」
なんで、唱磨くんの言葉って、
刺さるんだろう。
「······大翔、いつか、
話してくれる、かな······?」
「······うん。大翔くんも、今十分
頑張っとるけん。」
「······そう、だよね······」
「待っとけばいい。」
「······うん。」
自分に、何か伝えようとしたこと。
言おうとしたこと。
その光が生まれた事は、間違いない。
それが分かったから、大丈夫。
できることを、やっていけばいいんだ。
そばにいて、待っておけばいい。
夏芽が泣き止むまで、
唱磨は静かに見守っていた。
こんな時、どうしたらいいのか。
分からずに、胸の奥が
モヤモヤするのを感じながら。
俯かせていた顔を上げて、彼女は
明るい笑顔を見せる。
「もう知ってると思うけど大翔ね、
ブロッコリーマン大好きなんだ。
自分も大好きで、ぬいぐるみとか
集めたりしてる。
あのキーホルダー、新しいやつで······」
「知っとる。······
俺の部屋に、ばりでっかいやつあるけん
持ってこようか?」
「······えっ?!」
「どこにも売っとらん限定のやつ。
何となく応募したら、抽選で当たったんよ。
······貸し出すだけやけんな?
俺も、大好きなんよ。
あいつ、かわいいよな。」
楽友も、ブロッコリーマンが大好きとは
思わなかった。それも、あるけど。
大好き。かわいい。
その単語の連続が、彼の口から出てくるのは。
予想の欠片もなかった為、
夏芽の熱量が爆上がりする。
「か、貸し出すって······」
「あ。いつも綺麗にしとるけん。汚くない。」
「そ、そうじゃなくてっ。」
「もし、大翔くんが気に入らんかったら
返してもらえばいいし。
······小野田が気に入ったら、置いとけば。」
彼女の気も知らない彼は、
無邪気な笑みを浮かべる。
それが、拍車をかけてしまう。
「わ、悪いよ。そんなの。」
「決めたんよ。俺も、できることをする。」
強く、鼓動を打つことに。
「遠慮ナシって、言ったやろ。」
雲に隠れていた太陽が、顔を出す。
ゆっくり日差しが、二人に降り注いだ。
それを見つめる、大きな瞳。
「······あっ」
二人は、その視線に気づく。
リビングの窓から、大翔が自分たちを
見つめていることに。
「······小野田。今から、すぐ持ってくる。
家ん中で待っとって。」
「えっ?ま、的野くんっ······」
唱磨は歯を見せて笑い、大翔に向かって
大きく手を振る。
そのまま庭から、外へ出ていった。