S2−17
先生は、唱磨くんを残して帰っていった。
見送る時に階段を見たら
ママと大翔は、いなかった。
多分、大翔の部屋にいる。
そこからも、窓から空と景色が見える。
ママと一緒なら、どこにいても大丈夫だから。
それでも唱磨くんは、
リビングにいるのは悪いと思ったのか
場所を変えようと言ってきた。
だから、庭に出ようと連れ出した。
お日さまは雲に隠れて、ちょうどいい気温。
最近ママがプランターを置いて、
花を植えてた。何の花だっけ······?
小さい花びらがいっぱい付いていて、
とてもかわいい。
唱磨くんは、堀の向こう側にある
ビニールハウスへ目を向けていた。
「······話したいことって?」
ちょうど風が吹いて、それに乗って
掠れた声が届く。
落ち着いていた心臓が、少し騒がしくなった。
「······
大翔のこと、なんだけど······」
「父さんから、少し聞いとった。
······原因は、何やったと?」
「······」
分からない、と言ったら。
呆れちゃうかな。
「誰も、原因は分からない。
いじめられたかもって思って、
手がかりを探したけど······
それは、なかったみたい。」
「······」
「突然だったの、ホントに。
考えても、思い当たらなくて······
家族が原因だとしたらっていうのも、
あるかもだけど······」
それまでのパパとママの仲は、
良かったとは言えない。
自分も、大翔に構う時間がなかった。
もしも、ホントにそれが原因だったら······
「違うやろ。」
はっきり、言われた。
「それはない。」
「分からないよ。誰も、それは。」
大翔の口から聞かないと、分からない。
······
どうしてそんなに、はっきり言えるの?
「お前が言うように、原因が分からんなら
誰が悪いかなんて、決めつけられん。」
「だけどっ······もっと自分が、
大翔と向き合っていたらって思うとっ
······」
堅い殻に、閉じ籠もることはなかったはず。
「何も、できなかったんだよ······」
「やっとるやんか。」
唱磨くんの目は、自分に向けられた。
「今、できることしとるやん。
それで、いいっちゃないと?」
「······」
「小野田の父さんも母さんも。みんな、
大翔くんの事を考えて、向き合っとる。
俺は、それでいいと思う。
あの時、ああしとけば良かったって
思うよりも、今できることを
考えた方がいいって。だから、
それでいいんだって。」
つん、と、鼻の奥が痛い。
唱磨くんの顔が、ぼやけた。
「······っ」
「······えっ」
彼の前で泣くのは、これで二度目。
でも、今度の涙は。
「な、なんで泣くんよ······?」
「うぅっ······」
大翔を助けられなかったって、
ずっと責め続けた自分を。
違うって、はっきり言ってくれた。
今できることを、やってるって。
それでいいって。言ってくれた。
それが、すごく、嬉しかった。




