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S2−13


······あっ。



すかさず夏芽は、その後を追う。

それを、唱磨は黙って見送った。



「······あらっ、はるくんっ?

 すみません、ちょっと······」


「構いません。どうぞ。」



それにようやく気づいた沙綾が急いで

リビングから出ていった事で、恭佑は

事態に気づき、表情を暗くする。



「······しまったな。」




さっきまでいた大翔の場所へ、

唱磨は目を向けた。


ちょうど、窓から差し込んだ光でできた

陽だまりの中に、何かが落ちている。

それに向かって歩いていくと

膝を付き、それを拾い上げた。



彩緑のヒーロー。

彼も、よく知っているキャラクターである。



「届けてくる。」




考えるよりも。


届けなければという気持ちが、

身体を動かしていた。










大翔は、階段の下で隠れるように蹲る。


夏芽は近づくと跪いて、躊躇いなく

背後から抱き締めた。



「はる、大丈夫だよ。」



呼び掛けて、ぎゅっとする。



慣れない会話の大きさで、

びっくりしたんだろうな。


······やっぱり、逃げちゃうよね。




弟は、振り向く。

大きな瞳が、自分を映した。



目を合わせてくれたのは、

殻に閉じこもってから、今までにない。



どくん、と、心臓が打った。



訴えるような光が、浮かんでいる。



それが見えた時、驚きよりも

期待の方が強く押し寄せた。



「なに?大翔?どうしたの?」



思わず焦って、問いを投げる。



自分に、何か言おうとしている。

何かを、伝えようとしている。

なに?なんでもいいよ?何か言って?



「夏芽っ」



遅れて沙綾が、二人の元へ駆けつけた。



呼び掛けに応える余裕はない。



「大翔っ······!」



もう一度、名前を呼ぶ。



すると、ピクっと大翔の身体が震えた。


弟の視線は、自分の後方へ注がれている。



振り向きざまに、

彩緑のヒーローが目に飛び込んできた。


そして。そのキーホルダーを手にして屈む

楽友の顔が間近に映る。



真っ直ぐに、弟を見据える黒い瞳。


それが、ビー玉みたいに綺麗だった。




大翔の両手が、

唱磨の持つキーホルダーに向かって伸びる。


それに反動して、きつく抱き締めていた

夏芽の両腕が緩んだ。



掴むと胸元に持っていき、じっと見つめる。


その大翔の様子を、三人は静かに見守った。




自分に伝えようとしていた光は。


何かを訴えようとしていたのは。


何なのか分かった事よりも、

その光が生まれた事のほうが。


何倍も大事で、叫びたくなるくらいに

嬉しかった。



殻を破ろうとしたことが。

それが、見えたのが。




「唱磨くん。ありがとう。」



微笑んで感謝の言葉を伝える沙綾に対し、

彼は申し訳なさそうに頭を下げた。



「すみません。俺たちが、来たから······」


「ううん、違うわ。謝らないで。

 びっくりしただけよ。」



どくんどくんと、心臓が

まだまだ激しく打っている。



「なっちゃん。後は私が付いてるから。

 唱磨くんとリビングに戻って。

 先生に、伝えておいてね。」



頭に置かれる、ママの手。


それが温かくて、優しくて、急に力が抜けた。


立てない、かも。



「ママ、ごめん、立たせて······」



素直に甘えた。


ママは笑って、何も言わずに立たせてくれた。



「ありがとうね。なっちゃん。」



何のお礼なのか。

分からないまま、頭を撫でられて

背中を押された。



目の前に、唱磨くんがいる。



今度は、とくんとくん、に変わる。


その真っ直ぐで、綺麗な目のせいだ。





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