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S2-1


夏芽は階段を上がり、部屋に入ると

勉強机の上にリュックを下ろした。



汗ヤバい。シートで拭かないと、臭いそう。

この時季で、もうこんなに汗かいてたら

夏どうなんの?



ピアノレッスンは、これで7回目。

指定される日時は、週の真ん中辺りの

夜の7時から8時の間。

学校から帰ってきて事前練習できる時間を、

考えてくれている気がする。


的野先生の指導は本当に的確で、

受ける度に上達していくような。

気のせいだとしても、力をもらえるような。

真っ直ぐ自分と向き合ってくれる。

レッスン受けられて良かったなと、

心から思う。



楽友関係は、というと。

実は、あれからレッスンで家に行っても

会わない。部屋から、出てこない。


呼んでこようか?と先生が

毎回気を遣ってくれるけど、断っている。


だって、なんか、それっておかしくない?

こっちからアクション起こすの、気まずい。

楽友になろうと言い出したのは、唱磨くんだ。

······いや、でも、それを言ったら。

変な意地を張って、このまま何もしないのは

······

モヤモヤする。


学校では、ちらっと見かける。

でも同じクラスじゃないし、

話せるきっかけがない。

廊下ですれ違った事もあるけど、

存在知らないのかってくらいに

目を合わせない。


運動会の時だって、いるのかって

疑問に思うくらい会わなかった。

あ。でも、リレーに出てて

すごく足が速かったのは見たな。それで、

みんな盛り上がってた。うん。まぁ、

運動できそうな感じはあった。自分と違って。

とても、ピアノできそうな人には

見えなかった。あの時だけは。



楽友のルールとは。音楽がない所では、

他人のフリをしなくてはならないとか。

ピアノに関する事を、学校で話しては

ダメなのかもしれない。と、いうか。


異性というだけで、壁がありすぎる。

仲良くしていたら、きっと冷やかされる。

それって、平和な学校生活を送るの

かなり厳しくなりそう。だから、

こちらから話しかけるのは

やめておいた方が······とか思ってしまう。

もしかして、それを気づかって向こうが

知らないフリをしてくれているのかも。

そう考えた方が、いいのか。


でも、それなら。

レッスンで家に行った時くらいは、

顔出してもいいじゃん?

······とか、思っちゃったり。



とにかく。唱磨くんは、よく分からない。





緑コーデの七分袖のシャツと

フレアスカートに着替え終わって

リビングへ下りると、夏芽は

テーブルに置かれているグラスを手に取る。


戦闘開始。というように、水を流し込んだ。



リビングの窓はもう、大翔の特等席だ。


夕日の赤い光で、顔が照らされている。



「はる。ただいま。」



返ってこないだろうけど。


と、決めつけちゃいけないけど。



ママが大翔を連れて

メンタルクリニックへ通い出したのは、

こっちに引っ越して一週間経ってから。

一時間に2本しか来ないバスで、

週一のペースで通院している。



全然、変わらないな。


笑いも泣きも、怒りも怯えもしない。

何も、浮かべない。


ただ空を、景色を、ずっと見つめている。







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