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S1−10


              *




買ってもらった自転車は、

シンプルな作りの、普通のやつ。

他のカラフルなのもあったけど、白にした。

こだわりもなく、即決。

なんていうのかな。直感?

一目惚れ、とかじゃないけど、何となく

作りも見た目も、丁度いいと思った。


セットで付いてたヘルメットも白で、

かわいくないやつ。でもまぁ、ヘルメットは

いくらでも盛れる。ちょうど、

ブロッコリーマンのデコシールがあって、

それを貼った。うん。かわいいじゃん。



自転車は、乗れればいい。

機動力を手に入れたのは大きい。

これで、どこへでも行けそう。

入学する前に自転車で、どっか

遊びに行こうかな。それ、いいかも。




夏芽は、自転車の前かごに

楽譜が入ったトートバッグを入れる。

ヘルメットを被って紐を引っ張り、

カチリと固定した。



「自転車で行くのね。」



すぐ着いちゃうわよ。

そう言いたげな目で、沙綾は笑って

眺めている。



「慣れときたいから。」



言い訳のように言葉を返した彼女の表情は、

自転車に乗れる嬉しさを隠しきれていない。



「行ってきます。」


「気をつけて行ってらっしゃい。」




蹴り出した足を素早くペダルに乗せて、

漕いでいく。前輪が大きくふらついたが、

上手く軌道修正した。


家を出てすぐ急な坂道が出現するが、

立ち漕ぎをして難なく突破する。




うわヤバッ。風気持ちいっ。最高っ。




雲は多めだが、今日も

穏やかな青空が広がっている。


遠目だが、公園の桜並木に所々

芽吹きが窺えた。




桜って、芽吹いてから満開になるまで、

あっという間なんだよね。

散るの、早いし。


この時季だけ、みんなに注目される桜。

綺麗なのって、一瞬だから、いいのかな。

ずっとだったら、慣れちゃうよね。



暖かい向かい風が、夏芽の髪を靡いていく。



自転車で走る心地好さを堪能するのも

僅か5分弱という短さで、すんなりと

的野家に到着した。


軽やかにサドルから降りて足を付くと、

カラカラと押して敷地内へ入っていく。



自転車で来てもいいか、ママが事前に

的野先生へ連絡をしてくれていた。

停める場所は、桜の木の側だ。


駐車場には、車がある。初めてきた時にも、

停まってた。先生の車だよね。

そのすぐ後ろには、青色の自転車。

多分、唱磨くんのだ。



かしゃん、とスタンドを立てて振り返ると、

視界に桜の枝が割って映り込んだ。



「······あっ。」



三輪ほど、芽吹いている。



咲いてる。きれい。


昨日の強いアピールは、もしかすると。

芽吹く前の爆発的なエネルギーを、

チャージ中だったのかも。




前カゴに入れていたトートバッグを持って、

代わりに脱いだヘルメットを入れると、

夏芽は門柱の前まで歩いていく。



昨日とは、大違い。

緊張もない。何ていうか、

早くピアノ弾きたい。



唱磨くんが一番好きだと言った、13番。

昨晩の練習で、繰り返し何度も弾いた。


美しくて、しなやかな曲調の、イ短調。

語彙力不足で、うまい言葉が

見つからないけど······

身分違いの恋をして悩むお嬢さま、みたいな。

陽キャのイ長調とは、真逆だ。


多分、解釈抜きで弾いてしまったら

それこそ、彼に怒られそう。


だから、これを披露するのは

まだまだ止めておこうと思う。

自分が納得するまで、温めておく。






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