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S1−6


昨日の、あぜ道を吹き抜けていた突風は

ぽかぽか陽気と混じり合って、

穏やかな流れに変わっている。

霞がかっているが、天気も快晴だった。



もみくちゃにされた髪も、今日は無事。

抑え込む必要は、なさそう。


昨日ママと歩いた時は、結構距離があると

思ったけど、意外と近い。

もう、着いてしまった。




夏芽の鼓動は急速に鳴り打って、

どくんどくんと身体中に響いていた。



なに、この、うるさいのは。



アレに似ている。

初めてのピアノ発表会で、

演奏の順番を待っている時の、何とも言えない

緊張感。隣に座っている子たちも

ピリピリしていて、伝染して。手汗が酷くて。

逃げ出したい気持ちでいっぱいになった、

あの時と、同じ。



······帰っちゃ、ダメかな······



いなかったよ〜って。

留守だったよ〜って。

ほら〜、やっぱり出かけてたよ〜って。

それで、いーじゃん······



的野家の門柱の前で、しばらく立ち尽くす。


インターホンに、なかなか手が伸びない。


何かにすがりつきたい思いで

目を向けた先にあったのは、

一本の、若い桜。


昨日は、ひょろ長くて頼りなく見えたのに。

今は、威圧を感じるくらいのアピールを

投げつけられている気がする。



何しに来た?

君に、ここを突破する覚悟はあるのか?

なければ、悪いことは言わない。

帰りなさい。と、いうような。



ごめんなさい。帰ります。



そう思って、引き返そうとした時だった。



「······え。何しとるん?」



掠れた声が、降ってきた。



昨日、呪いをかけた、張本人の声。


思わず、その方向を見上げた。



二階の窓が開いている。

そこから、顔を出しているのは。間違いなく。



全身の熱が、急激に沸点へ達した。



家の前で突っ立ったまま動かない自分は、

きっと、挙動不審に思われた。


どうしよう。変人確定じゃん······



「·······」



視線が、痛い。



「······えっ、と······」



なんて、話を切り出したら······



おほほほ。

苺、とても大きくて甘くて

大変美味しゅうございましたわ。

どこで手に入れたんですの?


······いや、何で、お嬢口調に······



「······今、父さん、おらんけど······」



的野先生。あぁ。そうだ。

先生に会いに来たという事にしたら······



「······じゃあ、また来ます······」


「何か、用事やったっちゃろ?

 自分で良かったら、聞いとくけど······」



······あれ?

意外と、話してくれてる······?


思ってたよりも······



「······ううん。大丈夫。」


「······」



視線が、自分から外れる。



ホッとしたと同時に、

モヤモヤっとしたものが膨れた。



このまま、帰っていいのか。


ミッションが、果たされていないままで。





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