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S1−3


「夏芽っ」



弾いている最中に、声が掛かる事は

今までにない。



「ごめん。ちょっと来て。」



その沙綾の呼び掛けで、やっと手を止めた。


「······何?」


「いいから。」


答えをくれずに、玄関へ姿を消す。



何事かと、ソファーに座っていた秀一へ

目配せしたが、首を傾げている。



······えっ?一体、何?なかなか上手く

弾けてたところだったんだけど。



訳分からず途中で止められて、夏芽は

若干不機嫌だった。

しかも沙綾は、何も言わずに

さっさと玄関へ行ってしまった。

訝しげに表情を曇らせながら、渋々

玄関へと足を運ばせる。



ドアが、開いていた。

そこに立っている、見知らぬ誰か。

目が合って、身を固める。


「わざわざ来てくれたのよ。唱磨くん。」


夏芽の頭に浮かんだ名前と、一致した。



写真を見た時、気づかなかった。

左目の下に、ほくろがあったこと。


何だっけ······あっ、泣きぼくろだ。



突然の訪問と予期していない事態に

挨拶の言葉も出ず固まっていると、

目を逸らされた。


唱磨は、持っていた手提げ袋を

沙綾に差し出す。



「······あの、間に合わなくて、

 すみません。」


「えっ、そんな、いいのよ?!謝らなくて!」



ママも少し、テンパってない?



「いいやつを選んどったら······その、

 没頭してしまって。」


「······えっ?」



手提げ袋を受け取り、中身を見た沙綾は

みるみるうちに顔を輝かせる。



「まぁっ······!立派な苺!これ、

 こんなにたくさん、いただいていいの?」


「······はい。」


「ありがとう!わざわざ、ありがとうね!」



渡したい物って、苺だったのか。

ママの喜び様が、ハンパない。



······えっ。待って。


“いいやつ選んでたら、没頭した”って言った?


······ただ、いい苺を選んでいたら、

間に合わなかったってこと?


······




「どうぞ上がって!」


「いえ······もう帰ります。」


「夏芽!ほら!挨拶は?!」



ちょ、その振り方、乱暴すぎない?



「······」


「······」



気まずさ、MAX。

でも、確かに、挨拶は、しないと。



「······小野田、夏芽です。」


「······的野、唱磨。」



知ってんだろ。的な響きに聞こえたのは

気のせいだと思うけど。



「······Aの4番が、狂っとる。」



ぼそ、と聞こえた。


「えっ?」



頭を下げ、唱磨は踵を返して出ていく。



「あっ、待って唱磨くん!」



沙綾は呼び止めたが、彼は行ってしまった。


夏芽は呆然と、既に姿が消えている彼の

余韻を見送ったまま、立ち尽くす。




“······Aの4番が、狂っとる。”




雷に打たれたような衝撃だった。


声変わり中なのか掠れ声で発した、

彼の言葉は。


全身全霊を、抉った。




······えっ。どういう意味?




何を言われたのか、分からず。


彼の言葉に、支配されたまま。


新居での初日が、過ぎていった。








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