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S4−32


彼女が、ふわりと笑ったことで。


部屋の空気が、一気に和んだ。



「恭佑。夏芽さんを、よろしく頼むわね。」


「はい。」



間髪入れずに応答した彼は、夏芽に目を向けて

笑顔を送る。



「とても素晴らしかったよ。ありがとう。」



優しい声に乗って伝えられた

感謝の言葉で、目が潤む。


心が解れて、顔が綻んだ。



何に、ありがとうなのか。

でも、きっと。

先生たちのいる所まで進めたら、

分かるのかもしれない。



「スイートポテト作ったんやけど、食べん?」



スイートポテト!



「はいっ!」



文字通りの甘い言葉に、問答無用で

心を奪われた。



「私の分も、あるのかしら?」


「ははっ。勿論ありますよ。」


「紅茶も付けてちょうだいね。」


「はい。」


「俺は、コーヒー。」


「はいはい。」



心優しき勇者は、いそいそと

部屋を出ていく。



「甘い物と紅茶、大好きなのよ。」


「自分もです。」



橋本先生も、甘い物好きなんだ。

しかも、紅茶好き。えへへ。一緒じゃん。



その共通点に、自然と笑みが零れた。



「夏芽さん。こちらへいらっしゃい。」



ポンポン、と彼女は

すぐ側のソファーを叩いた。


緊張と怯えはもうないが、急にくだけて

接するというのは、正直躊躇う。


しかし。それを出さず、素直に

彼女の元へ歩いていくと、

隣に腰を下ろした。



フローラルな香りと、浮かべる微笑み。

今の彼女は、薔薇のように華やかだった。



”レッスンとプライベートのきりかえ

せんせいすごいけんな”



ふと、楽友の言葉を思い出す。



“それだけおまえにガチでおしえとっ

たってことやろ”



たった今、その意味がわかった気がする。



「福岡は良い所でしょう?」


「はい。美味しいものが

 いっぱいあって、困ります。」


「ふふっ。そうなのよ。私も、

 ここに来たらたくさん食べちゃうのよ。」


「また、いっぱい買って宅急便使うんやろ?」


「当然だわ。」



“自由気まま”な、橋本先生は。


しっかり道を歩きながらも、自分のことを

考えてくれていた。



「······先生。」



夏芽の呼びかけに、彼女は笑顔で応える。



「ありがとうございます。」



自分の、感謝の言葉は。


今まで、ピアノの基礎を作ってくれたことに。



「こちらこそ。お陰さまで、

 疲れが吹き飛んだわ。」



こんなに、明るく笑う人だとは思わなかった。



「まだ、聴き足りんっちゃけどな。」


「あなたは、本当にもう。

 全然変わらないわね。もう少し、

 労ってちょうだい。」



彼女は、嬉しそうに笑う。


その表情を、夏芽は目に焼き付けた。



これから、しっかり歩いていく為に。



















ティータイムは終始、ご当地の美味い物の話で

和やかに過ぎていった。


意気込んでいた気持ちは完全に解れて、

そのせいか彼女と一緒の部屋で

寝泊まりする事にも、違和感なく受け入れた。



その部屋は、彼女が泊まりに来た時

通される場所だという。


シングルベッドと簡易テーブルのみ

置かれていて、家具はなかった。

今夜は夏芽もいるからか、

床に布団が敷かれている。



「ベッドは、夏芽さんが使ってちょうだい。

 私は布団でいいわ。」




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