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S4−31


すぅ、はぁ、と、一呼吸して整える。



不思議と、緊張してない。

シンフォニアを弾いて、落ち着いたのかも。



両手を、ふわりと鍵盤に置く。



指先の震えも、全くない。

これなら、いつも通りに弾ける。





イメージは、陽だまり。



“歌うように”とありながら、表情は

“素朴で穏やかに”。


冒頭の主題は、最初

どういう気持ちで弾けばいいだろうって

悩んだけど。



大げさじゃなく、自然体で。


息をするように弾こうと思った。




誕生日を迎えた時に、見た夢を思い出す。



“なっちゃん”



大翔の笑顔。


お日さまみたいに、明るくて。



それを見るのは特別じゃなくて、

普通だと思っていた。

あの時までは。


急に、何も浮かべなくなって。

今では、どんなに見たくても

見ることができない。



大翔。いつ戻ってくるの?




穏やかな時間は、消え行くように過ぎる。




燃え上がる炎が、大翔を飲み込んで。


姿が見えなくなって。


探しても、探しても、いなくて。



大翔。はる。お姉ちゃん、ここにいるよ。


出ておいで。お願いだから。



必死に探しても、見当たらなくて。



絶望して、泣くことしかできなくて。



そばにいたのに、何もできなかった。

助けられなかった。

ごめんなさい。


ずっと、懺悔していた。





環境が変わって。


家族が、手を取り合うようになって。


少しずつ、進んで。




やっと、陽だまりが生まれて。


やっと、今を見ることができて。



これから何が起きるのか、期待して。



大翔が繋いでくれた、家族の絆。

何があっても切れないくらい、強くなった。

まだまだ、進行形。


大翔が戻ってきてくれたら、もっと強くなる。

だから、戻ってきて。

いつでもいいよ。待ってるからね。


諦めたりしないから。


ずっと、そばにいる。







静寂と繋がるように、演奏を終えると。


夏芽は、ピアノ椅子から立ち上がって

深々とお辞儀をした。



拍手が起こる。


それでやっと、ソファーの方へ

目を向けることができた。



楽友が立ち上がって、拍手を送っている。

その表情には、明るい笑みが浮かんでいた。


それを見て、頬が緩む。

身体中の力も、抜けそうになる。


何とか踏ん張って、両雄に視線を移した。



二人が、浮かべているものは。


とても穏やかな、笑顔。



「······ありがとう、夏芽さん。」



何に対しての、感謝なのか。

よく分からないまま、再度お辞儀で応える。



「これからも、弾き続けていくのかしら?」



前の自分なら。


この、橋本先生の問いかけを

マイナスに捉えて、

心が折れていたかもしれない。


今の、自分なら。



「弾き続けていきます。」



自分が進みたい道を、歩いていく為に。



「これからも、よろしくお願いします。」



自分の幸せを、伝える為に。


弾き続けたいと思う。




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