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S4−28



“スープが染み込んだやわ麺は美味かった”



それは、唱磨くんと橋本先生にとって

衝撃だったみたい。


自分は別に、狙って

やわ麺にしたわけじゃなかったけど。

結果として、良かったのかな。



ホント、めっちゃくちゃ美味しかったなぁ。


また食べたい。




的野家に向かう車内では、みんな

ラーメンの話で盛り上がっていた。


大翔は、相変わらずだったけど。

でも時々、身体を小さく揺らしていた。


コンサートの事を、思い出しているのかな。

見ていると、嬉しくなっちゃう。



橋本先生に対する見方が、完全に変わった。

前の印象は、きれいに崩れ落ちた。


逆に。


ピアノの話になったら、どうなんだろう。

まだ、触れていない。


あえて、触れないようにしている。

そう考えた方が、自然に思えた。



橋本先生が、ピアノの話を切り出さない事に。

誰も、聞こうとはしない。


それが、少しずつ緊張感を蘇らせた。

どうして触れないんだろう、と。



でも。もう。

怖いとか、気まずいとかいう感覚はなかった。



橋本先生は、きっと。

話す時間と場所を選んでいる。


じっくり、ゆっくり。浸る為に。














皆を乗せた車が、無事的野家に到着する。


車内がLEDの光で明るく照らされた後

すぐに、恭佑が頭を下げて言葉を発した。



「小野田さん!大変お疲れさまでした!

 今日は本当に、送迎してくださって

 ありがとうございました!」


「いえいえ!こちらこそ楽しかったです!

 いいドライブになりましたよ〜!」



父親同士がペコペコと頭を下げ合う中、

沙綾は後部座席にいる彼女の方へ

振り向き、丁寧に頭を下げた。



「本当に、とても、素晴らしい

 コンサートでした。橋本先生。

 招待してくださり、

 ありがとうございました。」



彼女は、応えるように

柔らかく微笑んで、お辞儀をする。



「こちらこそ、来てくれてありがとう。

 お陰さまで、とても楽しくて

 良いひと時を過ごせたわ。」



その言葉の後に、夏芽の方へ視線が向いた。


目が合った瞬間、ピリッとする。



「夏芽さん。今、ピアノは

 弾いているのかしら?」



その質問が、入り口のように思えて。


しっかり答えなければ、と

背筋を伸ばして口を開く。



「はい。弾いています。」



二人の、そのやり取りで。


車内の空気は、引き締まった。



ただ。しんとしたのは、一瞬だけで。


彼女が柔らかく微笑んだことで、

一気に和む。



「そう。それは、良かったわ。

 ······小野田さん。沙綾さん。

 お嬢さまをお借りしてもいいかしら。

 今晩、恭佑の所に泊まりなさい。」



その発言に、かなり浮き立った。



「わ、私たちは構いませんが······」


「ええ······的野さんがよろしければ、ですが。」


「勿論、構いませんよ。」



当然の流れというように、恭佑は

驚くことなく笑顔で受け入れる。



唱磨も、笑みを浮かべていた。


これから始まる時間を、期待するように。




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