S4−27
隣に座っていた大翔のどんぶりを見ると
綺麗に、“ありがとうございます”の文字が
浮かんでいた。
えっ。早っ。
「大翔さんに気に入ってもらえて、
良かったわ。」
そう言って満面の笑みを浮かべる
彼女のどんぶりも、綺麗に平らげられている。
焦って見渡すと、もうみんな食べ終わって
幸せのため息をついていた。
「美味しすぎたわ······」
「がっついちゃったな······」
「ははっ。僕もです。」
えーっ。みんな、食べ終わるの早いよぉ。
「まだ、食べ終わっとらんと?
あーあ。麺が伸びとるやん。」
夏芽のどんぶりには、まだ
三分の一くらいの量が残っていた。
しかも、最初スープばかり飲んだ影響が
出てしまい、麺の存在感が目立つ。
それを見て、残念そうな顔で
唱磨が言葉を投げたのだ。
「わ、わざとスープを吸わせたんだもん。」
なぜか思わず、変な意地を張ってしまった。
「まぁ。それは思いつかなかったわ。
やってみたかったわね。」
それに対して、まさか彼女が賛同するなんて
思いも寄らない。
「麺は、バリカタが美味いけん。」
楽友は、一歩も譲らない。
「食べてみないと分からないでしょう?」
「やわい麺とか、あり得ん。」
バチバチと火花を散らせている二人を
見兼ねて、恭佑が仲裁するように笑って言う。
「夏芽ちゃんに決めてもらおう。」
ジャッジが、自分?
みんなから注目を浴び、
食べづらさを感じつつ麺を啜る。
······うん。やわらかくなっても美味しい。
っていうか、めっちゃ美味しい。
「······かなり、アリだと思う。」
「納得いかん。ちょっと食べてもよか?」
箸を伸ばしてくる彼に、大きく動揺する。
「えぇっ?!だ、ダメっ!」
「こらっ、唱磨!」
「私も、いただきたいけど。」
「せ、先生までっ!」
二人に狙われてあたふたしていると、
小さく噴き出す声が聞こえた。
それに気づいたのは、夏芽だけではない。
沙綾と秀一も、その方向に目を向けて
驚いていた。
大翔が、笑った。
一瞬だったけど、間違いない。
「夏芽。食べんならくれ。」
「私も、いただきたいわ。」
状況に気づきもしない二人は、
恭佑に止められても構わず
強い要望を向けてくる。
堪らず、笑ってしまった。
大翔が、笑ってくれた。
今日は、ホントに、特別な日だ。
「そんなに食べたいなら、どうぞ。」
「よしっ!」
「よしっ、じゃなかったい!」
「ありがとう。」
「せ、先生っ!」
唱磨くんと橋本先生は、止まらない。
取り乱す的野先生が可笑しくて、
大笑いする自分に。
小さくだけど、笑う大翔がいる。
パパママも、泣きそうになっているけど
笑っていて。
店員さんも、笑っている気がした。
温かい。
なんだろう。この時間。最高すぎる。




