灼熱
真昼の太陽は容赦なく世界を焼き尽くしていた。
砂浜は白く、白すぎるほど輝き、その明るさが視界の端をじんわりと溶かしていく。遠くで海が小さく波打つ音がするが、それはまるで別の世界の音のように聞こえた。風は吹かず、空気は重たく、膨張しているかのようだ。
目を凝らして見つめれば、地面がゆらゆらと揺らめき、現実が熱に歪んでいた。
佐伯はその中を歩いていた。
無意識に足が砂を踏みしめるたび、音が遠くへと流れていく。
乾いた砂が皮膚に絡みつき、首筋を伝う汗が服の中に染み込んでいく。
彼の頭の中は空っぽで、ひとつの音も、ひとつの感情も浮かんでこない。
ただ太陽だけがそこにあり、強烈な光が皮膚と視界を無慈悲に侵食していく。
彼は立ち止まり、額の汗を手の甲で拭った。
視線の先には、白い光に揺れる遠くの岩場。
何もない。いや、ある。そこに一つの影があった。
岩陰から、誰かがこちらを見ている。
見知らぬ男だ。
短い髪に、浅黒く日焼けした顔。
男は腕をだらりと下げ、岩に凭れかかりながら、じっと佐伯を見つめている。
表情は読めない。
ただ、目だけがこちらを追っていた。
だが佐伯にとって、その男の存在は限りなく無意味だった。
海も、砂も、空も、男も、すべてが同じ光の中に溶け、見分けがつかない。
ただ太陽だけが、唯一の事実として佐伯の目の中に焼きついていた。
彼は無意識に右手を動かした。
銃だ。
黒い金属の塊が手の中に収まり、その重みが掌に馴染んでいく。
指が自然と引き金に掛かる。佐伯は何も考えない。
ただ光の中に浮かぶ銃口を見つめた。
光だ。
銃口が太陽を受けてギラリと反射する。
その一瞬、視界が鋭く刺されたように白くなる。
――撃て。
銃声が乾いた音を立て、白い砂浜の空気を裂いた。
遠くの海が一瞬静まり返ったように思えた。
男が、倒れる。
何が起こったのか理解できないまま、男の顔はゆっくりと地面に向かい、岩に擦れて止まった。
血が砂に染み、白い世界に暗い赤が広がっていく。
佐伯はぼんやりと立ち尽くした。
手の中の銃がまだ重い。
太陽は何も変わらず、同じように照り続けていた。
彼は目を細めて、その太陽を見つめる。
「眩しいな」
彼はただ呟き、そして歩き出した。
背後には、白い砂と赤い染みと、静かな海が残された。