03話 子供というのはとても不便なものですわ!
自分の部屋から出て、さっきの執事みたいな人が言っていた食事があるところへ向かっている。
俺は知らないが、昨日の"長身イケメンの生い立ち"と同様に、ララ本人の身体はどこに食事を食べれる場所があるか分かっている。
だから特別な意識はせずに、食事を食べるという事だけを考えて動いている。
部屋から出ると長く、そして広い廊下が眼前には広がった。
しかしその食堂は、ララが我儘なのか、それとも子供だからかそんなに遠くにあるわけではなかった。
…食堂二つ隣の部屋じゃん、ちっか!
さすがに食堂にノックは要らないだろうと、そのまま食堂に入る。
中に入ってすぐ、右側に先程の執事が居た。
ずっと待ってたのか…そりゃ失礼しました…。
縦長のテーブル、その一番手前の椅子に座る。
「おはようございますお嬢様。少々お待ちくださいませ」
「…おはよう」
まだララお嬢様の性格が掴めてない。
だから今挨拶を返してよかったのかもわからないんだが…。
待つ事数分、朝食が目の前に運び込まれてきた。
豪華…なのかはわからないが、どちらかと言えば健康にいい感じがする。
パン2枚に、これは野菜炒めか?あとスープだな。
毎日カップラーメンだった俺にとっては、これがめちゃくちゃ豪華に見えてしまう。
「いただきます」
しっかり"パンッ"と音を鳴らして手を合わせる。
さてさて料理のお味を確かめるとしよう。
まずはパンから行くか。
ッ!?こ、これは…
美味い!!!
とても美味い!!
普通に語彙力無くすレベルで美味いんですが!!?
ララの事も考えて念の為表情には出さないようにしたが、無意識に出てるかもしれない。
次はスープ…美味い!!
もしかして毎日毎食このレベルの食事が出されて食べられるのか!?
こ…これは長身イケメンの時よりもいいかもしれないな。
この間、一言も喋らず心の中で美味い!美味い!って叫びながら食べていた。
ここが静かだったからか、この食事を持ってきたメイドさん二人が少し離れた所でヒソヒソ話をしているのがかすかに聞こえた。
「…お嬢様、勉強も習い事もせずに遊びまわっているらしいわよ」
「えー嘘!?せっかく名家に生まれたのに…評判通りの問題児じゃない」
「言う事は聞かないし誰も捕まえられないから手を焼いてるって執事長が言ってたわ」
「フォンティーレ・エレクトラ家の面汚しとかにならなきゃいいけど…」
聞きたくもない悪口が聞こえてきた。
ララだったらどう思ったか分からないが、中身は28歳の大人だ。
そのメイド達をじーっと見つめながら、箸を進める。
数秒見つめていると、二人いたメイドのうちの一人がこちらに気付き、ヤバッ!という表情をして顔を逸らした。
それ以降、悪口は聞こえなくなった。
まったく、こういう美味い飯の前くらい静かに食べたいものだ。
ぶっーー!!?
え?え?え?
苦ッ!!?
流石に吐き出したりはしなかったけど、急に正体不明の苦みが俺を襲ってきた。
何今の…!?俺今何食べた!?
視線を朝食に移し、今食べたものは何だったのか見てみる。
野菜だった…。
あー、"子供舌"だ。
俺はこんくらいの野菜なら子供の時でも食べれたから無意識に箸を運んでいたけど、今の身体はララ・フォンティーレ・エレクトラお嬢様。
我儘だっていうくらいだし、好き嫌いも多いんだろうなー。
そう考えると子供って不便だよな?
舌が未熟なせいで大人になるまで、いや下手したら苦手意識でこの野菜が美味いんだってことに気付くのがもっと遅くなる。
食わず嫌いとかもそうだよな、可哀想にー。
……。
まあララは苦手だろうけど、ここは我慢して黙って食べる。
絶対健康にいいし、食べ続けてれば美味くなると思って頑張って食べようか。
「ごちそうさまでした」
さっきと同様、"パンッ"と音を鳴らして手を合わせた。
食器はさっき陰口をたたいていたメイド二人が気まずそうに持って行った。
この後…というより今何時なんだろう?
まあいいか、とりあえずいろいろ調べなきゃいけないな。
この世界とか、ステータスの事とかをな。
一級貴族っていうくらいだし図書室くらいあるだろ。
また何も考えなければ行けるかな?
ここに入ってきた時と全く同じ場所に居た執事に軽く一礼してここを出た。
あのララお嬢様が…文句ひとつ言わずに食事を取ってらっしゃった…!?
それに、陰口を叩いたメイド達にも何も言わず、私に対しても敬意を示された…!!
お嬢様…成長なされましたね…。
執事長の好感度 ?? → ?? 3ポイントアップ
さて、無意識に歩いては来たんだが…この屋敷広いな!!?
ララじゃなかったら迷ってるぞこれは…。
広い廊下に出て、ララの部屋とは逆方向にまっすぐ進む。
つきあたりの階段を一つ降りて、そのまままっすぐ進む。
右の窓を見ると庭…なのかな?それが見える。
とても広い、それこそララが走り回れそうな広さだ。
真っ直ぐ進んだその先に、大きな扉が出てきた。
少し重たいこの扉を開ける。
先に数段下に降りる階段、しかしその眼前には大量の本が本棚に並べられている。
当然本棚の数も多い。
これ一つの家にある本の量じゃないよね?
軽く金取って図書館運営できるくらいありますねこれ。
よし、こんだけあれば大丈夫だな。
手元には分厚い本が10冊ほどある。
さっきこの図書館を管理しているであろうメイドさんに
"この国の歴史が書いてある本"と"ステータスについての本"を一通り持ってきてもらうように頼んだ。
なんかめっちゃ驚いた顔してたけど…。
どうせララの事だから図書館に来ても走り回って遊んでるんだろうなぁ…。
あとかくれんぼとかもしてそう。
えーっと?
まずは歴史書から見てみるか。
マイルン帝国。
今から1500年ほど前、マイルン島にあった様々な国々を統合した長い歴史を持つ国。
身分は王族・一級貴族・二級貴族・三級貴族・平民・奴隷がある。
奴隷なんてあるのか…。
貴族階級の違いは、基本王族によって定められている。
一級貴族はかつてマイルン帝国になる前の国々の王族一家から、もしくはこの1500年の間に王族に貢献した一家である。
二級貴族はマイルン帝国が建国された後に王族によって選定された者達の一家が多く残り、三級貴族は平民出身の貴族である。
この世界は約500年ほど前より"ステータス"によって支配され始めた。
…だいぶ端折ったけど、こんな事が書いてあった。
へぇー、つまりフォンティーレ・エレクトラ家はもともとどっかの国の王族だったって事なのかな?
それとも王族に貢献してきたのか…どっちなんだろ?
まあ今はいいか。
基本的な概要が分かれば十分だからね。
他の歴史書も同じような事か、統合される前の国々の歴史が記されていた。
あ、フォンティーレ王国ってあるわこの本!
じゃあ王族だったんだなフォンティーレ家は。
「ララ様、ここにいらしたのですね」
「うえっ!!?」
急に声がして思わず変な声出しちゃった…。
いつからそこに居たのかわからないが、無表情なメイドだった。
当然ララはこのメイドを知っている。
彼女はララ・フォンティーレ・エレクトラの専属メイド、ルミー・ソルトエイだ。