01話 これは一体…どういう事ですの!?
どれくらいの時間が経った?
俺の中では一日の睡眠感覚だった。
そのせいか、どうも布団の中に居るような感覚だ。
ゆっくりと目を開けてみた。
ウッドハウスのような薄暗い木目の天井だ。
もちろんさっきの空間で俺は寝てなかったという事も言っておく。
「知らない天井だ…」
はい、言いたくなっただけです。
でも事実なんだよな、本当に知らないからな。
「おー!あんちゃん目ェ覚めたか!」
どこからか声が聞こえてきた。
ここからは見えないな…少し身体を起こして様子を見てみる。
ここは寝室らしい。
俺が今寝ていたベッドの他に、もう二つ同じベッドがある。
部屋の扉が開いていて、一人のおっちゃんがこっちへ向かってくる。
さっきの声の人か…てかその遠さでよく俺が目覚めたって分かったな…。
多分何らかのスキルで気づいたんだろうな。
「おー無事に目ェ覚ましたか!心配したぜ、道端で倒れてたんだからよ!」
森の中?そういえばあの神様、『固有スキル』と『生い立ち』はランダムって言ってたな。
えっと…どうすればわかるんだ…?
しまった…この辺の事詳しく聞けばよかった…。
「名前ーなんていうんだ?」
「あ、ああ。ホソマチ・ユウマだ」
「へェー、この辺じゃー聞かねえ名前だな!」
今のうちに思い出せ、俺の『生い立ち』…!!
はっ!!?俺の脳内に電撃が!!!?
こ、これは…俺の【記憶】…!!!
俺はホソマチ・ユウマ、長身イケメン冒険者で剣士だ。
俺は今俺がいる町、ハイソレーションの近くに強レベルモンスターが現れるという噂を聞いてやってきた。
しかしここまで来るのに道が険しすぎて俺の『固有スキル』を使用してしまった。
そのせいで近くまで来たもののMP切れで気絶してしまったのだった…。
いやダッサ!!?
俺の固有スキルってそんなヤバいものなの!?
後で確認しておくか…。
「お前さん、どうせ森に出るあのヤベーモンスターを倒しに来たんだろ?」
「あーはい。そうですね」
いかん、普通に目を逸らしてしまった。
ニートじゃなかったのは幸いだが、それでも極力他人と関わらないように生活していたからか?
コミュ障じゃない自覚はあるんだがな…。
「今日はもう夕方だ。探索は明日からにしろよ!金は要らねえからな!」
え、めっちゃいい人やん。
…つまりここはRPG系ゲームでいう宿屋か。
「夕飯だったらこの近くの屋台でいろんなモン売ってるからそこで買ってきな!」
「あっ、はい」
大丈夫かこんなんで…。
まままま、まあ?この為の対人好感スキルか?
だから大丈夫だと信じる…信じるしかない…。
宿屋を出てすぐ、明かりが見えたからそっちに向かってみたところ…。
「はーいいらっしゃーい。焼き鳥が安いよ安いよー」
「ハイソレーション名物!レアモンスター肉だよ!!」
「飲み物はこちらからどうぞー!」
大型ショッピングセンターにあるフードコートが全部屋台になった感じになっている。
そんなに栄えてる町ではないが人は多い。
だから屋台も多い。
夕飯を探すのはもちろんだが、まず美人を探すか。
いや超絶美人にこだわる必要は無い、俺のスキルは対人好感だからな。
「_____ですか?値段あってますよね…?」
「はあ!?おめーらハイソレーションの恥さらしだろうが!!そんな奴ら倍だ倍!!」
「そんな…」
女性の困った声が聞こえたな?
どうやら屋台の傲慢そうなオッサンが若い女性に向かって怒鳴り散らしているのが見えた。
他の人は関わりたくないのか、一度は見るものの足早に去って行く。
若い女性は…おお、綺麗な人じゃないか…!!
その横には…妹さんか?小さな女の子と手を繋いでいる。
あの綺麗な人を助ければ好感度アップしまくりなのでは!?
いやしかし、俺があんなオッサンに敵うのか…!?
いいや、モテる為だ!!うまく視線を合わせなければいいだけだ!!
「お願いします!妹のぶんだけでいいので…」
「そんな事言われても駄目だ駄目!!倍の金額払えないんだったら帰った帰った!!」
「すみません、これで足りますよね?」
俺と女性と妹さんらしき女の子、3人の金額を倍にした金額をバンッとオッサンの目の前に叩きつける。
「あ、ああ!?なんだお前「足りますよね?」ああ!!た、足りてるよ…」
余計な口を開くんじゃねーよ、と言わんばかりの威圧をオッサンに押し付けた。
オッサンは俺には勝てないと踏んだのか、定価分だけ受け取って残りのお金は全て返してくれた。
一体何を倍にして売ろうとしてたんだよ…。
オッサンはバツが悪そうに目を逸らしながら売ってるものを渡してきた。
…ってアイスかよ!!
アイス200Gって高くね?その倍だから400G×3で…うわぁ、割に合わねえ…。
しかし倍とはいえ、800Gを払えないのはどうなんだろうか…?
1円=1Gじゃないのか、それとも800Gでも高い方なのか。
「あ、あの…!!」
「はい?」
「さっきはありがとうございます!」
振り返るとさっきの女性が頭を下げていた。
これはこの人と仲良くできるチャンスでは…でもちゃんと話せるか…?
ええい、初対面だなんて知った事か!!
「おかげで助かりました。私、ローリーと申します」
めっちゃ綺麗な人なのにすごく可愛らしい名前だな。
うん…?彼女の頭の上に78という数字が見える…。
もしかして…!!
これが好感度の数値って事か!!?
え、上限が100だとしたら、だいぶ高くね?
もしかしてさっき助けたからか!?
「あの…お名前は…」
恐る恐る聞いてきた。
「ああ、ホソマチ・ユウマだ。冒険者だよ」
「ここら辺では聞かない名前ですね。どこから来たんですか?」
俺は先ほど脳に電撃が走った『生い立ち』を話した。
すると彼女は驚いた顔で
「そんな遠い所からですか!?すごいですね!!」
そんなビックリされても困る。
俺自身はさっき目覚めたばっかだからな!
「冒険者だから、そんなのは大したことじゃないよ」
「あの…しばらくこの街におられますか…?」
どこかモジモジしながら聞いてくる、可愛いかよ。
しかし、どうして急にそんなことを…。
と思った時、彼女の頭の上に合った数値が変化している事に気付いた。
78から80に増えている…だと!?
確か効果はこのスキルを身に着けているだけで何らかの行動から好感度が上がるだったか?
一体全体何の行動が彼女の好感度ポイントを上げたんだ!!?
「ああ、しばらくは居ると思うよ」
恐らく彼女が欲しがっているであろう回答を返した。
それで数値は…。
80…82…たった今…2ポイントも上がった…!!
やはりそう言う事か!
つまりやろうと思えばハーレムも可能という事だ!!
「わかりました!すみません、私は用事がありますので…また明日!」
手を振りながらローリーちゃんは去っていった。
思わず俺も手を振り返しちゃったな…。
妹さんはずっと俺を見ていただけだった。
あの後俺もちゃんと夕食を買い、宿屋に戻った。
宿屋のおっちゃんは今日一晩は無料で部屋を提供してくれるとの事だった。
本当に金払わなくていいのか聞いたが、人助けしといて金払わせるのは宿屋の男気に欠けるからだそうだ。
マジカッコイイッス、おっちゃん…!!
夕飯を食べ、布団に入る。
明日、またローリーちゃんに会えるだろうし、冒険者としての一日も始まる。
楽しみだな、自分の剣の実力も知りたいところだ。
あっ…。
固有スキル確認するのを忘れたな…。
だが眠気には勝てず、俺はそのまま眠りについた。
…なんだろう、昨日感じたベッドの布団の肌触りが違う。
とてもふわっとしていて…それでいてとてもいい匂いがする。
眠いながらも外の明るさを感じ、ゆっくり少しずつ目を開ける。
……。
知らない天井だ…。
いや、2回目は笑えないだろって?
違うんだ、本当に昨日見たウッドハウス風の天井じゃない。
なにで出来てるのかわからない白い天井だった。
ふわふわもふもふの布団をまくり、身体を起こす。
・・・・・・。
あれ?ここどこだ?
一言で端的に表すのなら、とても豪華な洋風屋敷の一室というか…。
しかも、昨日よりも何故か視点が低い気がする…。
そして股間付近に違和感が…。
「えっとー…」
うんん!!?
今の女の子の声はどこから!?
なんかとてつもなく近かった気が…。
周りを見渡した際、勢いよく首を振って見えた髪の色が違った事にも気づいた…。
金髪…か?
男の時は特に意識してなかったが茶髪だったはずだ…。
ま…まさか…!!
勢いよくベッドから飛び出し、この部屋にあった大きな鏡の前に行く。
そこには…そこそこ長い金髪、赤い瞳、何より…。
とても小さな身体…そして…、女の子だと!!?
俺…女の子になってるのか…?
いやいや、そんなはずはない。
これは夢だ夢、もう一度寝れば俺は元に戻っているはず…。
もう一度ベッドで横になり、布団をかぶった。
・・・・・・。
目を閉じ…願うように自分自身に目を覚ますように念じた。
が、何も変わってない…。
ここで俺は自分の身体をペタペタ触ってみる。
明らかに長身イケメンの時とは違う長い髪、ぷにぷにのほっぺ…。
胸のごつごつさは筋肉質じゃないだけであまり変わらないが、特に違和感を感じた股間付近…。
・・・・・・。
無い…!無い?…ない!!?
な…な…
「なんじゃこりゃあああああぁぁぁ!!!!」
とても可憐で、可愛らしい女の子の悲鳴が屋敷内をこだました。
とても女の子とは思えない…口調で…。