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白の奔流

ソーンヴェイルの魔力が空間を歪め、風の遺跡全体に狂気と憎悪が満ちる。だが、それでもアルノアは一歩も退かない。


 「もう、温存してる場合じゃないな……!」


 ソーンヴェイルの強さは圧倒的だった。精霊を嫌悪し、滅ぼすためにその力さえ利用してきた彼は、皮肉にも精霊との適応率が異常に高い。戦いの中でさらに魔力が研ぎ澄まされていく。


 アルノアは息を整え、己の中の存在へと問いかける。


 ――エーミラティス。聞こえるか?


 心の深層に白い炎が灯る。応えるように、力強く、重厚な声が返ってきた。


 《聞こえている。ならば全てを解き放て、我が力を、お前の剣とせよ。》


 アルノアの目が白く輝いた。全身から噴き出す白い魔力。空間が震える。


 「行くぞ、エーミラティス! 顕現せよ――戦神よ!!」


 凄まじい閃光と共に、アルノアの背後に白き戦神の姿が重なり、彼の身体へと流れ込む。エーミラティスは遥か昔、破壊神と戦った存在。神々の戦の記憶をそのまま宿した“戦そのもの”。


 アルノアの愛用の大鎌・黒穿が変質し始める。刀身は白雷と白氷が混じり合い、剣ではなく“神の刃”のように。轟音と共に、大気が震えた。


 「これが――俺たちの全力だッ!!」


 戦神の魔力を宿したアルノアが駆ける。彼の一振り一振りが空間を裂き、ソーンヴェイルでさえも反応を遅らせるほどの速度と威力を秘めていた。



アルノアの全力解放――エーミラティスの顕現によって戦場の空気が一変した。だが、それだけではない。


 「行くぞ、俺も――!」


 リヒターが両手を広げ、空へと叫ぶ。周囲の空気が唸り、天から雷雲が渦を巻くように出現する。


 「暴嵐烈破ぼうらんれっぱ――!!」


 彼の周囲を巻く風は、もはや自然の域を超えていた。暴風が一瞬で魔力の竜巻へと変貌し、空と地を繋ぐ柱と化す。その中心に立つリヒターは、雷と嵐の神子のごとく、無数の風刃をまとって宙を舞った。



 学園での因縁、その時に見せたリヒターの力。今のリヒターはその時の自分を遥かに凌駕していた。風の遺跡で得た加護が、彼に嵐を自在に操る力を与えていた。


 そして――


 「今よ、精霊たち!」


 シエラが前に出る。風、光、水、雷……複数の精霊が彼女の周囲に次々と姿を現す。そのすべてが今まで以上に強く、澄んだ輝きを放っていた。


 「同時詠唱――展開!」


 いくつもの魔法陣が彼女の足元と空中に展開し、連鎖するように精霊たちが舞い上がる。それぞれの魔法が干渉し、まるで一つの巨大な術式のようにソーンヴェイルを包囲していく。


 「精霊が……共鳴している?」ソーンヴェイルが眉をひそめた。


 そして――


 アルノアが、先頭を切って駆けた。


 その姿はまさに白き戦神。エーミラティスの力と融合したアルノアの大鎌が、空間すら裂く一閃を描く。


 リヒターの嵐がソーンヴェイルの動きを縛り、シエラの精霊術が彼の魔力を蝕む。


 「俺たちで、お前を倒す!」


 三者三様の力が交差し、戦場はまるで神話の戦争の再現のような様相を見せていた――。



押されていた――それは確かだった。アルノアたち三人の力は、個としても強大であり、連携においても隙がない。リヒターの嵐が自由を奪い、シエラの精霊術がソーンヴェイルの魔力を鈍らせ、そしてアルノアの白き斬撃が容赦なく核心へと迫っていた。


 だが、ソーンヴェイルの口元が笑みを浮かべる。


 「……強いな。なるほど、確かにあの会議で話題に上がるわけだ」


 アルノアが一瞬、眉をひそめた。


 「……会議?」


 「霞滅の内々でな。『要注意人物』として、お前の名前は挙がっていた。記録に残っていないが、常に異常な力を発揮する謎の存在……お前のことだよ、アルノア」


 白く輝く彼の姿を見ながら、ソーンヴェイルは静かに続ける。


 「そして……他の二人もだ。リヒター、嵐を統べる者。シエラ、精霊の導き手。なるほど……強者の元には強者が集まるというわけか……面白い。なら、俺も――見せてやろう」


 その言葉と共に、ソーンヴェイルの体から黒と緑の混じった異質な魔力が噴き出す。


 「――融合を強める。罪の茨よ、解き放て」


 彼の背後から現れたのは、禍々しいまでの自然の異形。罪のつみのいばらと呼ばれたその力は、まるで生きているかのように蠢く巨大な棘を持つ蔦。


 一本一本が大蛇のようにうねり、地面を裂き、空間を切り裂きながら勢いよく伸びていく。


 「これは……っ!」


 リヒターの嵐すら押し返すほどの勢いで茨は迫り、シエラが展開していた魔法陣の一部が破壊された。


 「これはただの精霊術じゃない……!」シエラが目を見開く。


 「そうだ。これは、精霊への“復讐”によって生まれた力――精霊の怒りでも、加護でもない。ただ、罪を刻むための力だ」


 地を這い、天を裂き、茨は広がる。そのすべてがソーンヴェイルの憎しみの具現。


 「精霊の力を使って、精霊を滅ぼす。皮肉だろう? だが、これが現実さ。俺はそのために、すべてを捧げたんだ!」


 戦場は一気に反転する。この力――“罪の茨”の出現によって。


 そして、アルノアたちは初めて本当の意味で、ソーンヴェイルという男の“核”を目の当たりにするのだった。


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